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卒業論文: 談話分析―男女の会話に違いはあるのか―

1.   序章.

2.先行研究.

2.1異性間の会話.

2.1.1男は女の会話に「割り込む」..

2.1.2女は「会話の下働き」..

2.2同性間の会話.

2.2.1.命令形..

2.2.2.女性の協調的会話..

2.2.2.1.弱め表現と強め表現..

2.2.2.2.重なり..

2.2.2.3. Compliment

2.2.3.男同士の会話..

3.「協調的会話」と「競争的会話」の二分法に対する疑問.

4.結論.

参考文献.

1.  序章

私たちが日頃やりとりしている会話や読み書きしている文章には、どのような仕組みと働きがあるのかを研究しようとするのが、談話分析(discourse analysis)という分野である。従来、文法では文を最大の単位としてその仕組みを解き明かそうとしてきたが、ディスコース分析では文を超えた談話(discourse)という単位で言葉の構造と機能、テクスト(1)とコンテクスト(2)、コミュニケーション・モデル、談話資料といったところ分析してきた。

    (1)文字や音声などの形式的要素から成るまとまりを指す。ひとまとまりの書き言葉は話し言葉によって表さ           れたものをいう。しばしば談話と区別なく用いられるが、書かれたものを指す場合が多い。
     例えばエッセイ、広告、道路標識など。

    (2)一般には、言語形式と非言語的事物や事件との関係をいう解釈者が人間場合、コンテキストも解釈の
     対象としてテキスト化するにしたがって、テキストとコンテキストの境界は曖昧になるのが特徴である。

また、ディスコース概念に基づく分析(談話分析)は、話し言葉・書き言葉・家庭内の会話・職場の会話・儀式の中の言葉・友人間のおしゃべりなど、様々な言語行為を対象とし、その地域の歴史・経済・文化的背景・話し手、聞き手の社会関係・心理関係・会話の目的・機能などの幅広い情報を手がかりに、言語行為を研究してきた。Holmes (1995)によれば女性は対人関係を構築するために言語を使用し、一方男性は情報の伝達手段として使用すると論じている。

Most women enjoy talk and regard talking as an important means of keeping in touch, especially with friends and intimates. They use language to establish, nurture and develop personal relationships.
Men tend to see language more as a tool for obtaining and conveying information. They see talk as a means to the end , and the end  can often  be very precisely defined.

ディスコース分析の分野において、多くの研究者たちがジェンダーによって男女の会話を研究してきたが、果たしてこのような性差によって、男女の会話を区別することが妥当なのだろうかという疑問を感じた。
以下では80年代から90年代の初期に発展した研究を中心に、男性と女性の「異性間の会話」と、女同士・男同士の「同性間の会話」に関する研究を整理し、どのような結果が観察されたのか見ていく。また、それらの研究に対して感じた疑問を、研究者たちが言及した研究結果と共に、筆者が集めた例文を通して考察していく。


2.先行研究

2.1異性間の会話

 中村(2001)によれば、女性と男性の会話の研究は、女性が話題を提供し会話を促しているのに対して、男性は女性の会話に割り込み、話を促す努力をせずに、女性が提供した話題を放棄する傾向があると報告している。またHolmes (1995)は公のコンテキストにおいても、男性の方が会話を支配し、女性よりもよく話し、質問し、「割り込み」(interruption)をする傾向があると述べて、そして男性は会話の主導権(floor)を握ると、女性よりも話し手の意見に異議を唱えたり(challenge)、拒否したり(refuse)したりすると報告している。

2.1.1男は女の会話に「割り込む」

(1)  Woman: How’s your paper coming?

Man:   Alright I guess. I haven’t done

much in past two weeks.

Woman: yeah. Know how that        | can |

Man:                                              | Hey | ya,

got an extra cigarette?

