「甘えさせ」と「甘やかし」 ・ 「怒る」と「叱る」
初瀬基樹
先日、東京成徳大学教授の今井和子先生をお呼びしての研修会に参加してきました。今井先生は私が最も尊敬する先生の一人で、私が東京の保育園で働いていたときからご指導頂いている先生です。その今井先生のお話のなかから、似ているようだけど違う「甘えさせ」と「甘やかし」、「怒る」と「叱る」についてご紹介します。
●「甘えさせ」と「甘やかし」
「甘えさせ」
子どもは、びっくりしたり、怖い目にあったり、さみしい思いをしたり、悲しい思いをしたり、いろんな感情体験を味わったとき、心が動揺し、心にスキマが出来ます。すると、その心のスキマを埋めて欲しくて、子どもは特定の大好きな人にまとわりついたりしてスキンシップを求めます。そんなとき、大人は、しっかりとスキンシップをはかり、話を聞いてあげ、「甘えさせ」てやることが大切です。そうすることで、子どもは「安心の境地」へと導かれ、心のスキマを埋めることができます。心のスキマが埋まれば、子どもは「もう大丈夫!」と自分から離れていくことが出来ます。それを支えに自立していくことが出来るのです。小学生になっても、もっと大きくなってからでも甘えたいときはあるので、そんなときはしっかりと受け止めてやることが必要です。「甘えさせ」はとても大切なことなのです。
「甘やかし」
「甘えさせ」が子ども自身の不安を解消するためなのに対し、「甘やかし」とは、大人が「自分の不安を解消するため」に行なう行為です。たとえば、普段遊んでやれないからと、おもちゃやおこづかいを与えたり、子どもが欲しがるものを何でも買ってやったりすること。あるいは、汚されたり、ケガをされたりすると困るからと「それ以上はやめて」と何でもかんでも、すぐに規制してしまうこと。また、自分が子どものときに出来なかったからと、子どもの意に反して習い事をさせることなどです。いずれも、「子どものため」ではなく(それが「子どものため」と思っている場合も・・・)、大人が「自分自身の満足のため」に行なっていることで、子どもは一時は喜ぶかもしれませんが、それだけでは、心のスキマを埋めることはできません。こうした「甘やかし」によって、わがままになったり、自尊感情の低い子になったり、決断力、行動力に欠ける子どもになったりする場合が多々あるようです。「甘えさせ」と違って、「甘やかし」は、ほどほどにしておいた方がよさそうです。
●「怒る」と「叱る」
「怒る」
「怒る」というのは、「自分の感情のいらだちをコントロールできずに子どもにぶつけること」です。例えば「片付けておいてね」と言って出かけていき、帰ってきてもまだ片付いていなかったときなど、「片付けといてって言ったでしょ!なんでしてないの!どうして言うこと聞けないの!」というような場合。特徴的なのは「“あなた”言葉」になっていることです。「(あなたは)どうして出来ないの!」と相手を非難し、「(あなたは)ダメな子」とレッテルを貼ってしまうことになります。「(あなたは)なんてだらしない子なの!」「どうして(あなたは)そんなにグズなの!」と言っていると、本当にそのような子に育ってしまいます。誰でも、感情が高ぶって、どうしても怒ってしまうこともありますが、「怒る」効果は、ほとんど期待できず、むしろ反発心を招くか、恐怖心を与えるだけで、お互いの信頼関係がまずくなるだけなので、できることなら控えた方がよさそうです。
「叱る」
それに対し、「叱る」とは、「なぜそれがいけないかを子どもにわからせる」こと。もともと、日本人は「叱り上手」だったと言われています。正座して叱る、あるいは着物を着替えて叱るなど、叱る側が、自分の感情をうまくコントロールしながら、何がいけないことなのかを相手に丁寧に伝えていたようです。「叱る」場合には、「“あなた”言葉」ではなく、「“わたし”言葉」で伝えます。「わたしは、こうしてほしいと思っている。」「わたしは、○○されると困る。悲しい。」など、自分がどう思っているのか、自分の思い、気持ち、考えを、自分の責任において訴える。注意が必要なのは、「そんなことするとおまわりさんに怒られるよ!」とか、「悪いことするとオバケが来るよ」「お父さんが帰ってきたら、きつく叱ってもらうからね。」などと、自分の責任ではなく、人に任せてしまう叱り方です。自分の責任で、きちんと理由も述べて、自分の考えを述べることが大切です。
叱るのが上手な人の場合、叱ったからといって信頼関係が崩れることはなく、お互いの関係は、むしろ良くなっていきます。ポイントは、「その場で短く」「自分の言葉で」「理由とともに」「行動そのもの(相手の存在まで否定してしまうことのないよう、間違った行為や行動のみに対して)を」叱ることです。
我が家の下の娘は小学2年生ですが、まだまだ甘えたいときが多々あるようです。先日も、風呂あがりに脱衣所で地団駄を踏みながら泣いていました。はじめのうちは、なぜ泣いているのか理由を尋ねても答えずに、ただただ足をバタバタさせて泣いていました。とりあえず、体を拭いてやり、しばらく抱っこして、落ち着いた頃に尋ねると、体を拭いてほしかったけど、もう2年生だから、そんなこと言っちゃいけないと思ったとのこと。眠くなってきたこともあって、ひとりで葛藤していたのでしょう。「たまにはいいよ。」とたっぷり抱っこしてやっているとすっかり機嫌を直し、「今日はパパと寝る!」といつもは母親の隣で寝る娘が、私の隣でご機嫌で寝ました。そのときは、我ながら「甘いかな〜」と思っていましたが、今井先生のお話を伺って、たとえ小学生であっても大切なことだったんだと安心しました。「自分で出来る年なんだから、自分でしなさい」なんて余計なことを言わなくて本当によかったと思いました。