だいすき!絵本
初瀬 恵美
文:秋野和子 絵:秋野亥左牟
出版社:福音館書店
いつの間にか、夏のような暑さが訪れ始めましたね。今月は、海の中の「たこ」を主役にしたおもしろい絵本『たこなんかじゃないよ』(文:秋野和子 絵:秋野亥左牟 福音館書店)を紹介します。
みなさんは、「たこ」にどんなイメージをもっていますか?私は「たこ」といえば、軟体動物でくねくねしていて、海の中でも位の低い弱々しい生き物というイメージがありました。しかし、この絵本の中の「たこ」は、全く違いました。生きている「たこ」の生活の一コマをきりとり、ストーリーが作られており「食うか食われるか」の日常生活が描かれています。にじいろ魚を食べたり、逆におおうつぼに足を食べられたり・・・。たこの日常ってこんなにハードなんだとドキドキハラハラさせられます。しかし、さすが子ども向けの絵本!ドキドキハラハラの中にも、ユーモアがあふれていて、そこがたまらなく好きです。
「たこ」の口癖は、「わたしは○○、わたしは○○。たこなんかじゃないよ。」です。獲物を襲うときも、敵から身を守るときも、何かになりきって相手をだましている「つもり」を、この言葉で表現しているのです。子どもに読んであげるとき、このフレーズは、読む人の個性がとてもでるところです。読む人、その人その人により、主人公の「たこ」の味わい深さがでてくるのです。そこも、子どもたちにとって、絵本を読んでもらう楽しみの一つだと思います。
ちなみに私は、この、たこが「わたしは○○、わたしは○○。たこなんかじゃないよ。」とつぶやきながらかくれている箇所を読むとき、何故か3歳くらいの子どもたちの、かくれんぼの様子が思い浮かびます。子どもたちのかくれんぼは「頭かくして尻かくさず」というように、ちょっと微笑ましい光景です。一方「たこ」は、そんな3歳児とは違い、本当に上手にかくれているのですが・・・。たこが、こんなにかくれ上手だということを知らなかったくらいに!
この絵本の最後で、「たこ」はすみかに戻りお昼寝をします。そしてそのとき「わたしは たこ・・わたしは・・たこ」と、つぶやきます。「食うか食われるか」の戦いが休息し「わたし」に戻り、安心した居場所で絵本が終わる、そんな終わり方も大好きです。
そんな、特徴的なフレーズと共に、色彩の鮮やかさもこの絵本の見所です。点で絵を描く手法も多く取り入れられていて、オーストラリアの原住民の絵にも似ています。ちょっぴり異国情緒を感じる絵本です。これからの暑い夏に、海の中のお話を描いたこの一冊を読んでみてはいかがでしょうか?