保育制度が変わる!?
初瀬基樹
このところ署名のお願いが増えたりして、お手数をおかけしております。毎回たくさんのご協力ありがとうございます。
さて、ご存知のとおり、わが河内町は過疎化が進み、少子高齢化が急激に進んでいます。最新の統計(河内校区だけの統計ですが)では、2008年10月1日現在、人口は4700人程度です。インターネットで検索できる範囲でこれまでの町の人口推移を見ると、この10年ぐらい毎年のように約100人単位で減少してきています。
また、年齢別人口(3区分)を見ると、15歳未満が11%、15歳以上65歳未満は57%、そして65歳以上は31%という超々高齢社会でもあります。(※通常は65歳以上の割合が14~21%を「高齢社会」と呼び、21%~「超高齢社会」とよばれているのですから、31%というのは「超々高齢社会」と言えます。)しかも、わが町の場合40歳代以上が70%を占めているのです。
そんなわけで、保育園も年々園児数が減少し、ほんの7,8年前まで75名定員で90名ほどいた園児が、今では60名定員の48名(10月現在)と約半分になってしまっています。
さて、保育所の運営費というのは、大まかにいえば、0歳児ならばいくら、1・2歳児ならばいくら、3歳児、4・5歳児ならばいくら、というふうに年齢による区分で「保育単価」が定められており、[保育単価×園児数]を基本として、その基本分に加えて職員の経験年数によって定められる「民改費(民間給与改善費)」と併せて「保育所運営費」として与えられます。さらに、それに加えて、延長保育や障がい児保育、地域活動費などの「補助金」によって運営しています。その「保育所運営費」と「補助金」の大半(8割程度)は「人件費」として支出しなければなりません。
「保育単価」は年齢が低いほど高額に定められているため、わが園のように3歳未満児の数が少ないと、当然のことながら全体の運営費も少なくなります。たとえば、0歳児が3人いれば保育士1人必要で、保育士1人雇用する分ぐらいの運営費がもらえますが、4・5歳児になると園児30人に対して保育士たった1人分程度です。
地方では、わが園のように「定員割れ」で厳しい園があるにもかかわらず、現在は都市部の「待機児童(保育所に入りたくても入れない子ども)解消」が最優先されており、園の増改築、補修を行うための補助金も「定員を増やすことが条件」などとされているため、そろそろ築30年になろうかというわが園などは、老朽化が心配ですが、補助金は見込めません。「少しでも安定した経営を」と考え、現在、熊本市に定員減を申請していますが、「園児が3年間連続して45名を下回らなければ45名定員への変更は認めない。」という厳しい返事で、今後数年は厳しい状況のなか踏ん張っていかなければなりません。都市部の問題ばかりが最優先で地方のことなど考慮してもらえないのが現状なのです。
ただでさえ、このように厳しい状況におかれているわが園ですが、追い討ちをかけるように、熊本市は財政難を理由にさらに現在の補助金すら削減するようです。そして、もっと心配なのは「国が保育制度を変えようとしている」ことです。
子どものために良くなるのであれば賛成なのですが、子どもにとっても園にとっても悪い方向へ変えようとしているのです。簡単にいえば、福祉の世界に「市場原理」を導入しようとしているのです。お金をかけずに、お互い競争させて、より高い効果を得ようとしているのですが、福祉の世界で、そんなことが可能なはずはありません。それこそ、園児の奪い合いとなり、子どもの健全な育ちを無視して、早期教育を目玉にするような保育園が増えてしまうのが目に見えています。
「子どもを育てる」という営みが軽く見られている気がしてなりません。子どもはモノではありません。保育園は子どもをただ預かるだけの託児所ではないのです。子ども一人ひとりの姿を丁寧に捉え、いろんな体験を通して発達をうながし、心も体もその子に合わせて育てていく場なのです。保育士は、日々勉強し、経験を積みながら、保育士としての技量を高めていかなければなりません。子ども一人ひとりにじっくりかかわるためには、やはり正規の保育士が必要なのです。非常勤やパートだらけの保育園では、日替わり、あるいは時間毎に子どもに関わる大人が変わってしまう可能性もあります。(現に公立などでは起こりつつあります。)
お金をかけずに保育をしようとすれば、「人件費」を削る以外にないのですから、正規職員ではない「非常勤職員やパート職員」を増やすことになり、さらには安く雇うために「知識や経験も必要としない」ということになっていってしまいます。それで本当に良い保育が出来るのでしょうか?
