静寂に思える宇宙空間・・・この平和に満ちた世界にも、目を凝らし、耳を澄ませば、命の息吹が感じられる。
生命の営みは、宇宙における至福の光景だろう。
だが、その平和な時を打ち破る悪意の存在が、この宇宙に存在していた。
漆黒の闇に、幾つかの光がぶつかってゆく光景がありました。
闇に向かい、それを駆逐しようと戦い続ける無数の光。
いえ、それは光では、ありませんでした。
光だと思えたのは、その姿からエネルギーが迸っていたからでした。
銀河宇宙に襲い掛かる”闇”を封じ込めようと、全力で任務にあたる光の戦士たち。
だが、それを封じ込めるのに時間がかかりすぎていました。
その力は、各所に放たれ、”闇”の力は、徐々にその影響を広げつつあったのです。
光の戦士達は、”闇”の根拠地を封鎖する為に”光破バリアー”作戦を決行します。
しかし、”闇”の恐るべき力は、光の戦士たちにも襲いかかるのです。
闇から生まれた”深淵の者”は、何人かの光の戦士を取り込んでゆきます。
取り込まれた戦士達は、異形の者と成り果て、それまでの仲間を襲い掛かってくるのです。
仲間だった彼らに対して、攻撃を躊躇する戦士達を鼓舞する赤い戦士。
アイスラッガーを握り締め、異形の者となった仲間を切り裂いてゆく赤い戦士。
その戦士に寄り添うように立ち、彼を援護する戦士の姿がありました。
腕の強化刃で、異形の者を容赦なく切り裂いてゆく戦士の姿は、他の光の戦士達の中でも異彩を放っていました。
でも、彼一人の奮戦では、状況が変化するはずもなく、追い込まれてゆく戦士たち。
不完全な状態だったにも関らず、”光破バリアー”を作動させてしまう彼ら。
攻防を続ける彼らを巻き込みながら凝縮してゆくバリアー。
すべてがいったん凝縮し、爆散するバリアー。
その爆発が収まった時、すべてが消え去り、宇宙は一時的な静寂な時を取り戻したのでした・・・

堰需の街を走る女子高生がひとり・・・彼女の名前は”高浪 亜季”堰需学園高等学校の学生です。
今日は、郊外活動でしたが、終業時間が遅くなり、”寮”の門限が迫っていて、慌てて帰寮する途中でした。
「もう!あの店長ったら、ネチネチ五月蝿いんだから。時間を考えて欲しいわ!」
後30分以内に寮に戻れないと、学園校則に違反したとして、週末の外出許可が取り消されてしまうのです。
週末は、バレー部の郊外試合もあり、レギュラーの”亜季”にとってそれは、許されない事だったのです。
その必死の彼女に、更なる悪夢が襲い掛かかります。
周りの皆の様子がおかしい事に気づく”亜季”。
全員が、空を指差し、何かを叫んでいます。走りを止めて、周りを気にする”亜季”。
「ねぇ、あれみて」「なんだ、ありゃ?」「きれいねぇ〜」人々の指し示す場所に目を向ける”亜季”。
その目に飛び込んだものは、光る線状のものが輝く黒い球体でした。
呆然と立ちすくむ”亜季”
その脳裏に突然誰かの叫びを感じる”亜季”
「逃げ・・ろ。逃げるんだ・・・」
何者かが彼女に対して話しかけてきていました。思わず周りを見る”亜季”
しかし、そのような人物は見当たりません。
「おい、あれ、こっちに来るんじゃないか?」「ええ??」「おい・・・おい・・・」
人々が身に危険を感じたときは、遅すぎました。
球体は、その彼らのもとに落下し、大爆発を起こしたのです。
逃げ遅れた人々を粉砕し、建物をなぎ倒してゆくその様子を”亜季”は、他人事のように見つめていました。
「なに?なんなのいったい・・・」
驚く彼女の脳裏に、先ほどの声が聞こえてきます。
「すまない・・・君だけしか守る事ができなかった・・・・」
目の前の惨状と状況の把握ができず混乱する彼女は、その場で気を失ったのです。

突然、寮の自室で目覚める”亜季”
