話し方を見直す


初瀬基樹
  

 「忙しい」という漢字は「心を亡くす」と書きますね。漢字ってよく考えられているなあとつくづく感心します。年度変わりは特に忙しく、自分でも「忙しくて余裕がないなあ」と感じていました。「あれもしなきゃ」、「これもしなきゃ」と思っているところに、さらに「あれも、これも」と仕事が増え、とにかくイライラしていることが多く、職場でも妻と一緒なので、仕事のことでも、ささいなことで夫婦喧嘩になってしまったり、家に帰ってからも子どもたちに当たったりしてしまっていました。「冷静に!冷静に!イライラしていても自分にとってはマイナスでしかない」と自分に言い聞かせながらも、自分ではどうしようもない状態だったのです。

 そんなある日、やっぱり妻とケンカになり、「あなたは私の話を最後まで聞いてくれない!ちゃんと聞かずに思いこみで自分の意見ばっかり押し付ける!」と言われました。さらに、同じころ、長女からも「この家にはだれも私の気持ち分かってくれる人がいない。もう何も言いたくない!お父さんの言うことは正しいのはわかるけど、私には納得できない。思ってることを言えっていうけど、言ったって無駄だから、もう何も言わない!」と言われました。この妻と長女からの言葉は、私の胸にグサリと刺さりました。でも、今思えば、そのおかげで自分を振り返ることができたようにも思います。「今の自分は、まさに心を亡くしている。ひとの話をまったく聞こうとしていない」ということに気付いたのです。これではいけないと思いました。
 
 そんなとき、私の尊敬する汐見先生の著書に書いてあった「いいコミュニケーションのための4つのステップ」を読んで、とりあえず実践してみようと思ったのです。

① 聞く・・・相手の話をまずはしっかり聞く

② 共感する・・・相談されてもアドバイスをせず、「そうか」「なるほど」とまず共感する

③ 考える・・・そして「どうしたらいいと思う?」と一緒に考える

④ 励ます・・・「応援するからがんばれよ」と励ます


 というコミュニケーションの方法です。

 「聞く」のK、「共感する」のK、「考える」のK、「励ます」のHをとって、「KKKH方式」と名付けられたこのステップを意識して会話をしてみようと心がけるようにしたのです。

 とにかく、誰かと話しをするときは、頭の中で「KKKH、KKKH(聞く、共感、考える、励ます)」と唱えるようにし、「まずは、ひとの話をきちんと最後まで聞こう」と心掛けました。すると、今まで、話し半分しか聞いていなかった自分がよくわかりました。まだ、ひとが話している最中なのに自分の思ったことがすぐに口から出そうになるのです。職業病でしょうか、「何かしらアドバイスしなきゃ」という強迫観念のようなものがあるのかもしれません。ですから、ちょっとそれを我慢して、頭の中で「KKKH(聞く、共感、考える、励ます)」と唱えながら、自分の言葉を飲み込んで、しっかり相手の話を最後まで聞くようにし、相手の立場を考えて共感しようと心掛けるようにしたのです。すると、不思議とイライラすることもかなり減り、相手の言いたかったことがわかるだけでなく、自分の言いたかったことも整理して伝えられるようになり、お互いが不愉快な思いをすることなく、いいコミュニケーションがとれるようになることを実感しました。
 
 「話す」には「放す」という意味もあるということを聞いたことがあります。思い悩んでいるときでも、人に話すことによって、心が解放される(=放す)のでしょう。相手の心が解放されるまで、「しっかり聴く」ということが基本なんだな、「まずは思いをすべて出せるように」という子どもと接するときの基本と同じだなと改めて思ったのでした。

 誰にでも、生理的な波や精神的な波があると思うので、いつもいつもうまくいくとは限りませんが、この「KKKH方式」一度試してみませんか?


 参考文献: 
  汐見稔幸 『 夫婦力  夫の「話し方」で夫婦はこんなに変わる 』 岩崎書店




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