だいすき!絵本
初瀬 恵美
『あなぐまメルくん』
作・絵:おおともやすお
出版社:福音館書店
保育園では、今出産ラッシュがきています。今年すでに出産された家庭、もうすぐ出産の家庭、赤ちゃんがお腹にできたばかりの家庭、新しい命の誕生は嬉しいことです。
しかし、嬉しいばかりでないのが、お兄ちゃん、お姉ちゃんになる(なった)子どもたちです。今まで独占できていたお父さん、お母さんが独占できなくなったり、あるいはそれなりに上手く保っていたきょうだいのバランス関係が新たな弟、妹の存在により、崩れてしまうことも起こりうるのです。
今月の絵本は、お兄ちゃんになって、少し複雑な心境の『あなぐまメルくん』のお話を紹介します。
メルくんのうちに赤ちゃんが生まれ、村の動物たちがお祝いに来てくれました。皆「なんて きれいな あかちゃんなんでしょう!」「なんて いい においなんだろう」と褒めてくれます。最初のうちメルくんは、皆がお祝いに来てくれたり、赤ちゃんを褒めてくれることが嬉しくて「きれいで かわいい あかちゃんでしょ」「いいにおいのあかちゃんでしょ」と自分の喜びのように自慢したり、胸を張って答えていました。しかし、お祝いに来てくれた人が赤ちゃんを褒めるたび、メルくんの顔はくもっていき、とうとう泣き出してしまいました。お客さんたちはあわてて「メルくん、あなただって かわいいのよ!」「そうそう きみは かわいいよ!」と慰めてくれました。しかし、メルくんは「ぼくは おにいさんなんだぞ! かわいいんじゃない。つよいんだ!」ときっぱり言ってから、また声を張りあげて泣きました。気まずくなって、お客さんたちは帰りました。
お客さんが帰った後、お父さんはメルくんの涙を拭いて、鼻もかんでくれました。お母さんは優しくぎゅっと抱いてくれました。長い間抱っこしてもらうと、メルくんは元気と優しさを取り戻し、遊びにでかけていきました。そして、家に帰ってくるときは、赤ちゃんにお土産をもって帰ってきました。
赤ちゃんができるまでは、大人の注目を一身に受けてきたメルくん。赤ちゃんの誕生で、その注目が、赤ちゃんに奪われた気がして、寂しかったのでしょうね。「ぼくも、ここにいるよ。」「ぼくのことも、みてよ。」「赤ちゃんばかりでなくて、ぼくも、ほめてよ。」といったメルくんの心の叫びが聞こえてくるような絵本でした。メルくんのどんどんくもっていく表情、溢れ出す涙、お兄ちゃん、お姉ちゃんになった子たちには、とても共感できる絵本ではないかなと思います。
しかし「寂しさ」だけで終わらないのが絵本のいいところです。優しく鼻をかんでくれているお父さん、優しく抱っこしてくれているお母さん、抱っこされながら、心落ち着かせた顔のメルくんの描写を描いた絵は、温かい気持ちにさせてくれます。それと同時に「あなたのことも大好きよ」「大切だよ」というメッセージが伝わってくる絵になっています。言葉にしなくても、優しく抱っこするだけで、大切な思いは、ぬくもりと共に伝わるんだなと思いました。優しさを取り戻すと、もう一度、赤ちゃんにも優しくなれた、メルくんがいました。
私にも子どもが二人いますが、下の子ができたばかりのときは余裕がなかった気がします。上の子にこんな優しい笑顔で抱っこできていたかな・・・と反省させられました。大変な時は子育ては長い、先の見えないトンネルのように感じていました。しかし、過ぎてみればあっという間で、だだをこねていたあの時の子どもが懐かしく思えます。今は違った悩みもありますが(笑)。ただ、子どもが大きくなってしまうと、優しく抱くことは、激減してしまいます。お子さんが小さい今、一番ダイレクトに伝えられる愛情表現が「抱っこ」なのだなと、絵本を読んで改めて感じました。
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