Woman: Oh uh sure (hands him the pack)

like MY    | pa |

Man:                          |How  |‘bout a match

Woman: ‘ Ere ya go uh like MY     | pa |

Man:                                                   |Thanks|

Woman: Sure. I was gonna tell you

                        | my |

Man:       | Hey  | I’d really like ta’ talk but

                        I gotta run see ya

Woman: Yeah.

The words within the brackets were uttered simultaneously.]

(Zimmeraman& West 1977: 527_8)

この例は大学での男女の会話の一場面であるが、男性が女性の会話に「割りこんだ」後、女性は「沈黙」し会話を放棄していることがわかる。会話の中でのいくつかの性差的違いのうち、ここでは女性が男性の会話に割りこむ割合に対して、男性の方が驚くべき割合で、女性の会話に割り込んでいることが分かった。
 Zimmeraman& West (1975)は、会話の中の「割り込み」(interruption)や「沈黙」が、話し手の性とどのような関係があるのか調べた。会話を「一時に一人の話し手が話し、話す順番が交代する」と想定すると、話し手が話し終えてないのに、次の話し手が話し始めると「重なり」(over lap)が生じ、話し手は「割り込まれた」と感じる。Zimmeraman& West (1975)
「重なり」は、会話中に複数の人の発話が偶発的に重なってしまう場合を指し、「割り込み」は、会話において話し手が話を続ける意思があるのに、他の参加者が発言権を取ることを指す。まず20組の同性2名間の会話における「重なり」と「割り込み」の頻度には違いが全く見られなかった。ところが11組に混成の2名の会話においては、「重なり」が男100%女0%、「割り込み」が男96%女4%という違いが報告された。男の方が驚くべき頻度で女に「割り込んでいる」ことが分かった。
 次に「沈黙」に関しては、異性間の会話における女の話し手が最も長く「沈黙」していることが明らかになった。女性の「沈黙」の62%が次の3つの出来事の直後に起こっている。1つ目は、男が「相づち」(Back-channeling)のタイミングを遅らせた直後である。「相づち」は話し手の発言を促す働きをするが、女と話している時の男は通常より間を空けて「相づち」をうつことが多く、男の「相づち」が遅れた後に女は黙ってしまう。2つ目は、男が「重なり」をした後、そして3つ目が、男が「割り込み」をした後である。これは、男は女の発言を促す「相づち」をすることを怠り、自分の話す権利は「重なり」や「割り込み」をしても守っているのに比べ、女は男に「割り込まれ」たり、「相づち」によって興味を示されないと話す権利を簡単に放棄して沈黙してしまうという傾向を示している。
 この結果に基づき、Zimmeraman& Westは、男はより広い社会制度の支配と同様に、会話という制度も支配していると結論付けている。男が女の話に「割り込み」、女の話を促す努力を怠り、女はこれに甘んじて沈黙する現象は、「マクロ社会を男がコントロールすることで男支配が示されているのと同様に、[会話という]ミクロ制度も男がコントロールすることで男支配が示されている」とも報告している。(Zimmeraman& West 1975125

2.1.2女は「会話の下働き」

Fishman(1983)は、同居している3組の異性カップルの会話を分析し、女は会話をスムーズに行う努力をしているのに関わらず、男が適切に反応しないために女の試みが失敗するという次のような結果を得ている。女性は男性の2.5倍も質問し会話を進める努力をしている。また、2倍も「D’ya know? (知ってる?)」「This is interesting (おもしろいよ。)」などで会話を始め、聞き手の興味を引く努力をしている。
 女性は男性の話に興味を示し、男性が話しやすいよう相づちを使う。しかし、男性の相づちはタイミングが遅れて女性の発言の腰を折る傾向がある。さらに男性は女性の2倍以上も断定的な「言い切り」をし、後にはその話題についての長い話が続く。女性の方が多く話題を提供するが、女の話題47個のうち会話に発展したのが17個だったのに比べ、男性の話題は1個を除いてすべて会話に発展していった。
 この結果を踏まえて、Fishmanは社会に性別分業があるのと同じように会話にも役割分業があり、女は会話においても報われない努力を強いられる「会話の下働き(conversational shitworkers)」だと考えた。「女は日常会話の『下働き』であり、その労働によって作られた『製品』は会話だけではなく、その労働を通して作り上げられる現実である。」(Fishman 198399)女が「会話の下働き」なのは、マクロ社会の権力関係が会話というミクロのレベルでも行使されているからだと考えたのである。

