河内からたち保育園

2002年4月

◇◆◆◇ 新しい保育に向けて ◇◆◆◇


昨年度30名の年長児を送り出したことを機に、これまで75名だった定員を60名に変更しました。これは、この町の子どもが減ってきており、今後もそれほど増える見込みがないことと、もうひとつ、園の安定した経営を考えての決断でした。

 保育園の措置費(徴収された保育料とあわせて国や地方自治体から支弁される保育所最低基準を維持するための費用)というのは園の定員によって区分が違うのですが、60名定員の次は90名定員という区分で、これまでの我が園のように75名定員という中途半端な定員では90名区分の保育単価(児童1人あたりの保育に要する経費の月額単位)で計算され、毎年、年度始めは「90名の定員割れ」と同じ状況でした。それでも、ここ数年の待機児童解消問題で定員の2割増(年度途中からは2割5部増)までの入所が認められるようになったことで、年度途中からの入園を受け入れられるようになり、毎年それを見越しての経営で、年度末になってようやく定員を満たしたことと同じになるといった厳しい状況で何とか乗りきってきました。

 保育単価自体、90名より60名の方が高いため、経営的にも60名定員の方が助かります。とはいえ、長引く不況で、保育にまつわる様々な補助金も減額、または打ち切りという状況が続いており、厳しい状況はこれからもまだ続くと思いますが、とりあえず、これまでよりは安定することでしょう。

 難しい経営の話はこれぐらいにして、定員減を実施したことを機に、これまでの保育の見直しを行い、子どもたちにとって本当により良い保育をさらに追求していこうと、今年度また新たに一歩あゆみはじめました。といっても、保育そのものが大きく変わるわけではありません。これまで大事にしてきたこと、保育に対する思い、精神はそのまま、それを実現するための保育の「形態」を少し改善していこうとしているのです。主に幼児クラスの保育についてです。


年齢別保育と発達に応じた習熟度別保育

 これまでは年齢別クラス編成で保育を行ってきました。そもそも昔の子どもたちは地域の中で異年齢集団がもとになって、群れて遊びながら成長していました。寺子屋や塾などに入るのにも、必ずしも年齢で区分されてはおらず、学びたいときに学びに行っていました。そのうち義務教育という学校制度が導入され、学習内容が年齢毎に振り分けられるようになり、今日に至っているわけですが、こうした考え方がそのまま就学前の子どもたちにまでも適用されてきました。もちろん、利点もあるのですが、就学前の子どもたちというのは「学習」よりも「生活」が基本であり、発達が「年齢」よりも「個人差」によるものが大きいため、年齢で分ける方法には無理があるのも確かです。

 では、どんな保育形態が望ましいのでしょうか。たとえば、これまで1クラスを   1人の担任(年長などの場合)で見ていたときには、いろんな遊びのコーナーがあっても、それらをすべて1人で見なくてはなりませんでした。昼の時間になると子どもたちとみんなで「遊びの片付け」「昼食の用意」「昼食」「昼食の片付け」「昼寝の準備」「昼寝」と一斉に動かなければ次の活動に移れませんでした。また仮に、3歳以上のクラスがそれぞれ跳び箱に取り組んだとします。クラス毎に取り組むとすると、それぞれのクラスで跳べる子、跳べない子、3段なら跳べるけど4段が跳べないといった子をすべて1人で指導しなくてはなりません。跳べる子に我慢させたり、跳べない子が退屈したりといったことも度々起こります。ところが、これを3クラス合同で、大人が3人子どもについたとします。そうすると、3段に1人、4段に1人、5段に1人と段階に応じて大人がついて指導ができるわけです。水遊びなども同じで、時間帯を年齢毎に分けて入るとなると、水が苦手な子、もっともっと思いっきり遊びたい子などすべてが一緒にということになるので、どちらかが遠慮したり、我慢させられたりということが起きてきます。これを「水が平気な子」、「ちょっと苦手な子」、「すごく苦手な子」というように分けたらどうでしょう。もちろん、それは大人が決めるのではなく、子どもが自分で選択してどのグループのときに入るのかを決めるのです。年齢ではなく、その子その子の力に応じて適切な指導ができる。これが習熟度別保育の考え方です。

※例として跳び箱を出していますが、これから毎年跳び箱に取り組んでいくという訳ではありません。


クラス主義からの脱却・・・「1人ひとりを複数の目で見ていこう」

 また、1クラス1担任で子どもを見ていくとどうしても、子どもの見方が偏ってしまいます。これまでも、それを職員会議、園内研修等で補ってきたつもりではありますが、やはり、複数の目で1人ひとりの子どもを見て、ほんとうにその子にとって必要なことは何なのかを複数の視点で考えあうことが大切だと感じてきました。「担任が変わったら保育も変わった」ではなく、「からたちの保育」としての統一性も必要だと感じています。(もちろん、担任の得手不得手があるわけですし、趣味の違いもあるので、個々人の個性は尊重していきますが。)こうした観点からも3歳以上児のクラスという壁を取り払い、「どの子も自分が担任しているんだ」という思いで、複数の大人で見て、考え、対応していこうということにしたのです。

