だいすき!絵本

初瀬 恵美




『キスなんてだいきらい』
作:トミー・ウンゲラー
訳:矢川澄子訳
出版社:文化出版局



 お子さんをお持ちのみなさん、お子さんにキスをしたことがありますか?私は、子どもを産むまでは、わが子にキスをするなんて、まったく考えたこともありませんでした。長女を出産したとき、病院にかけつけた主人が、長女を抱いて「ちゅっ」とキスをしたとき、凄く驚いたのを覚えています。だんだん日本人も欧米化しているのかな・・・と。保育園でも「すき」の表現として、「ちゅっ」とキスしてくれる子がいます。言葉が片言の小さな子でも「ちゅっ」としてくれると「おうちでも、こんな風に愛されているんだな」と思います。子どもを産んで初めて、子どもを愛おしく思うとき、キスしたくなる気持ちが分かりました。

 さて、今月の絵本は『すてきな三にんぐみ』の絵本でおなじみのトミー・ウンゲラー作『キスなんてだいきらい』です。主人公は、パイパー・ポーという名前のねこ。お父さんとお母さんの3人暮らし。多分小学生くらいです。親離れしたいと思うパイパーの気持ちをお構いなしに、お母さんは、せっせと世話をやきます。パイパーにとって、お母さんの行動の中で一番嫌いなのが「キス」。キスをされるとイライラするパイパー。あるとき、その怒りが爆発します。「ひとまえで キスするなよ。 キス。 なんでも キス。 いやなんだ。 きらいなんだ。 ・・略・・ 」そう言われたお母さんは、思わず息子の口を叩いてしまいます。お母さんのビンタはこれがはじめて。二人ともしょんぼり。そして、パイパーは学校へ、お母さんは家へ帰りました。お母さんと別れた後、パイパーは考えました。そして、自分の大事なイタズラ道具を友達に売って、そのお金で、花束を買って帰りました。お母さんが「これ あたしに くれるの?」ときくとパイパーは「そうだよ。でも ありがとうの キスだけは ごめんだ。」と伝えます。お母さんが「そんなにいやなら しないように するわ。」とにっこり笑って約束をしました。

 子ども自立、親の子離れを、描いた絵本です。客観的に読むと、パイパーの気持ちも、お母さんの気持ちもよく分かります。親子だからこそ、感情に歯止めがきかなくて、爆発してしまうこともあります。でも、結果的にはお互いを思いやって、それを受け入れ乗り越えていけるのも親子です。例えばパイパーがお母さんのために花束を買っていくシーンで、親の愛はしっかり子どもに伝わっているんだなと感じました。また、お母さんも、息子の気持ちをちゃんと受け止めることができました。今日のこの紹介文には、お父さんのことが全く出てきませんが、絵本の中でお父さんもとてもいいかかわりをしています。これから、子離れを迎える親子の方に、ぜひおすすめの一冊です。

 最後に、我が家の娘達は中学生になり、すっかり親離れしてしまいましたが、「すき、すき チュッ!」としてくれていたことも懐かしく思い出しました。









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