だいすき!絵本
初瀬 恵美
作:宮内 富貴子
絵:奥田 瑛二
出版社:あすなろ書房
今年度も残りわずかとなりました。最近のあたたかい陽気で、園庭の紅桜のつぼみがすこしずつふくらみ始めました。これから寒暖を繰り返す中ほころんできて、ちょうど年長さんを送り出す卒園式の頃、きれいに咲き誇ってくれることでしょう。この桜の木は、今から10年前に、卒園した保護者の方が、卒園記念に植えてくださったものです。
今月は、「さくらの木」と命をテーマにした感動の一冊を紹介します。旅立ちの時期に少しでも、こころ豊かになる絵本をと思い選びました。
おさびし山には、一本のさくらの木がありました。通りかかった旅人が「ちった花はどこへいくのですか。」とたずねました。すると「あなたはどこへいくのですか。」と聞き返されました。旅人は「旅から旅へ・・・、でもやがて旅をおえたらうちにかえります。」と答えました。さくらの木はそれを聞き「さくらの花もおなじです。みじかいけれど生命の旅をして、ふたたび生命のもとにかえっていくのです。」と答えました。旅人はなんだか悲しくなってきて「もう会うことはできないのでしょうか。」となみだ声でききました。するとさくらの木は「会えますとも。生命はめぐりめぐるものですから。また生命の花のさくときに、・・・そのときのために出会ったことをおぼえていましょう。」といって旅人の涙をそよ風でやさしくぬぐってあげました。・・・少し略しましたが、物語はこのように始まります。
やがて旅人が旅を終わりにしようと決心したとき、もう一度さくらの木に会いたくなり、会いに行きます。しかし、もう山には、さくらの木はありませんでした・・・。そして、物語はクライマックスへ。
春といえば、「桜」というように、日本人の私たちは、別れと出会いの季節に思い描く花は「桜」ではないでしょうか?「桜」を見るといろいろな思い出が蘇ってきたりしませんか?甘酸っぱいような、ほろ苦いような思い出とか・・・。私は、園庭の桜をみると、卒園していった子たちの顔が思い浮かびます。元気いっぱい走り回ったり、本気でケンカしあったり、またすぐに仲直りして笑いあったりしていた子どもらしい子ども達の姿が・・・。そんな無邪気な姿は、卒園するとほとんど見ることができません。それが、成長するということなのですが・・・。そのかわりに毎年新しい子が入園し、いろいろな表情をみせてくれます。子どもらしい表情がみられたとき、ここが居心地のいい場所になったなと安心することができます。話は脱線してしまいましたが、旅立つ子ども達にこの絵本はどのようにしみてゆくのか、見守ってゆきたいと思います。
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