だいすき!絵本     

初瀬 恵美



『じめんの したの なかまたち』
エベリーン・ハスラー作・ケティ・ベント絵  
若林ひとみ 訳
冨山房

     
 今月の絵本は『じめんの したの なかまたち』(冨山房)です。
 
 1年で最も寒い2月に、地面の下の虫たちはどんなふうに過ごしているのだろうと、思いをはせて読むのにおすすめの1冊です。

 登場人物は、「エンゲリン」、ふたごのミミズの「シュヌープ」と「クヌープ」、そして「ロトロ」に「リア」です。覚えづらい名前でしょ。この絵本は原作がドイツなので、このようにとても耳慣れない名前なんです。最初のうちは、絵本を読みながらも「エンゲリン」って誰だっけ?と、登場人物の確認作業に追われてしまうかもしれません。しかし、何回も読んで、名前を覚えることができると、この絵本の味わい深さをきっと感じることができると思います。

 物語はまず、秋から始まります。それぞれ冬支度をして、楽しく冬を迎えます。中でもエンゲリンは、大きな球根を隠し持ち、「みんなの ごちそうが なくなったら、いっしょに たべよう。」と用意しています。そして、長く厳しい冬がつづき、食料も底をついてきたときのことです。「そろそろ ぼくの ひみつのでばんだな」と、食料倉庫を開けると、球根にはおおきなひびが入り、色も変色していました。病気になったと勘違いするエンゲリン。そのことをリアに報告しにいくと、リアはどこにもいませんでした。物語は一番どん底の暗い悲しみに包まれます。しかし、地上の雪もとけ、春になると、場面は一転し、喜びに満ちた春へと変化します。球根は、地上で花を咲かせ、友達のリアは、ガになり、空をとんでいたのでした。空を飛ぶのが夢のエンゲリンに、リアは「そのうち あなたも とべるようになるわ。」とやさしく言って、夜の森へ飛んでいきます。そこでお話は終わりなのですが、裏表紙には、空へ飛び立つエンゲリンと、旅立ちを祝福し手を振る、シュヌープとクヌープの姿がちゃんと描かれているのです。クヌープの手には、エンゲリンが愛用していた杖も描かれています。

 私は、この絵本を読むたびに「地面の下の仲間たち」と、「からたち保育園の仲間たち」の姿が重なります。特に地面の下で仲間たちが楽しそうにトランプをする姿は、今の子ども達と姿が重なります。地面の下でいつまでも続きそうな楽しい日々も、春の訪れと共に終わり、リアとエンゲリンは空へ飛び立ってゆきました。それは、巣立ちゆく年長さんのようです。それを見送る在園児と私たち職員は、ミミズのシュヌープとクヌープやロトロのような存在である気がしてなりません。仲間の旅立ちを両手を振って祝福するあたたかさや、希望の旅立ちを示してくれる暖かく味わい深い本です。それと同時に遊び心たっぷりな絵もゆっくりお楽しみ下さい。



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