2.2同性間の会話

同性間の会話に対する研究は、男女が同じ目的を達成するために異なった言語手段を用い、同じ言語手段を異なった機能で用いる傾向があるようだ。以下では、命令形、弱め表現、相づち・質問などの「重なり」、賛辞の例を見ていく。


2.2.1.命令形

Goodwin(1980)は、フィラデルフィアのアフリカ系アメリカ人の子供の遊びを観察し、男女のグループ構造と言語構造に大きな違いがあることを報告している。男女では遊びグループの関係が違うだけでなく、遊びに伴う言語行動、特に相手に何かをさせる際にどのような命令形を用いるかに大きな違いが見られた。
 女子は2,3人の小さなグループで遊び、グループ内の関係は平等である。遊びを提案したり、遊びを決める過程には全員が参加する。このような関係では、直接上下関係を表現する命令形ではなく、上下関係を緩和するような、let’sweが頻繁に用いられた。


(2)       Sharon : Let’s go around Subs and Suds.

(サブス・サッズの方へ行ってみよう)

            Pam :        Let’s ask her ‘Do you have any bottles.’

(「瓶ありますか」って聞こう)

                  (Goodwin 1980165)

一方、大多数でリーダーが存在する男子グループでは、上下関係を強調する攻撃的な命令形を用いる。

(3)      Michael : Gimme : the pliers!

(ペンチ、くれ!)

Poochie :(マイケルにペンチを渡す)

(Goodwin 1980158)

つまり、女子は非階層的グループ構造を形成し、柔らかな提案形を用いることが多く、男子は階層的グループ構造を形成し地位の差を強調する命令形を用いることが多いという結果がここで観察されたのである。

2.2.2.女性の協調的会話

 女同士の会話には、話し手の発言を相づちや質問によって、積極的に促し、話し手の話題の展開に協力し、順番を取り合うのではなく分け合うという特徴が見られた。さらに聞き手は話し手の発言を完成させてあげたり、繰り返すことによって、話し手と協力して会話を作り上げていることが分かった。
 中村2001は女性のこのような会話の特徴について、第一に、Lakoff (1975)が「女性の言語の説得力のなさ」として挙げた女の言葉づかいの特徴が、人間関係維持を目的とする私的な会話においては有効な働きをしている。
 第二には、異性間の会話では会話の主導権を握るために用いられた同じ「割り込み」などの手段が、女同士の会話では全く反対に、お互いの会話を促し協力する働きをしていると報告している。
 以下では、情緒的言語要素(epistemic modal)の中の「弱め表現・強め表現(Hedges and Booster)」と「重なり」について見ていく。

2.2.2.1.弱め表現と強め表現

Lakoff (1975)1970年代に次のようなことを述べている。

Hedges and boosters were characteristic of ‘women’s language’, and that they expressed a lack of confidence and reflected women’s social insecurity, as well as their propensity to be more polite than men.
 情緒的言語要素には、「弱め表現(Hedges)」と「強め表現Booster」がある。「弱め表現」とは、“hedging devices reduce the strength or force of an utterance”であり、イントネーションの上げ・下げ、付加疑問文 tag questions)、 法助動詞、語彙的道具としての perhaps(たぶん)、conceivably(想像では)、またsort of(みたいな)、I think(私が思うには)などの実用的な接頭辞がある。

(4)      “You’re working too hard. Try to come home early, will you, Oliver?” She hesitated a moment. “You‘ve been out a lot lately”Sidney Sheldon The Best Laid Plans

これは、「弱め表現」の中の付加疑問文の例である。ここで妻である女性は、夫に最近帰りが遅いことについての不満を言うのだが、付加疑問を使用することによって、またためらい(hesitate)ながら言うとこによって、自分の意見を弱めて伝えている。

(5)   Carolyn:       you know, you could have         some really fun backyard get-togethers out here.