昨夜の記憶が甦り、思わずベットの中にもぐりこむ彼女。
「昨日事は夢だった・・・?どうして私は、ここに・・・??」
記憶を辿ろうとするが、混乱して思い出せない”亜季”。
そこに同室の”香子”が、彼女の元にやってきます。
「朝練終ったよ〜。”アキ”どうしちゃったのよ、昨日は?」
心配そうに覗き込む”香子”に、昨晩の様子を聞き返す”亜季”
「門限までに帰ってこないもんだから、玄関で待っていたんだけど、いつのまにか自分のベットで寝てるんだもん」
彼女によると、”亜季”は、いつの間にか寮の自室に戻っていたらしいのです。
その時”亜季”の記憶が甦り、堰需の街で起きた悲惨な光景が思い出されます。
「街は、あの人達はどうなったの?!」
あまりの剣幕に”香子”も驚くのですが、彼女の言っている事が昨晩の事故の事だと思い、TVをつけます。
ちょうどニュースで、昨晩の事件を放送していたのです。
堰需で起きた爆発事故は、防衛軍の新型航空機の墜落事故で、奇跡的にも人的被害は皆無だったと放送されていたのです。
「だれも・・・誰も死ななかった・・・?」
思わず、あの惨状を思い出さずには、いられない”亜季”
そんな”亜季”に”香子”は、いつも通りの様子で話しかけるのでした。
「なに変な顔してるのよ!もう学校が始まるよ」
いそいで、準備して、寮を飛び出る二人。それは、いつもの二人の姿にもどっていました。

学校でも昨夜の事故を友達にするも相手にされず、意気消沈する”亜季”
放課後のバレー部の練習でも精彩を欠き、体育館の裏で休む彼女。
記憶の事実と現実の相違を感じる自分に戸惑う”亜季”は、なんとか失われた記憶を甦らせようと努力していたのです。
その時です。あの時聞いた、謎の声が脳裏に響いてきたのです。
「すまなかった。君だけしか守る事はできなかった・・・」
声の存在を探して振り返る”亜季”。しかし誰もいません。
気のせいかと思いかけた彼女に、また謎の声が問いかけてきます。
「私だけって・・・、それにあなたは誰なの?!」彼女の問いかけに、声の主が応えてきます。
「私は、君を守る為に君と同化している生命体だ。」
その生命体は、彼女に経緯を話し、闇の球体から人々を守ろうとしたが果たせず、”亜季”だけをかろうじて守ったのだと伝えるのでした。
光の戦士、”闇”の存在、異形の者の存在・・・
「何訳のわかんない事言ってるのよ!黙って人の体に寄生するのは止めて頂戴!」
”亜季”の拒絶の感情は、クロノスにも理解できるものでした。
しかしクロノスにも大きな問題がありました。
クロノスは、”亜季”に理解できるように説明するのでした。
彼が闇に寄生された事。そして、闇に寄生された自分が、いつ異形の者として変化するかも知れないと言う事を。
「冗談じゃないわ!私の体の中で・・・勘弁して欲しい!」
だが、クロノスのカラータイマーは、青色のままでした。
闇と戦う光の戦士達は、闇に取り込まれた際の危険レベルが、自己診断できるようにカラータイマーを装着しているのです。。
青〜赤へ変化してゆく状況は、光の戦士としての意識の状態を表し、赤色の消失は、闇に取り込まれることを意味していました。
「カラータイマーが青色だという事は、闇の呪縛から逃れたのだろうか?」
「なに浸ってんのよ!これからどうするつもりなの!」
クロノスは、彼女に事情をできるだけ説明しようとしますが、受け容れられるはずもなく、彼女に拒絶されるのです。
「一体全体どうなってるのよ!勝手に人の体に間借りして・・・」
内心の怒りを隠せない様子で、同化しているクロノスと激論を交しながら、帰宅の途につく”亜季”でした。
その彼女の行く手に突然、男が立塞がります。
「なによ!ちょっとどいてよ!」
