「あなたはあなたのままでいい」

初瀬基樹

 今の世の中、一番大切なのは、こんな言葉なのかもしれないと思います。

 日本は生きていくだけで息苦しさを感じませんか?と言って、私は外国に住んだ経験があるわけではないのですが、福祉先進国といわれる北欧の話を聞いたりすると、本当にうらやましく思います。40手前の働き盛りでこんなことを考えるのもどうかと思うのですが、「何でこんなにゆとりがないんだろう?もっと毎日をのんびり過ごしたいのに」と思うことが多くなってきました。年代にもよるのかもしれませんが、私自身、学歴社会、競争社会でもまれて育ってきて、そういったものが、すでに体に染み込んでしまっているようで、たまにゆっくりしようと思っても、何かしていないと落ち着かない、絶えず、誰かに評価されているのでは?と気を使っていて、なかなか自分を変えることができません。(忙しいのが一番の原因なのでしょうが・・・。)

 ですが、子どもたちには、特に保育園時代(欲を言えば小学生の間ぐらい)は、できるだけ、人と比べたりするのではなく、自分の好きなことをどんどんやってほしい。『何かをやりたい!」「何かが出来るようになりたい!」と思ったら、とことんそれにのめり込んでほしい。人がどうこうでなく、自分自身がどれだけがんばったか、自分ががんばって、以前よりも上手に出来るようになったとか、そういうことに満足感や、達成感を感じて欲しい。そして、そんな自分自身を好きになって欲しいと思います。


 いろんな研修に参加して、講師の先生方が言われることは、共通して「過度の競争社会は子どもたちを追い込んでしまう」ということ。そして、子どもたちを救う手立ては、「愛情」だということです。

 幼少期からひどい体罰を受けて育ったヒットラーは、のちにユダヤ人の大量虐殺を行いました。10年前に神戸で連続して殺人を犯した酒鬼薔薇少年も、幼いときから厳しい体罰を受けて育ったようです。きっと、親は「立派な大人に育って欲しい」と願って、厳しくしつけたのでしょうが、それが逆効果となってしまったのです。


 しかし、世界には、軽度発達障害を抱え、育ちにくさ、育てにくさがあったにもかかわらず、偉業を成し遂げた人たちも大勢います。

 エジソン・アインシュタイン・モーツアルト・坂本竜馬などは、今で言うADHD(注意欠陥・多動性障害)であっただろうと言われていますし、黒柳徹子、トム・クルーズはLD(学習障害)であったことを告白しています。また、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツや、織田信長などはAS(アスペルガー症候群)だったのではと噂されています。

 詳しくは、まだ私も勉強不足ですが、簡単に言うと、ADHDとは、注意力が散漫で集中力に欠け、そわそわ動き回ったり、人の話が聞けない、順番が待てない、すぐに忘れるなどが特徴で、LDは、読む、書く、計算する、聞く、話す、考えるなど特定のことが困難であったりするようです。色んなケースがあるようですが、例えば、俳優のトム・クルーズは、文章を読んでも意味が頭に入らない、覚えられないのだそうで、台本を人に読んでもらって、セリフを覚えるのだそうです。ASは、自閉症に近いのですが、知的な発達に遅れはありません。言葉の発達にも遅れはないのに、意味の理解が出来ていなかったり、人の気持ちを考えたりすることが難しく、コミュニケーションが苦手なのが特徴なのだそうです。


 これらのような特徴は、小さいときには多かれ少なかれ、誰にでもあるものですが、大きくなってもこうした特徴が続いてしまうのは、やはり脳の機能に障害があるのが原因らしいのです。ところが、知能の遅れがあるわけではないので、一般の人からは、「親のしつけのせい」のように見えてしまったり、「本人の努力が足りない」ように見えてしまったりするから誤解を招きやすいのです。


 こうした広汎性発達障害と呼ばれている障害を抱えている人たちでも、周りの環境が整えば、普通の人以上の能力を発揮できることを、前述の偉業を成し遂げた人たちが証明しています。


 そして、何より一番大切なことは、そうした人たちには共通して「無条件の愛で、丁寧に、根気よく、その人の成長を信じ、支える人たちがいた」ということです。


 学校を3ヶ月で退学し、父親からも見放されたエジソンを、彼の母親は根気よく、丁寧にかかわり、エジソンの「なぜ?なぜ?」にとことん付き合ったのだそうです。そのうちに、母親はエジソンに科学の才能があることを知り、自宅の地下室を実験室にして、エジソンに与えたそうです。さらに、彼女は「人間は人類のために努力して生きなければならない」ということをエジソンに熱心に教えました。

 後にエジソンは「母ほど自分を認め、信じてくれた人はいない。それなくしては、決して発明家としてやっていけなかった気がする」という言葉を残しています。


 「今のままじゃダメだ、もっとがんばれ!」と叱咤激励するよりも、「あなたはあなたのままでいい」と「認める」ことの方が、その人の「内側からの力を引き出す」ことにつながるのではないでしょうか。





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