Women#1:  The ad said this pool was “ lagoon-like. ”There’s nothing “ lagoon-like” about it. Except for maybe         the bugs.

Women#2:  There’s not even any plants out here.

Carolyn: (point at bushes)  what do you call this? Is this not a plant? If youhave a problem with the plants, I can always call my landscape architect. Solved.

Women#2:  I mean, I think “ lagoon,” I think waterfall, I think tropical. This is a cement…hole.

Carolyn:    Ah…I have some tiki

    torches in the garage.Alan Ball American beauty

これは、不動産のセールスレーディーであるCarolynが、家を見に来た40代のふたりの女性に裏庭について説明している場面である。初めにWomen#1が、広告にはプールの事を“lagoon-like”と書いてあったと言い、Women#2が植木だって無いと言う。しかし、Carolynが熱心に庭について、自社のアフターサービスについて説明する。その結果、Women#2I think3度繰り返すことで、自己主張を弱めていると考えられる。
Lakoff (1975)によれば、「これらの弱め表現は、女の発言を説得力のないものにしている」とされていた。しかし女同士におけるこれらの要素の使用は、話し手の主張を弱めるというよりも、強く主張しすぎて聞き手の発言を押さえる可能性を低め、他の人が発言しやすくする働きがあると考える。

(6)   Teacher to pupils

STOP THAT TALKING

Holmes 1995

上記の例は先生が生徒に対して、強いアクセントや高い音量と使用することによって、聞き手への警告を示したのである。
「強め表現booster)」とは “boosting devices intensify or emphasis the force”であり、韻律論の特徴である強いアクセントや高い音量、統語論的構造の感嘆符やmustなどの法助動詞、of courseなどの 実用的な接頭辞、そして法助副詞、例えば incredibly, absolutely, certainlyなどがある。
 Holmes (1995)よれば「強め表現」には、協調性を表す側面の他に、相手の会話を抑止する側面もあるとしている。

2.2.2.2.重なり

女性同士の会話で観察された「重なり」は、聞き手が話し手の会話を完成させる「重なり」と、複数の会話の話し手が協力して1つの会話を作り上げていく手段としての「重なり」が多く見られた。

 以下は前者の手段を用いて、女性二人が会話を完成させている例である。

(7)      B : I just thought if the car breaks down on the way home I mean I’ll die of fear I’ll never get out I’ll just

(家に帰る途中で車が壊れたら恐くて死んでしまう。外には出られない。ただ…)

E : just sit here and die

(ただ、そこに座ってて、死ぬだけ)

