だいすき!絵本

初瀬恵美


作・絵:ピーター・レイノルズ
訳:谷川 俊太郎
出版社:あすなろ書房

 みなさんは、絵を描いたり何か作ったりする表現活動はお好きですか?私の次女は小学校の図工の時間が大嫌いです。理由を尋ねると、保育園のとき、男の子に絵をからかわれたことがあり、それ以来嫌いになったそうです。だから、課題によっては図工の時間中、題材とにらめっこして、自分の心と葛藤し、先生にご心配をおかけしたことも度々ありました。でも、学校から帰ると、よくお友達と一緒に楽しそうにお絵描きをしています。つまり、評価されることが前提で、課題にそって描くことは苦手だけども、自分の好きな時間に好きなことを描くのは、大好きなのです。家でも色んなストーリーの詰まった絵をよく描いてくれます。

 今回紹介する、この絵本の主人公「ワシテ」も、絵を描くことが苦手でした。絵本の始まりを少し紹介してみましょう。「おえかきの じかんは おわった。 でもワシテは いすに はりついている。 かみは まっしろ。」下の挿絵をご覧下さい。椅子に後ろ向きに座りけわしい顔をしているワシテ、からっぽの教室、ワシテの座っている机には、ワシテがすわっている椅子だけ、他の机の周りには、3〜4つ椅子が並んでいる・・・。そんな絵が描かれています。きっと、他の子たちは、お友達とワイワイ、ガヤガヤ楽しくお絵描きをして帰っていき、一方ワシテは、お絵描きの時間中、絵を描けない自分と一人孤独に戦っていた・・・そんな事を連想させるような絵です。そこへ先生はやってきて何も描いていない紙を見て言ったのは「あら!ふぶきのなかの ほっきょくぐまね!」という言葉でした。先生はユーモアをもって、ワシテに接します。その後もその先生ならではの発想で、ワシテに絵を描くきっかけをあたえ、見事ワシテは、絵に興味を持ち、絵を描くことにとっぷりとハマッてゆきます。その先生との言葉の掛け合い、絵を描くことにハマっていくワシテの変化等は、本当に素敵です。そして、絵本の後半では、ワシテが男の子に、絵を描くことの勇気をあたえます。このあたりは、じっくりと絵本を読んでみてください。

 この絵本の最後に「中1のときの数学の先生、ミスター・マトソンに捧げる。先生は私に『じぶんのしるし』をつける勇気を与えてくれた」と書かれています。そこからも、分かるようにこの絵本のテーマの一つとして、「人との出会い」があると思います。つまり、「人との出会いで、人は大きく変われる」ということを、伝えてくれている絵本ではないでしょうか。八方ふさがりの壁にぶつかっても、きっとそこから抜け出すことができる「人」との出会いがあるという希望の道しるべを示してくれている絵本だと思います。つくしさんは、今月で卒園です。小学校に行くと、保育園のように、自分が主体でまわっていかない事がでてきたり、決まったカリキュラムを決まった時間でこなしていかなければならず、子どもによっては、窮屈に感じる子もいると思います。でも、先生や友達との出会い次第で学校はとっても楽しくもなります。また、沢山の素敵な出会いがあることを願い、今月はこの絵本を選びました。作品展の挿絵にも使っていますが、ぜひ一度絵本を読んでみてください。




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