だいすき!絵本

初瀬 恵美



編集: 斎藤公子 
絵: 儀間比呂志
作詞: 木村次郎
作曲: 丸山亜季
出版社: 作風社



 新年1冊目は『わらしべ王子』をご紹介したいと思います。初めてこのタイトルを聞くと「えっ!『わらしべ長者』じゃないの?」と思いますよね。聞きなれないこのタイトル、もともとは鹿児島の民話だそうです。詩人である故)木村次郎さんが舞台を沖縄に変え、王子の性格と島での事件も変えて再創話しました。それを、10月の『黄金のかもしか』でもご紹介した「さくら・さくらんぼ保育園」で、木村さんの夫人の丸山亜季さんが園児たちに語ったのをきっかけに、絵本になっていったそうです。
 
 今年の「劇場ごっこ」では、きらきら(幼児クラス)は、この絵本を題材に取り組むことになりました。
 
  (あらすじ)
 10歳になる主人公たろうは、お母さんと沖縄のそばの小さな島に二人で住んでいました。ずっと前に沖縄によその国の王が攻めてきて、お父さんは殺されてしまいました。やがて、お母さんも重い病にかかり死んでしまうのですが、お母さんは、死ぬ間際、お父さんが残してくれた「わらたば」をたろうに渡し、それを持って旅に出るように告げます。
 
 たろうは、言われたとおり「わらたば」を持って旅にでました。そして道中困っている人に手をさしのべ、「わらたば」を「芭蕉の葉」へ「芭蕉の葉」を「味噌」へと交換してゆきます。味噌は、旅で出会った目の見えない少女の目を見えるようにします。少女の名前は「こみこ」。たろうと同じく、身寄りをなくし、一人ぼっちでした。こみこは、おばあさんの形見である「胡弓」という楽器を持っていました。その胡弓を演奏すると、自然と口から歌が出ました。その歌は、二人は「王子と王女」であること、「満月の夜に海をゆけ」と伝えます。その歌に導かれるように二人は、ふるさとの沖縄に向けて船をこぎだしました。
 
 明け方、二人は憧れのふるさと、沖縄に着きました。しかし、上陸して、目にしたものは、朝早くから働かされている島びとたちの姿でした。島びとたちは、王の家来にムチで打たれています。そこで、たろうは、こみこに胡弓を弾くように頼み、歌い始めました。その陽気な音楽に島びとたちは力づけられ、歌と踊りを思い出し、勇気を取り戻したのでした。
 
 その音楽を聞きつけた王は、その胡弓が欲しくなります。たろうは「陸の水と海の塩」と交換しました。胡弓が、そう歌っていたからです。胡弓を手に入れて喜んだ王は、胡弓を弾きました。すると陽気になり、王も家来達も、浮かれて踊り始めました。踊り疲れた王は水を飲もうとしますが、水はもう王のものではないので飲めません。王は、このとき初めて大変な約束をしたことに気付きます。「水をくれたら船に乗ってかえる。」という条件を出すのですが、海の塩ももう王のものではありません。王は初めて島びとに謝り、許してもらうことができました。王は自分の島へ帰り、その後、島びとたちはいつまでも楽しく歌い、踊り、たろうとこみこは懐かしいふるさとで、お父さん、お爺さんたちの仕事をついだというお話です。
 
 みなさんは、沖縄へ行ったことがありますか?私は大学生の頃に、1度だけ行った事があります。戦争のことを学びに行った旅でした。その旅で、沖縄は日本で唯一の地上戦があった場所であること、アメリカ人に殺されるくらいなら、集団自決(集団自殺)をすることが正しいと教えこまれていたことなどを知りました。また、死にきれなかった人が抱いた罪悪感も直接語り部の人から聞くなど、沖縄の方の苦労を深くかみしめる旅でした。一方で、沖縄の方の家にも泊めて頂いたり、民宿に泊まったりすると、沖縄の方のあたたかさや、歌と音楽と踊りが生活の一部となっているような陽気さを感じることができました。その時に感じたことが、この絵本の中にはちりばめられてました。
 
 実際、再創話された木村さんも、1年ほど、沖縄で過ごしたことがあるそうです。そのときに感じた思いから、民話の舞台を鹿児島から沖縄へ移し、独自の話に創りかえたことにより、この一冊ができました。
 
 知恵と勇気と思いやりの心にプラスして沖縄独特の歌と音楽と踊りの陽気さを持つこの絵本は、素晴らしい一冊だと思います。
 
 子どもたちには楽しみながら、このお話を劇場ごっこへつなげていってほしいと思います。
 




河内からたち保育園のホームページへ