中村2001

2.2.2.3. Compliment

BrownLevinson (1987)によれば、人は誰でも、「人に強いられたくない」という気持ちと、「賞賛されたい」という気持ちの両方を持っている。両者をその人との面子の関わりで見れば、「人に強いられたくない」というのは「消極的に面子を保つ必要性」であり、「賞賛されたい」というのは、「積極的に面子を立たせる必要性」である。例えば、‘Open the window’と言うかわりに、‘Please open the window’と訊ねるのは、相手の「強いられたくない」という必要性に考慮した「消極的ていねい表現」である。
 一方で、人の発言を受けて「分かりました」という代わりに相手の発言の正しさを賞賛して「おっしゃるとおりです」と答えるのが「積極的ていねい表現」である。これに反して、人の面子を考慮しない行為は「面子をつぶす行為(face-threatening act)」となる。
Holmes (1995)は、女性の方が男性よりも情緒的意味を重視し、より丁寧であることを示した。
 一方で男性は会話の情緒的意味よりも情報内容を重視する傾向が女よりも強い。私的な会話では、会話の進行を促す努力を女ほどしないが、地位中心の公的な場では、積極的に発言を得る努力をする。女と比べて「同意」することが少なく、自分の主張を和らげるとことなく反論することが多い。以下では、Holmesの研究のうち「賛辞(Compliment)」についての例を見ていく。
「賛辞
(Compliment)」とは、‘What a lovely tie’のように相手を言葉でほめる行為を指す。賛辞は発話内容の情報を伝えるよりも、会話の参加者の感情や関係に関わる情緒的意味を担う言語行動であり、聞き手の「ほめられたい」という積極的必要性に働きかける「積極的ていねいさ」の表現である。「賛辞」は話し手と聞き手の上下関係・親疎関係に強く結びついている。ほとんどの賛辞は対等な人間関係で行われ、ほめる人とほめられる人との関係を強くする働きがある。両者の間に権力関係がある場合は、力の強いものが弱いものをほめることが多い。
ニュージーランドの自然な会話から採取した484の賛辞を調査し、賛辞の頻度は「女から女」が飛び抜けて高く、「男から女」「女から男」「男から男」の順に低くなっていくことを示した。

(Holmes 1995:123)

女性は全ての賛辞のうち68%の使用を記録し、74%の賛辞を受けていた。それに対して、男性間の賛辞はほとんど稀で、たったの9%であった。また女性から男性に対しての賛辞も、26%と女性に比べかなり少なかった。この結果から会話の中で賛辞が払われるのは、男性より女性の会話の中で頻繁に使用されることが分かった。
 賛辞を用いる統語構造にも性差が観察された。男女とも最も頻繁に用いられたのは‘That coat is really great’のような、「NP BE(LOOKING) (INT) ADJ」の構造であるが、頻度の低い2つの構造に性差が見られた。女性が男性に比べて多用したのは‘What lovely children!’のような、「WHAT (a) (INT) NP!」の感動の語順の構造である。
 一方男性が女性より多く使用したのは、‘Great shoes’のような「(INT) ADJ (NP)」の最も省略された構造であった。賛辞の働きを強調する構造は女性が用い、最小限に押さえる構造は男性が多く用いたのである。
 賛辞の内容や、賛辞に対する反応にも性差が見られた。賛辞の内容には、「容姿(appearance)、「能力(ability)」、「所有物(possessions)」、「性格(personality)、「好意(friendliness)」などがあり、女性に対する賛辞の57%が容姿に対するものであるのに比較して、男性同士では36%であった。賛辞に対する反応のほとんどが男女とも「受け入れ(acceptance)」であった。その他に、「否定(reject)」と「回避(defect/ evade)」が観察された。ここで女性には「否定」が多く観察され、男性は話題を変えたり無視したりする「回避」の方が上回って観察された。

(8) Carolyn:   good morning, Jim!

Jim#1:        Morning, Carolyn.

Carolyn:    (so friendly) I love your tie! That color!

Jim#1:       I just love your roses. How do you

get them to flourish like this?

Carolyn:    Well, I’ll tell you. Egg shells and Miracle Grow.Alan Ball American beauty

このシーンは、近隣に住んでいるJim#1(本編の中でJim#2と同性愛者である。)と庭で花の手入れをしているCarolynとの、朝の一場面である。ここでCarolynJim#1の容姿について賛辞を送り、Jim#1はそれを受け入れた上で、庭に咲くバラについて、つまりCarolynの所有物に対して賛辞を送っている。

(9)   Helen: You’ve made a lovely job of the garden.

Mary:    Oh no it’s a mess really


(10) After a soccer match.

Liam: You played well today Davy.

Davy: You must be joking. I missed s couple of sitters

(Holmes 1995)

上記の例は、賛辞に対しての「否定」である。またHolmes(1995)は次のように言及している。

These avoidance responses are consistent with a perception of compliments as embarrassing, or patronising, and prove support for the suggestion that compliments are more often experienced as face-threatening acts by men than by women.

