どう育てればいいの?いまどきの子ども

初瀬基樹

 私が担当するこのコーナーでは、すっかりおなじみの汐見稔幸(しおみ・としゆき)先生が今月末に熊本に来られます。それに併せて、5月25日(金)夕方6:30〜パレアホールにて、一般の方向けの講演会も開くことになりました。実は、26日(土)に開催される市の保育園連盟の研究大会で汐見先生をお呼びすることになったので、せっかく熊本へいらっしゃるなら、ぜひ一般の方向けにも講演会をお願いできないかとお尋ねしてみたところ、快く承諾して下さったので、この講演会が実現することになりました。何園か合同で行なうため、会場が少し遠くなってしまいますが、地方ではなかなか聴くことのできない先生の講演会ですので、ぜひぜひご都合をつけてご参加下さい。

 3年前にはわが園の育児講座でこの河内町にも来て頂きました。そのときにお聴きになられた方もいらっしゃるかと思いますが、ご存じない方のために少し補足しますと、汐見先生は、東京大学大学院教育学研究科教授を経て、この4月から白梅学園大学教授・副学長となられました。子育てに関するたくさんの本も書いておられますし、テレビなどにもよく出演されていて、保育、教育、子育てに関して、全国から引っ張りだこの先生です。私の最も尊敬する先生の1人で、私の保育に対する考えにも多大な影響を与えて下さっています。

 今回は、その汐見先生の著書のなかから少しご紹介したいと思います。


― 友だちを思う気持ちが、人と深く関わるEQ能力を育てます。 ―

● 人の喜びを自分のことのように感じて喜ぶ能力

 社会生活を営むときに一番大事なことって、何だと思いますか?

 ぼくは、相手の感情を想像できるか、ということだと思います。

 「やったー、勝った」ということが一番重要なことでしょうか。それより大切なのは、「ああ、よかったね」「ああ、つらかったね」という共感能力でしょう。相手が悲しんでいたら自分も悲しくなる。相手が困っていたら自分が助けてやろうというという能力のことです。

 この共感、共苦の能力が人間の社会生活の潤滑油であると、ぼくは思っています。

 今や、計算や記憶はコンピューターがやってくれる時代です。ですから、計算能力や記憶能力を示すIQよりも、感情をコントロールする能力であるEQが注目されてきているのです。EQとは、落ち込んだ相手をはげますにはどうしたらいいか、そういうことがパーンとわかるような能力のことをいいます。コンピューターにはできない、人間と深く関わることのできる、EQ能力の高い人が、これからは必要とされることでしょう。

 そういうEQ能力は、小さいときから対人関係を深く味わうことをしていかないと身につきません。

 子どもが「今日、健ちゃんすごかったんだよ、逆上がり10回もしちゃったんだ。すごいよ」と、帰って来て言ったとします。お母さんであるあなたはどう返事をしますか。

 「へえ、すごいね」と言ったあと、「で、あんたはどうなの?」「あんたのんきに何言ってるのよ」なんて顔をしていませんか。
 
 人の喜びを自分のことのように感じて喜ぶ能力、これは人間としてすばらしい能力です。だから、お友だちがやったことを自分のことのように喜んでいるわが子を見たときに、お母さんはほめなきゃいけないのです。
 
 お母さんは、「人のことを自分のことみたいに喜んでる○○って大好き」と、どうか伝えてほしい。「何喜んでるのよ」では、人間として育ちません。


● 競争で世の中おかしくなった

 しんちゃんのマンガでも、子どものほうが純粋な共感能力を持っているようです。大人は子どもたちの姿を見てはじめて、そのすばらしさに気づいて感動しています。
 
 ほんとうは、赤ちゃんのころから、人は共感する能力もあるし、本能もある。共感する能力は少しずつ育ってきているものです。それをじゃましているのは競争です。
 
 子どもたちが自分で遊びのルールをつくるのはいい。遊ぶときだけ敵味方に分かれて競い合う。遊びの中の競争は遊びが終われば元に戻るものです。スポーツはその洗練された形でしょう。
 
 ところが今や、勝ち組負け組なんていって、人生を競争にしてしまっている。負け組は「お前が努力しなかったらだ」と言われてしまう。だいたい人を勝ち負けで分けたら、大多数の人が負けのほうになるに決まっています。これではやってられません。

 今やすべてが競争になってきていて、避けられないことであるのはわかります。それでも、共感と共苦を大切にする気持ちは持ち続けたい。難しいけれど、でも、だれもがある程度の生活ができる社会、困っていたらみんなで支え合うということがベースにある社会であってほしいと思います。

汐見稔幸&野原しんのすけ一家 『子育てにとても大切な27のヒント 〜クレヨンしんちゃん親子学〜』 双葉社 より


 神戸連続児童殺傷事件(「酒鬼薔薇事件」)から今年で10年。加害者だった少年は、現在更生して社会復帰しているそうです。衝撃的だったあの事件でさえ、かすんでしまうぐらいにその後も続々と嫌な事件が起こり続けています。いじめ、自殺、虐待、引きこもり、援助交際、不審者、凶悪犯罪の低年齢化、過度の競争意識などなど、これから、日本はいったいどうなっていくんだろう、目の前の子どもたちをどう育てていけばいいのだろうと不安になります。ぜひ、みんなで「これからの子育て」を真剣に考えてみませんか?





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