だいすき!えほん

初瀬 めぐみ




『こいぬのうんち』
文:クォン・ジョンセン
絵:チョン・スンガク
出版社:平凡社

 今月の絵本は『こいぬのうんち』(平凡社)です。この絵本は、1969年に第1回キリスト教児童文学賞を受賞し、1996年に子どもたちのための絵本として新しく書き直されました。

 主人公は、こいぬのうんちです。こいぬのうんちは、すずめや土くれ(つちのかたまり)から、「きたないうんち」と言われ自分が何者かを悟ります。そしてショックを受けます。でも暴言をはいた土くれも、実は心に重荷を抱えていました。そんな重荷をこいぬのうんちに話した後、ご主人様に拾われ、もとの暮らしに戻っていきます。しかし、こいぬのうんちだけは取り残されたまま、時を過ごします。冬が過ぎ、春になると、こいぬのうんちの前には、たんぽぽの芽が顔を出しました。たんぽぽは、自分は空からふってくる雨と、暖かい太陽の光のおかげで、お星様くらいきれいで、キラキラ輝く花を咲かせることが出来るといいます。うんちは、たんぽぽがうらやましくて、ため息が出ました。しかし、たんぽぽは「もうひとつ絶対に必要なものがあるの」と言います。「それはね、うんちくんがこやしになってくれることなの」と・・・。こいぬのうんちは、生まれて初めて自分が必要とされていることを知り、すごく幸せでした。そして、溶けて土の中にしみこみ、たんぽぽの力となり栄養となりました。なんの役にも立たないと失望していたこいぬのうんちが、とても大きな役割を果たしたのです。

 この絵本には、人間が持ついろいろな心が表れていると思います。人を傷つけるような暴言をはく醜い心。自分は、無力だと思いこみ、落ちこむ心。人との出会いの中で、自分の生きている意味を悟る心。このようなことです。また、別な角度で言うならいじめの縮図のようなものも描かれていると思います。

 こいぬのうんちが体験した、八方ふさがりの出口のない暗闇に迷い込んだ体験は、人生における挫折と重なります。人は、大人になるまでにいくつもの挫折を味わいます。大人になってからも、挫折や困難は人それぞれにあります。でも、この絵本のたんぽぽのように、新たな人との出会いが素晴らしい人生にかえてくれることもあるのです。

 もうすぐ、卒園してゆく年長さんには、どうしても出会ってほしい一冊で、年間購読絵本2月に組み入れています。大きな愛がいっぱい詰まった最高の絵本です。




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