次に回避の例を挙げておく。

(11) Joe Riley sat there for a long time, studying Leslie, “you’re a remarkable lady”. “I thought it over, and I have a very simple choice”. Sidney Sheldon The Best Laid Plans

これは会社の上司であるJoe RileyLeslieの企画を高く評価し、彼女の能力に対して賛辞を送っているが、Leslieは謙虚な態度を取り、回避することによって、地位の違いを示したと考えられる。
これらの違いは、男女では賛辞の受けとめ方が異なる事を示しており、女性は協調性を強める積極的ていねいさとみなしているが、男性は賛辞の情報自体を重視して、賛辞によって相手が自文に特定の判断を下しているとみなしているのではないか。その結果、男性は話題を変えたりし無視したりして、その判断によって潜在的に面子を傷つけられることを回避していると考えられる。

2.2.3.男同士の会話

中村(2001)によれば、男同士の会話は時にお互い「罵倒」し合うが、一人一人が発言している間は他の人が聞き手に回るため「重なり」が少ない。男同士の会話は沈黙や発話の間が長い間、間の長いモノローグ、あからさまな反論、突然の話題変更という特徴ある。最も興味深いのは、男たちがこのような無愛想な会話を楽しみ、それによって互いの連帯やグループの結束を強めているという点である。また男同士の会話では、一緒にいても話さない沈黙の時間が多いという点である。話している場合も発話と発話の間が女にはみられないほど長い。それは、聞き手の反応を期待して質問した場合でも同じで、質問しても誰も何も答えないことも多い。男は誰も相づちを打たなくても答えなくても、話し続けられる。さらに、男同士の会話でしばしば直接的に反対意見や敵意を表す。彼らは、相手に質問したり、相手を否定したり、相手と反対のことを言ったり、相手を批判する。
Coates(1997)によれば、男性の会話形態は男性同士の友情関係と密接な関係を持っている。女性にとって会話することが友情関係の確認に大きな意味を持つ。一方、男性は一緒に活動する事で友情関係を確認する。
 女性は会話において互いに個人的な感情を共有することで友情関係を確認する。男性は個人的なことを話さなくても友情関係を確認することができる。例えば、彼らは、女性について、競馬、銃、軍隊について会話する。
 白人中流男性が会話を通して友情を表現する方法は、女性とは大きく異なることが報告された。これらを含む数多くの研究から、女性と男性は会話を行う目的や方法が異なるという認識が普及していった。
 つまり女性は会話の中で連帯感やつながりを重視して、会話の情緒的機能を十分に活用した「協調的会話」方法を使用する。一方、男性は会話に地位の確認や上下関係を示すために、指示的機能を重視した「競争的会話」方法を用いる。この違いは女性の「協調的会話」と男性の「競争的会話」と呼ばれるようになった。

3.「協調的会話」と「競争的会話」の二分法に対する疑問

 男女間に見られる言語行動に関する代表的な研究を概観したが、女性と男性が各々「協調的会話」と「競争的会話」を使用する傾向があるという枠組みで談話を分析するということに疑問を感じる。Zimmeraman& West(1975)またFishman(1983)が提唱した社会のマクロレベルでの男支配は、会話のレベルにも当てはまり、男と会話するとき、女は社会の弱者という立場を背負って強者である男とかかわり、男支配の個々の言語行動の中で会話が進んでいくという考え方である。このような場合、ジェンダーによる言語行動の違いは全て男支配という観点からしか解釈されていない。しかし、ジェンダーは人種・年齢・職業・地域など様々な要因と密接に関わっており、男性が女性を支配しているという主張は妥当ではない。また会話においてどれを「重なり」とみなし、どれを「割り込み」とみなすのかという規定が厳密ではないと考える
「一時に一人の話し手が話す」という会話モデルを前提に議論が進んでいるが、このような会話は、司会者がいるような場合には適用できるが、ほとんどの状況では、一時に複数の人が話すのが一般的である。「割り込み」についてもその機能を「会話の支配」と捉えているが、複数の話し手が同時に作っていく会話の形もあり、このような会話では「割り込み」も会話をスムーズに進める役割があると考える。

