だいすき!絵本

初瀬 恵美



『黄金のかもしか』
インド民話
絵:斎藤博之
出版社:青木書店


 みなさんは斎藤公子さんという方をご存じですか?埼玉県のさくら・さくらんぼ保育園の創設者で、戦後より保育に情熱を燃やし、独創的で確信に満ちた実践で全国の保育者や親達に大きな影響を与えた方です。 乳幼児期は早期教育に惑わされず、学童期以降に大きな力を発揮する「人間としての土台」を育てるときとして、リズム遊びや自然環境の中での遊び、語り聞かせ、描画などを実践されました。

 今月は、そのさくら・さくらんぼの保育実践の中で、子どもたちに多くの感動を与えてきた語り聞かせの物語を絵本化したシリーズの中の一つ『黄金のかもしか』をご紹介します。


 この絵本はインド民話です。王様は、ジャングルの中で、ひづめから、金貨を出す、不思議なかもしかに出会い、射止めようとしましたが逃げられてしまいました。逃がしたのは畑で働いていた少年でした。かもしかは、少年に感謝して、住んでいる場所を教えて「困ったときは いつでも来て下さい」と伝えました。しかし、その光景を王様の召使いに見られていました。かもしかは、上手く逃げましたが、少年は後日捕まえられてしまいます。お城では王様から、「太陽が昇るまでに金貨を10枚持ってこい。さもなくば、おまえの首はなくなるぞ。」と脅されました。王様は「きっと黄金のかもしかのところへ行くだろう」と思い、召使いに、こっそりと少年の後をつけさせました。少年は王様の思惑通り、かもしかのもとへと向かいました。

 少年は、道中困っているいろいろな動物にでくわしました。自分の命がかかっている限られた時間の中で急がなければいけない状況なのに、少年は決して見て見ぬふりはしませんでした。真摯に対応していきます。そのお礼に動物たちが途中まで送ってくれました。そして、無事かもしかのもとへたどり着きました。かもしかは金貨と助けがいるときのために魔法の竹笛もくれました。そして、お城の近くまで送ってくれました。

 約束通り、太陽が昇るまでに金貨10枚を持って少年は到着したのですが、王様は「黄金のかもしかの場所を話さないと首を切り落とすぞ」と脅しにかかりました。少年は「友達をうらぎることはできません。」と言って決して話そうとはしませんでした。いよいよ首が切り落とされそうになった時、ジャングルまで尾行していた召使いが戻ってきました。そして魔法の笛を3回吹くと黄金のかもしかが現れることを王様に話すと、王様は少年から笛を取り上げ笛を吹きました。すると、かもしかが現れました。かもしかは「少年を放して下さい。その代わり、あなたの言うことをききましょう。あなたは私の何が欲しいのですか」と王様に聞きました。王様は「金貨だ」といい、少年を解放しました。欲張りな王様は「金貨は多すぎて困ることはないのだ。いくらでも出せ。」と言いました。かもしかは『「もうたくさんだ」と言ったら、金貨はみんな石のかけらになってしまいますよ。』と告げ、お城の中に金貨をまき散らしました。最初は喜んでいた王様たちも、金貨の山も中に埋もれてしまうと、「助けてくれ、もうたくさんだ。」と叫びました。そのとたん金貨は全て石のかけらに変わってしまいました。「頼む。わしを助けてくれ。」という王様に兵隊や召使たちは、「自分の力で助かるんだな。」と言って、欲張りで、自分勝手な王様に愛想をつかし、お城を出てゆきました。一方、かもしかと少年は、お城を出て光り輝くジャングルに向かって歩いてゆきました。というお話です。


 この絵本の最後に、斎藤公子さんは、日本が歩んできた富国強兵の道がとても愚かであり「その徹を再び踏む日本にしてはならない。私の育てる子どもたちは真にかしこい道を選んでほしい。その一念が、いつも6歳の子どもの保育の最後にこの「黄金のかもしか」を語らずにはいられないのである。」と書かれています。戦争を経験したからこその重い言葉だと思いました。もう、斎藤さんは他界されましたが、子どもたちを通し、保育にかかわる私たちにとても多くのメッセージを下さり、そして深い思いを託した絵本も紹介して下さっているんだなと改めて思いました。読み応えのある長編絵本です。




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