熊本市保育園連盟配布の資料に基づいて、今回の制度改革についてもう少し詳しく、お伝えしようと思います
●入所要件の見直し。
現行)就労している家族の子どもが保育園に入園できる仕組み |
家族内の大人が就労していて家庭保育が出来ないことを「保育に欠ける」といい、児童福祉法第24条に基づいて「保育に欠ける」と認められた子どもに対し、国や市町村の責任で必要な保育を実施する仕組みで、子どもの発達保障や保護者の働く権利を保障してきました。 |
制度が変わると・・・ ⇓
真に保育が必要な子が利用できない恐れがあります。 |
保育所の入所要件の見直しは、待機児童がいる地域等では特に、真に保育を必要とする児童が利用できなくなる恐れがあります。児童福祉の面からも、雇用政策の面からも保育所への優先的な入所の「保育に欠ける」という入所要件が必要なのです。
(「保育に欠ける」要件の見直しが行われると、保育を必要とする優先順位が曖昧になってしまい、保育が本当に必要な子どもが保育園に入れないという状況も生まれてくる可能性もあるのです。)
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●入所の方法
現行)市町村に申し込みをする |
保育所に入所する場合、保護者が市町村に申し込みます。(保育園を通して入所を申し込んだ場合も申し込み先は市町村です。)これは保育の実施責任が市町村にあるからなのです。
市町村は、適切な保育環境を保障するために、指導を行ったり、保育所運営に必要な経費を確保し、保育所が不足すれば増設を進めたりするなど、保育を充実させる役割を果たしています。
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<国と自治体に保育の実施責任がある>
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制度が変わると・・・ ⇓
直接保育所へ申し込みをする |
保護者が保育サービスを買う直接契約方式になり、国、市町村は保育の実施に責任を持たなくなり、役割は保護者に補助金を出すことだけになります。
たとえば、行政に実施責任がなくなるため保育所に問題が発生したとしても、関与することはなく、その施設を選んで入所した保護者の責任が第一に問われることになります。(もちろん、保育園の責任はあります。)
(園と家庭の直接契約になってしまうと、園によっては、裕福な家庭の子どもを優先的に入所させたり、障がいを持った子ども、問題のある家庭の子どもを排除したりしてしまうなんてことも起こりかねません。)
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<保育は保護者の責任である>
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●最低基準
現行)日本のどの地域でも同じ基準 |
日本のどの地域の保育所でも、一定の水準以上の保育を保障するために、保育所の条件を公的に保障する仕組みのことを最低基準と言います。
この基準には、子ども一人における施設面積の確保や職員の配置人数など、保育を行う上で最低限守るべき条件が示されています。
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最低基準(全国どこでも一定の水準が保障されています。)
2歳未満児 |
乳児室 1.65㎡/人
ほふく室 3.3㎡/人
医務室+調理室
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2歳以上児 |
保育室または遊戯室 1.98㎡/人
屋外遊技場3.3㎡/人
調理室
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制度が変わると・・・ ⇓
地域によって保育の基準がバラバラに! |
全国一律の基準をなくし、標準基準として市町村に委ねようとしています。
一律の基準をなくすと市町村によっては、給食調理室の設置をやめたり、保育室の広さや職員配置などの基準が引き下げられたりする心配があり、財政力のある地域では保育に恵まれ、財政力が逼迫している地域では、保育が切り捨てられ、地域格差が生じるおそれがあるのです。
(現在でさえ財政難の熊本市なので、最低基準が曖昧になってしまったら、それこそ保育関係の予算はさらに削減されてしまうかもしれません。)
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現行の保育制度は①市町村の保育実施の責任、②国の定める最低基準の遵守、③公費負担原則を基本にしています。しかし、今語られている保育制度改革の議論は、保育を市場に投げだそうとしているのです。豊かな保育環境は制度改革ではなく、現行の制度の一層の充実でこそ実現されるものと考えます。
制度問題は少し難しいのですが、保護者の方々にもきちんと知っておいて頂きたいと思い、長くなりましたが書かせて頂きました。
なお、今回のお便りの後半は、(社)熊本市保育園連盟配布の資料に基づき、少し補足を加えて書いています。
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