だいすき!絵本

初瀬 恵美




『はじめてであうずかん
       こんちゅう』
絵:三芳悌吉 指導:矢島稔
出版社:福音館書店


 先日、お泊り保育の下見に矢谷渓谷に行ってきました。そのとき、河原に、虫が脱皮したあとのぬけがらがゾーっとするくらいありました。何の幼虫かを知りたくて、川の中を良く見ると、何やらいろいろな生き物がいます。それを捕まえて、一箇所に集めてみました。足が何本もあるムカデを思わせるもの。しっぽが二つに大きく分かれているもの、川えびみたいに透き通っているもの、どれも初めて見る生き物ばかりでした。写真に撮り、インターネットで調べてみましたが、分かったのは「かげろう」の幼虫だけでした。何だかすっきりしないまま、何日かが経ちました。
 
 ある日、園児が「これよんで」と『はじめてであうずかん こんちゅう』(絵:三芳悌吉、指導:矢島稔、福音館書店)を持ってきました。正直に言って、私はこの『はじめてであうずかん』シリーズが苦手でした。絵本を開いても載っているのは、場所や生き物などの名前だけで物語性が感じとれないからです。おまけに、この本は1ページに10〜20種類の昆虫がでてきます。それを次から次へと子どもたちは「これは?」「これは?」と尋ねるので、「○○」と答えていくのです。なじみのある昆虫は、「あのねー、これこの前△△におったけん」と話してくれたり「この前つかまえたね」など、やりとりができるのですが、大多数は、私自身が見たこともない、あるいは、気にもとめていないものが多いのです。この絵本が大好きな子どもたちは沢山いるのですが、私自身にとっては、この絵本のどこが楽しいのか理解できない、苦手な絵本でした。

 そんな思いを抱きながら、この日もこの絵本を読んでいました。すると「ハッ」とする衝撃的なページに出会いました。「みずのなかにすむむし〈2〉」のページに、矢谷渓谷で見た、生き物が載っていたのです。ムカデを連想させたのは、「へびとんぼの幼虫」、しっぽが二つに大きく分かれていたのは「おおくらかけかわげらの幼虫」でした。そしていっぱい羽化していたのは「もんかげろう」のようでした。最後の方のページには少しだけ解説があります。例えば、「へびとんぼ:成虫はあかりに集まります」「もんかげろう:成虫の命は短く、食べ物をとりません。」等。このようにその生態の特徴を知ることもできました。すごくすっきりとしました。今までその存在を知らず、「この不思議な生き物は、なんだろう」と思い続けてきた疑問が解決した一瞬でした。その時に、「あっ、もしかして、これなのかもしれない」と思いました。子どもたちは、まだこの世に生まれて数年しかたっていなくて、未知の生き物が沢山います。そして、遊びや体験の中で出会った、生き物に興味を示して、虫にもいろいろな名前があることを知り、「なんだろう」と思う子もいます。そのような子が、その答え探しをしているのかな?と思ったのです。もちろん、単に生き物が好きで、この絵本が好きな子もいると思うのですが。きっと、見たり、触ったり、「なんだろう」と疑問に思う実体験をいっぱいしている子ほど「図鑑」が好きで、楽しめるのではないかと思いました。

 このような体験から改めてこの絵本を見直すと、「はじめてであうずかん」というタイトルにふさわしく、虫たちの生活場面を切り取ったような描き方がされていることに気付きました。例えば「にわのむし」という場面では、地面ではかたつむりを食べている「マイマイカブリ」が、たんぽぽやヒメジオンなど春の野の花と共に「みつばち」「もんしろちょう」など花の蜜をすう虫が、木の枝には「きあしながばち」やのその巣が描かれています。羽や足、触覚など、とてもリアルでそれぞれ、違う動きをしています。文章はなくても、ストーリーがある絵に仕上がっていることにも気がつきました。私自身、平面にしか見えなかったこの図鑑の虫たちが、頭の中で空間と広がりを持ち、立体的に動き始めるまでになりました。この絵本に限らず言えることですが、好きではない絵本を読むときは、その絵本は平面なものでしかありません。しかし、ある日スイッチが入って、好きになると全く違ったものになります。登場人物が頭の中で動き始めるのです。読む言葉にも、絵本にも魂が宿り始めます。皆さんはそんな経験はありませんか?

 そして、今回の体験から、図鑑とは、知的好奇心を満たすものと同時に、知的好奇心を掻き立てるものなんだと、実感しました。ストーリー性のある絵本も楽しいのですが、ぜひ「図鑑」タイプの絵本も手にとってみてください。 



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