ゆっくり育てばいいじゃない
初瀬基樹
ADHD、LD、アスぺルガー症候群・・・いろんな障がいのことが知られるようになってきました。平成14年に文部科学省が通常学級の担任教師を対象に行なった調査によると、「知的発達に遅れはないものの、学習面や行動面で著しい困難を持っている」と担任教師が回答した児童生徒の割合は、全体で6.3%にのぼったとされています。30人に1~2人はいるということになります。
保育関係者の間でも、「はっきりと障がいがあるとは言えないけど、ちょっと気になる子」、いわゆる「グレーゾーン」の子どもたちのことがよく話題に上ります。昨年、熊本市保育園連盟が行なった調査においても、「障がいが認められて補助対象となっている子どものおよそ2倍近くの子どもが援助を必要としている」という結果が出ました。
近年、何らかの影響で、こうした子どもたちが実際に増えてきているのか、それとも、これまでこうした障がいのことがあまり知られていなかったために数として表れていなかっただけなのか、はっきりとはわかっていませんが、調査の数としては、確実に増えてきており、学校や保育園等でも研修の機会が増え、そうした子どもたちへの対応に専門性が求められるようになってきました。
こうした子どもたちへの対応の難しさは、「障がい」が原因なのか、「性格的なもの」なのかの境界が、はっきりとわからないことです。ある本では、「夜なかなか眠れない人は『神経質な性格』といえるが、程度が重ければ『不眠症』という病名が付くのと同じ」とありました。
原因もまだよく解明されておらず、「わがままな子」とか「親のしつけが悪い」など誤解されやすいのですが、「生まれつきのもの」なので「治す」という対象のものではないのです。「本人の行動を修正する」というよりも、むしろ、「周りがその子の特性をよく理解し、どのように接していくのか」が重要になってきます。
例えば、俳優のトム・クルーズはLD(学習障害)であり、文章を読むことに困難を持っていて、読んでも意味が理解できず、覚えることも出来ないのですが、台本を人に読んでもらい、テープに録音して聞いて理解してセリフを覚えているのだそうです。
世界には、こうした障がいを抱え、育ちにくさ、育てにくさがあったにもかかわらず、偉業を成し遂げた人たちも大勢います。
エジソン、アインシュタイン、モーツアルト、坂本竜馬などは、今で言うADHD(注意欠陥・多動性障害)であっただろうと言われていますし、先ほどのトム・クルーズや黒柳徹子はLD(学習障害)を自ら告白しています。また、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツや、織田信長などは、アスペルガー症候群だったのではと言われています。
発明家のエジソンの場合、学校を3ヶ月で退学し、父親からも見放されましたが、エジソンのお母さんは根気よく丁寧にかかわり、エジソンの「なぜ?なぜ?」にとことん付き合ったのだそうです。そのうちにお母さんはエジソンに科学の才能があることを知り、自宅の地下室を実験室にしてエジソンに与えたそうです。また、日ごろから「人間は人類のために努力して生きなければならない」ということを熱心に教えていたそうです。後にエジソンは「母ほど自分を認め、信じてくれた人はいない。それなくしては、決して発明家としてやっていけなかった気がする」という言葉を残しています。
このように、こうした子どもたちに対して、他の子に比べて「欠けた所がある」と見るのではなく、現実のありのままの姿を受け入れ、「この子の発達のために、どんな手立てが必要で、周りの大人には何ができるのか」を考えることが大事だと思います。そして何より大切なことは、「無条件の愛で、丁寧に、根気よく、その人の成長を信じ、支える人がいる」ということです。
私たち保育者には、障がいを治すことはできませんが、周りの子を含め、大人も一緒にみんなで育ち合いながら、楽しく幸せな保育園生活をつくっていくことは出来ると思っています。
障がいの有る無しに関わらず、ただでさえ今の世の中、「人より早く!」、「人より上に!」と子どもに期待をかけ、早くからいろんな習い事をさせたり、「がんばれ、がんばれ」と早く成長させようと急かすような風潮がありますが、その子その子の特性に応じて、その子に合った方法で、ゆっくり成長するのを楽しみながら、じっくり待つことはできないものでしょうか。
せめて保育園の間ぐらい、子どもらしくいられるように、子どもが自分のやりたいことをとことんやらせてもらえるような環境が整えられたらいいなと思います。周りの大人は「ゆっくり成長すればいいんだよ」と温かく見守ってあげる。結果的には、そうすることが、子どもの「内側からの力を引き出す」ことにもつながるのではないかと思います。
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