改めて、保育制度について


初瀬基樹  

 
 先月の「からたち」で、保育制度改革について「制度改革(改悪)には反対!」という立場で書いたばかりなのですが、先日行われた園長研修会で吉田正幸さん(幼児教育・保育専門誌『遊育』の代表取締役兼発行人。現在、厚生労働省・社会保障審議会少子化対策特別部会委員でもあり、他にも色々な委員を兼任されている方です。)の講演を聴き、「あれ?そうなの?」とこれまで私が誤解していた部分も多かったので、改めて、先月のものに補足するような形で訂正をさせていただきたいと思います。

 まったくお恥ずかしいというか、政治のことに無知である自分が情けなくなります。


 さて、先月のお便りでは「国は保育の世界に市場原理を持ち込もうとしている!」と批判していたのですが、それは正しくは、「国」は「国」でも「内閣府」の「経済財政諮問会議」や「規制改革会議」の人たちが言っていることでした。そして、保育所を管轄している「厚生労働省」のなかで、今回の制度改革を考えている人たち「社会保障審議会少子化対策特別部会」は、もっとまともな考えを持っているということがわかりました。

 詳しくお知りになりたい方は、社会保障審議会少子化対策特別部会の「次世代育成支援のための新たな制度体系の設計に向けた基本的考え方」をご覧頂くとよいかもしれません。(・・・私などはこの名前を見ただけで読む気をなくしてしまうのですが・・・)
 

 少子化対策特別部会では、まず、「すべての子どもの最善の利益」を最優先に制度を考えているとのことでした。子どもの利益(ここでは保育)が家庭の経済力や状況に左右されることがあってはならない。例えば、貧困家庭であっても、一人親家庭であっても、親の就労形態がフルタイムであっても、パートタイムであっても、親が昼間働いていても、夜働いていても、子どもに障がいがあっても、地域や親、家庭にどんな問題があったとしても「子どもに責任はない」のだから、「どの子も等しく必要な保育を受けることができるようなシステム」でなくてはいけない。現行の制度では、不平等が生じているのも事実。(例えば、日曜や祝日、あるいは夜間働くことを常としている人が保育園を利用する場合など、通常の保育料に上乗せして延長料金などを払わなくてはならないなど・・・)また、子育てが難しくなっている現代では、親の就労形態だけで保育の必要性を判断するのは難しい。

 そこで、現行の「保育に欠ける」要件だけでなく、「希望するすべての人が安心して子育てしながら働くことができる」ように、そして、それを基本としながら「多様な選択ができる仕組み」に変えていかなくてはならないと考えているようです。

 しかし、保育所の「数や時間」だけ増やして、保育の「質」が落ちるようなことがあってはならないので、「保育の質を充実させながら、量を増やしていかなくてはならない。」そのためには、やはりお金が必要であり、利用する人だけが負担するのではなく、「未来への投資」として、企業などにも負担してもらえるようなシステム、「社会全体による負担」で支えあう必要がある。つまり、「税を基本とした財源の確保」が必要であると考えられているのです。これまで言われていた「お金をかけずに市場原理に委ねて、保育所それぞれに競争させれば質も向上するだろう」というような乱暴な意見ではないことがわかり、少し安心しました。「お金をかけずにお互いに競争させて安上がりの保育システムに・・・」というのは内閣府の「規制改革会議」等が言っていることなのです。これに対しては、厚労省も反対の立場にあったのです。


 そもそも、内閣府の審議機関(規制改革会議等)は、「福祉」のことより「経済」を中心に考える機関なのです。ですから、今後、日本の労働力人口が減少することを心配し、(人口減少に加え、ニートなど定職につかない若者の増加などの問題も含めて)、若者、女性、高齢者など、すべての人が働くことのできる環境を整え、「労働力人口の減少をある程度抑えよう」というのが狙いであり、そのための一つとして、「女性が結婚、出産、子育て中であっても働けるように」するために保育所の数を増やすことが必要だと考えているのです。「労働政策」としての視点が強い「新待機児童ゼロ作戦」なのです。「質」よりも「量」を優先しているのです。

 
 それに対し、厚労省は、「今の日本の社会の働き方そのものから変え、仕事と生活のバランスをとろう(ワーク・ライフ・バランス憲章)」、また「仕事もしながら、結婚、出産、子育てもしっかりできるようにしよう」と考えているのです。市場原理の導入には反対の立場であり、保育の「質」も充実させながら「量」を拡大していく、そのためにはきちんとした「財源が必要である」と言っているのです。しかも、「全国どこにおいても一定水準の保育機能が確保され、質の向上が図られること」とか、「市町村の介入も必要である」こと、「都市部の問題だけでなく、過疎地域においても保育機能や子育て支援機能の維持向上が図れるような適切な支援が必要である」ことなども考えられており、これらを実現するためには、現行の保育制度のままでは限界があるので改革していかなければと考えているのです。このままいけば、あと10年もすれば保育園は悲惨な状況になってしまうだろうし、そうなれば、子どもたちや保育園を必要としている家庭はもっと悲惨なことになる。そうならないためにも改革が必要だというのです。


 紙面の都合で詳しくは書きませんが、私たちが心配している「直接契約制」とは違う契約制の在り方等についての話もあり、私にはそれも納得できるものでした。私たちが心配している「直接契約制」とは、行政が関与せずに、「保育所」と「利用者(保護者)」の間で直接契約を結んでお金でサービスを売買するというものです。これでは貧困家庭や問題のある家庭の子どもなどが保育を受けられなくなってしまう可能性もあります。

 それに対し、今少子化対策特別部会が考えているのは、「行政」が、「利用を希望する家庭」に対し『どれぐらい保育が必要なのか』を判定し、「利用者」は多様な選択肢のなかから、必要な保育を等しく受けることができ、「保育所」は保育した分だけ補助金(運営費)が受けられるようになるという仕組みなのです。

 要は、「行政、保護者、保育園の三者がトライアングルを組み、それぞれの立場で協力しながら、子どもを守り、育てていく」という仕組みに変えていく必要があるのです。まだ、よくわからない部分もあるのですが、大方賛成できる内容だと私は思います。もし、本当にそれらが実現するのであれば、すぐにでも、と思うのですが、仮に吉田さんが話されたこの改革案が通ったとしても、実際に施工されるまでには、早くても3年から5年はかかってしまうのだそうです。


 私などは、つい先日まで「厚労省」も「内閣府」も混同して、「国が・・・」などと誤解してしまっていましたが、よく勉強しなければいけないなと痛感いたしました。

 今号にしても、私自身の理解も不十分なままなのに、お便りでお伝えするのはどうかとも思いましたが、とりあえず前号のままではまずいと思いましたので、改めて書かせて頂きました。またしっかり勉強して、機会があれば、しっかりお伝えできるようにしたいと思います。




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