(12)  Carolyn:   Yes. I don’t mind. I really don’t mind.  You mean, everything? You don’t mind having sole responsibility, your husband feels he can just his job, and you    |know…|

    Lester:                |Will someone pass me the fucking asparagus? |

    Jane:      Okey, I’m not going to be a part of |this…|

Lester:    |Sit down|

Lester:      I’m sick and tired of being treated like I don’t exist. You two do whatever you want to do whenever you want to do it and I don’t complain. All I want is the same  | courtesy...|

Carolyn:             |Oh,| you don’t complain? Oh, excuse me. EXCUSE ME. I must be psychotic then, if you don’t complain. What is this?! Yeah! Am I locked away in a padded cell somewhere, hallucinating? That’s the only explanation I can think of...

The words within the brackets were uttered simultaneously.]−Alan Ball American beauty

 上記の例は食事中に起きた夫婦喧嘩の場面である。まずLesterは男性の特徴である「割り込み」を使用するとことで話の腰を折っている。一方Carolynは「割り込み」を使用し、また「強め表現」の高い音量やmustを使用することによって、競争的な会話を展開している。
 ジェンダーの支配関係からみると、一見男性が女性の会話に割り込んでいるようにみえるが、これを会話全体の構造、このような家庭内の口論においてみると男女共に「競争的・協調的会話」の特徴が観察されるのはごく自然のことである。
 もう一方でジェンダーによる言語行動の違いを考えるとき、男女は会話の目的や方法について異なった下位文化を持っているという見方がある。ジェンダーによる言語行動の相違を異文化の違いと捉え、いわば男女の会話は異文化コミュニケーションであると主張したのが、Malts& Borkerであり、二人の提言を発展させたのがTannen(1990)である。彼女によれば、男女の話し方を文化差と捉えると、文化に優劣をつけにくいのと同様に、女と男の話し方に良し悪しはなく、どちらも承認された話し方なのだが、下位文化が異なるために男女が話すとき「誤解」が生じてしまうと定義している。

…to learn how to interpret each other’s messages and explain your own in a way your partner can understand and accept.

自分の話し方を変えるのが困難であるならば、この誤解を解消するためには互いのメッセージを解釈する方法を学び、相手が理解し受け入れられる方法で説明することが決めてとなると述べている。(Tannen 1990 : 297)
 女の会話の目的は、相手との「つながり」を確認し、相手への「親しさ」を表現することにあり、そのためには相手と「対等」であることを強調する傾向がある。会話によって伝達されるものを「メッセージ」と「メタメッセージ(相手との関係、発言がどのような働きをしているのか)」に分けると、女においてはメタメッセージの方が重要だとみなされている。一方で、男の会話の目的は、自分の「自立性」を誇示することにある。そのために相手との「違い」を強調し、上下関係の中で自分の「地位」をはっきりさせる。このような目的のためには、会話のメタメッセージよりも、人の知らないメッセージを自分が知っていることが重要だとみなされている。このような枠組みでTannenは男女間の会話における「誤解」を解説している。
しかし文化差によって、ジェンダーによる言語行動の相違を分析していくのならば、まずTannenが主張した個人が相手の話し方を学ぶという解決法は、個人の意図を越えてコミュニケーションに影響を与えている社会の男性支配の問題を考慮していないのではないか。中村(2001)は「支配」とは、社会構造の問題であり、個々の話し手の意図や解釈に関わらず社会に存在し会話に影響を与えていると述べている。男支配の権力構造がある以上、男はいつまで経っても非協力的で会話を混乱させるような話し方しかしないのではないのか。
 次に女子と男子は異なる下位文化を形成しているという前提で議論が進んでいることが疑問である。これらの研究が実施された8090年初頭において男女が共に活動をする社会で、別々な文化と呼べるほどのはっきりした区別がつけられるのか。男子と女子が下位文化において同性の友人から各々の話し方を学ぶなら、Goodwin(1990)が報告した子供の集団における命令形の男女差について、女子も相手が喧嘩を仕掛けてきたり、弟や妹に命令したり、ごっこ遊びの中で母や先生をしているときには威圧的命令形を用いる。
 またSheldon& Johnson (1994,1998)3歳から5歳までの意見の食い違いをどのように表現するかを調べた研究においても、女子も男子も会話の目的や構造によって「協調的会話」と「競争的会話」の両方を使いという結果に説明がつかない。
 最後にジェンダーによる言語行動の相違を文化の違いと捉え、女の話し方も男の話し方と同様に正当な仕方だとしているが、実際は多くの社会で女の話し方は男の話し方から外れた話し方だという考えが多いのではないか。そうなれば、必然的に互いが相手の話し方を解釈するのではなく、現実には女が男の話し方に歩み寄らなければならないと考える。