 ただ、いざというとき子どもが誰に頼ったらいいのかとか、同年齢の集団での活動も大切だとの考えから、年齢別の担任制は残し、生活の大半は3,4,5歳児が一緒でも1日に1回はクラス別(年齢別)の集まりを持とうということにしています。特に年長組では就学を見越して昼寝の時間を最大限に利用しようと考えています。


子どもの遊びの継続

 すでにお気づきのように、園舎もあちこち改修しました。最初に目に付くのはテラス部分をウッドデッキにしたことでしょう。これによって外遊びの後、着替えて部屋に入るという「着替えのスペース」が生まれ、また雨の日でも遊べるスペースが増えました。なんといっても「縁側」っぽくて「戸外」でも「室内」でもない「中間の間」というか、ちょっとくつろいでお茶でも飲みたくなるような「ゆとりを感じさせる空間」が出来ました。

 そして、昨年はひばり組として使用していた保育室の壁を一部取り払い、「食事ルーム」にしました。これは先ほども述べたように、午前中の活動が続きであっても、同じ場所で昼食、昼寝をしなければならないと、活動を継続させることが難しく、一日に何度も何度も片付けをしなくてはなりません。ゆったり食事をしたいと思っても、これまでの保育園の生活では昼の時間が一番あわただしい時間帯になってしまっていました。ところが、食事、昼寝の部屋を別に用意することで、この昼の慌しさから解放されたのです。また、子どもたちの遊びも継続させやすくなりました。特に、積み木などは途中で壊して片付けなくても済むので、じっくり取り組むことができるようになりました。もちろん積み木に限らず、各コーナーとも遊びの充実を図っていくため、遊具の吟味、環境構成、大人の配慮など検討を重ねています。


「自分で決める」

 食事ルームを作ったことと、もう一つ、食事の時間もすこし緩やかにし、11:30〜13:00の間の好きな時間に子どもたちが自分で決めて食事ができるようにしました。これは先ほどの遊びの継続ともかかわりますが、大人でも何かをやりかけているとき、「ここまでやってからご飯にしよう。」と自分でめどをつけますよね。子どももきっと何かに集中しているときは大人から勝手に中断されたくないはずです。「自分のことは自分で決める」そんな主体性を持った子どもに育っていって欲しいという願いもあってこのような形態にしてみました。

 同様にお昼寝についても年長になったら「しても、しなくてもよい」としてみました。(夏の疲れやすい時期は年長でも子どもに合わせてお昼寝をしようと思いますが、秋頃からは 年中組もするか、しないか選択できるようにしてみようかと思います。)大きくなった子どもたちに保育園時代の思い出を聞くと、嫌な思い出としてワースト1か2に登場する「お昼寝の時間」。「子どもの成長に必要だから」と大人が考えて無理やりさせることが子どもたちにとっては「強制させられた嫌な思い出」として残ってしまうのです。3歳未満児などの小さい子どもたちにとってお昼寝はとても重要ですが、4,5歳ともなると毎日必要という訳ではなくなってきます。お昼寝をするとかえって夜寝るのが遅くなって、翌朝起きられないということも出てきたりします。4,5歳児では「お昼寝が」というより「1日の睡眠時間が」大切になってくるため、ご家庭によっては「様々な事情で夜がどうしても遅くなるから保育園でしっかり昼寝をさせて欲しい」ということもあるかもしれません。そうした状況も考慮し、おうちの方々とも連携しながら子どもたち一人ひとりに合わせてお昼寝を考えていきたいと思います。「疲れたら眠くなくても体を休めようね。」という対応を心がけながら、やはり基本は「自分で決める」ということを大事にしていきたいと思います。


自然な形での異年齢交流

 これまでのことと重なることですが、「年齢別保育」とか「縦割り保育(異年齢児混合クラス)」とかにこだわる必要はないと感じています。ごく自然な子どもたち同士のかかわりが生まれて欲しいと願っています。遊びによっては同年齢で遊んだ方が面白いこともあるし、大きい子が小さい子の面倒をみたり、小さい子が大きい子にあこがれて真似してみたりといった、一昔前なら地域でごく自然に行われていた子ども達の営みを今度は大人が意図的に用意してあげる必要が出てきた。そんな気がしています。


 まだまだ、始まったばかりで、これからどんな問題が出てくるかわかりませんが、とりあえず今のところは子どもたちも自分のペースで思う存分園生活を楽しめるようになってきたという感じを受けています。ご家庭の方々からのご意見もうかがいながら、ひとつひとつ課題をクリアーしていきたいと思っています。ご意見、ご質問などどしどしお寄せください。一緒に考えながら、「これからの保育」をいっしょに創っていきましょう。

参考文献 : 藤森平司 著『たてわりでない異年齢児保育 21世紀型保育のススメ』 世界文化社 他




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