だいすき!えほん
初瀬 めぐみ
『くものすおやぶん とりものちょう』
作・絵:秋山あゆ子
出版社:福音館書店
ご入園、ご進級おめでとうございます。
今年は、桜の満開の時期にひどく冷えましたね。東京では19年ぶりに4月に雪がふったとのニュースに驚きました。幸い熊本で雪は降りませんでしたが、強風で桜の花が一気に散ってしまわないか心配でした。桜の季節は短いけれど、少しでも長く咲いて、目と心を楽しませてほしいと思っています。
さて、今月の絵本は『くものすおやぶんとりものちょう』(作・絵:秋山あゆ子、福音館書店)をご紹介します。
舞台は春爛漫の虫のまち、子どもの絵本にはめずらしい、時代劇風、捕物帖絵本です。くものす親分とハエとりのぴょんきちが、まちの見回りをしていると、お菓子の老舗「ありがたや」から、助けを求められます。盗人「かくればね」から、「こんや くらのなかの おかしを ちょうだいする」と予告状が届いたのです。もちろん「よしっ、おいらに まかせな」と引き受けるのですが、現れた「かくればね」は、羽の模様を周囲に合わせて姿を消してしまう特殊な蛾だったのです。悪戦苦闘するくものすおやぶんと、ぴょんきち、さてどうなるのか?!
2003年、月刊絵本『こどものとも』2月号にて発行されたと同時に、子どもたちの心をとりこにした絵本です。一読して、絶対にハードカバー版になるだろうと予想できるほど、ずば抜けておもしろい絵本でした。そのおもしろさは、挙げ始めればきりがないほどあります。その理由を2つほど選んでみると、まず絵をみた瞬間の強烈なインパクトが挙げられます。この絵本の作者は、かつて虫を題材とした漫画を発表していたという筋金入りの「虫好き」だそうで、その実績がまさに生きている絵本だと思います。背景は江戸時代頃、ときどき平安絵巻のような構図も使い、虫たちを擬人化させて、絵を描いているのです。虫たちは、とてもかわいいですよ。見るだけで楽しい虫の世界が展開されています。
二つ目は、言葉の言い回しがあります。「なるほど、さすがは おやぶんさんだ」「がってんしょうち」など、読んでいると自然と時代劇風の口調になってしまう文が、たまらなくくせになります。自然と読み手も、聞き手も絵本の世界に、入ってゆけると思います。(・・・ときどき、舌がまわらずにかみそうになりますが・・・)
現在、季節は、春から初夏へと移り変わりつつありますが、桜が散る前にぜひ、『くものすおやぶん とりものちょう』の世界をあじわっていただけたらと思います。