4.結論

 会話というものは、どれも協調的側面と競争的側面を持っている。会話をすること自体が協調であり、同時に発話できない点で競争である。会話の中に両方の特徴が混在することの方がごく自然で当たり前のことである。
 性の会話において、「地位」よりも「人間関係」を重視していると言われているが、女性のグループ内で相手の立場を考慮することが、そのグループ内での「地位」向上につながると考えることもできる。 ジェンダーは人種・年齢・職業・地域など様々な要因と密接に関わっている。このような観点からジェンダーを言語行動に最も大きな影響を与えている要因とみなすことは、言語行動が様々な状況的要因と、相互に関係しながら作り上げられていく過程を見えなくしてしまっている危険性を持っている。
 言語行動を分析するに当たって望まれるのは、二項対立的なジェンダー観を 越えて、言語・ジェンダー・社会を結び付ける理論である。


参考文献

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Brown, Penelope and Stephen Levinson (1987) Politeness: Some Universals in Language Usage. Cambridge University Press

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Coates, Jennifer (1997) On-at-a-time: the organi

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 Blackwell

Coulthard, Malcom(1977) An Introduction to

Discourse Analysis.(2nd.) Longman. 吉村昭市、

貫井孝典、鎌田修訳 『談話分析を学ぶ人とのために』 世界思想社

 Fishman, Pamela (1983) “Interaction: the work women do”. In Thorn et al. (eds.) Language, Gender, and society

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Holmes, Janet (1995) Women, Men and Politeness NY: Longman

Lakoff, Robin (1975) Language and Woman’s Place. Happer & Row.katかつえ・あきば・れいのるず訳『言語と性―英語における女性の地位』有信堂高文社

 

中村桃子 (2001)『言葉とジェンダー』東京:剄草書房

佐久間まゆみ、杉戸清樹、半澤幹一(1997)『文章・談話のしくみ』おうふう

Sheldon, Amy and Diane Johnson (1994,1998) “Preschool negotiators: linguistic difference in how girls and boys regulate the experession of dissent in same-sex groups”. Research on Negotiations in Organizations 4.

Spender, Dale (1980) Man Made Language. Routledge & Kegan Paul. れいのるず=秋葉かつえ訳『言葉は男が支配する』剄草書房

Tannen, Deborah Ph.D. (1990) You just don’t understand :Women and men in conversation NY: Ballantine Books赤野一郎、内田聖二編注 『すれ違う女と男』−男女の会話は異文化コミュニケーション』英宝社

Tannen, Deborah (1994) Gender and Discourse NY:Oxford University Press

Zimmerman, Don and Candace West (1975) “Sex roles, interruptions and silence in conversation”. In Thorne & Henley (eds.) Language and sex.

 

引用作品

 

Sidney Sheldon (1997) The Best Laid Plans, warner Books

Alan Ball (1999) American Beauty, New market Press