だいすき!絵本
初瀬 恵美
『よくきたね』
(「こどものとも0.1.2」2004.4月号)
松野正子 文/鎌田暢子 絵
福音館書店
先日、福音館書店所属の児童図書出版士 上田紀人氏の講演をきいてきました。たくさんの絵本を紹介して下さったのですが、『よくきたね』(「こどものとも0.1.2」2004.4月号)という絵本が、読者の方の体験を交えてのとてもいいお話だったので、ご紹介します。
その前に、この絵本の簡単な紹介をさせて頂きます。これは福音館書店が、0.1.2歳児むけに出版している月刊絵本で、昨年4月に出版されました。ストーリーは、動物や人間のお母さんが、子ども達に「おいで おいで ここまで おいで」とよびかけ、おかあさんのところにきたら「よくきたね いいこだね」とほめてあげるという繰り返しの絵本です。親子の愛情がほのぼのと描かれています。特にお母さんの優しい眼差しや、お母さんのところまで、たどりついた子ども達がみせる嬉しい表情、安らいだ表情がすてきです。
この絵本を読まれた方の体験談は次のようなものでした。あるところに、この絵本が大好きなお子さんがいたそうです。その子は2歳。あるとき、オムツの中でうんちをしました。お母さんが「おむつをかえようね。」といっても「いやだ いやだ」と逃げ回ってばかり。そんな子どもにお母さんはイライラして、とうとう子どもを捕まえて、おしりをペシンとたたいてしまいました。するとお子さんは泣きながら「おいで、おいで・・・いいこ いいこ」と言ったそうです。お母さんは、ハッとして、この絵本のことを思い出したそうです。「わが子は、絵本を再現したかったんだ。絵本に描かれているお母さんはあんなに優しいのに、今の自分はどうだろう・・・。」と思うと子どもに申し訳なく、お母さん自身も泣きながら「おいで おいで・・・いいこ いいこ」とお子さんを抱きしめたそうです。それ以来、お子さんが言うことを聞いてくれなくて、つい怒ってしまいそうになるとき、この絵本を思い出し、気持ちを落ちつかせるのだそうです。
このときの、お母さんやお子さんの気持ちを考えると、思わず涙がこぼれそうになりました。それと同時に、絵本の持つ力の偉大さを改めて感じることができました。
大阪大学の宮本教授は、子どもの心を育てる三大栄養素として、「愛情」「笑顔」「言葉の語りかけ」をあげていらっしゃいます。絵本に触れるということは、まさしくこの三大栄養素に触れるということでもあることなんだ、と上記のお話を聞いて思いました。
最後に、上田氏は、絵本を読んでもらった時間が幸せだと感じると、そのお話ばかりでなく、読んでくれた人の声のトーンやそのときの状況(家・庭・一緒に住んでいた人等・・・)も一緒に記憶に残ることをお話して下さいました。そして、成長の節々や友達とケンカして落ち込んだとき大好きだった絵本を見ることで、満ち足りた時間を思い出し、生きる力になってくれるということも、お話して下さいました。
子どもの心のよりどころとなれる一冊の本が、この保育園時代にみつかりますように。