行く手を阻む男を避けようとしたとき、男は”亜季”を殴り倒そうとします。
「あんた痴漢?!」
咄嗟に逃げようとする彼女の行く手を驚くべき速さで塞ぐ男。
その男の姿が、突然変化してゆきます。
「ちょ・・・ちょ・・・どうなってるの?!」
驚いて、その場にすくんでしまった彼女にクロノスが、叫びます。
「逃げろ!”亜季”」
「えっ?あれが、あんたの話してた・・・?」
「そうだ。闇に取り込まれたこの星の人間だろう・・・いや人間だったというべきか」
異形の者に変化した男は、触手を”亜季”にのばします。
「逃げろ!とりつかれたら同化されてしまうぞ!」
クロノスの指摘が無くても”亜季”は、すでに走りだしていました。
しかし、触手は、彼女の足を絡め取ると、引きずり倒してしまいます。
「”亜季”立て!逃げるんだ!」
だが、彼女の足にからまった触手の為に、彼女は逃げ出す事ができません。
「体の中でなんか言うだけじゃなくて、なんとかしてよ!」
救いを求める彼女にクロノスも苦悩します。
彼女との分離する方法をしらないクロノスには、手も足もでない状況だったのです。
迫る異形の者に、恐怖する”亜季”
その瞬間でした。
”亜季”の体が発光すると、転身が始まったのです。
「え?ええ?なんで!!」
分離したクロノスの中で叫ぶ”亜季”。彼女の精神は、クロノスに取り込まれる形で存在していました。
「今度は、どうなってるの?!」
クロノスを通して、現状を把握できる自分に驚く”亜季”。
「私の体!!」「心配するな”亜季”。君の体は、私自身と転身されたんだ!」
異形の者と対峙するクロノス。体型を変幻自在に変化させ、クロノスと戦う異形の者。
戦い続けるクロノスでしたが、突然カラータイマーが点滅を始めるのです。
「なんか点滅してるわよ!どうかしたの?」
”亜季”の問いかけに説明するクロノス。
「じゃ、このままだとあんたもあれと同じに・・・?」
「そうだ、だから私が倒れる前にあいつを倒す必要がある!」
クロノスは、渾身の力をもって、触手を断ち切ると、開口部に右手を差込み、スラッシュボルトを撃ち込みます。
至近距離で放たれた光弾は、異形の者を打ち砕くのでした。
しかし、カラータイマーの点滅は、ゆっくりと消えかかっていました。
「すまない”亜季”。君も巻き添えにしてしまった・・・」
クロノスと精神同調している彼女には、彼自身が本当に後悔している事を感じていました。
クロノスは、自分が闇に取り込まれ同化する前に、自分を消失させようと、意思を固めます。
「この世界で取り込まれるわけにはいかない」「ええ、分かるわ」
先程までのクロノスとの蟠りも、”亜季”には、なんの嫌悪感も感じていません。
クロノスの本意が理解できた事で、彼女はとても安心できたのです。
自分への謝辞、守れなかった憤り、その他全ての事が、彼女に流れ込み、彼女をリラックスさせたのです。
地球人”亜季”と異星人”クロノス”の心が、紡がれたのです。
「すまなかった、”亜季”」「いいのよ、クロノス・・・」
その瞬間、クロノスの体は、輝きの中に消えていったのでした

ベットで、目が覚める”亜季”
服装は、あの時の事件に巻き込まれたままです。
「私・・・死んだ・・・??」
混乱する彼女の脳裡に響く懐かしい声がありました。
「残念だが、死んでいないようだ。再会できて嬉しいよ」
クロノスが生きていた事に喜びを隠せない”亜季”
「でも、どうして?」
「それは、分からない。だが、君の元にもどれて嬉しいよ」
クロノスも嬉しそうだ。
「しばらくは、居候って事ね。しかたないわね」
「それに、また、あの怪物もでそうだしね。用心棒としておいてあげるわ♪」
こうして二人の奇妙な生活が始まったのでした。