私と未来をつなぐ通信技術
〜幸福な第三の波社会の実現のために〜
市吉 修
二十一世紀を楽しく生きよう会
osamu-ichiyoshi@muf.biglobe.ne.jp
序
A.Tofflerが1980年に出した著書「第三の波」は情報通信技術の革新がもたらす社会の変化についての理解の鍵を与えてくれた。当時はその前年に社会学者エズラ・ヴォーゲルによるJapan
as No.1という書物がベストセラーになるなど我が日本は自信と希望に満ち溢れていた。二十一世紀は日本の世紀とまで言われたものである。
あれから三十年余を経た今日の我が国の状況は如何であろうか。情報通信技術分野において日本の優位は失われ、経済成長が停滞し「失われた」10年が20年になり更に30年になろうとしているのではなかろうか。産業のあらゆる分野で不安定な非正規雇用が広がり、社会的格差が拡大し、首都圏一極集中が続き、地方は各地の限界集落がいよいよ消滅段階に入っていると思われる。
世界に目を転ずれば今世紀初めの9.11テロをきっかけに始まった「テロとの戦い」はアフガニスタンから中東、アフリカ、ひいては欧米各国に広がり、膨大な数の難民の悲惨な状況を生じている。テロ集団はインターネットを活用して過激思想をばら撒き人生経験の浅い若者を勧誘して世界各地からの新規加入者によって勢力を拡大している。
昨年の米国大統領選挙においては悪意に満ちた虚偽報が真実を装ってインターネットに流布された。第三の波がもっとも進展している筈の米国においてRust beltと呼ばれる第二の波産業の地域で票を集めたトランプ氏が勝利した。同氏の公約は非論理的で政策は予測困難であり、世界の更なる不安定要因となる事を私は危惧する。
上の状況を考えると過去半世紀において第三の波の力は十分に活用されなかった、あるいは誤用されたと言わざるを得ない。本稿においては過去半世紀の情報通信技術の開発と応用を振り返り、如何にしたら第三の波の力を平和で幸福な世界の実現に活用できるかを考えて見たい。
以上のように現在の世界が第三の波の可能性を十分活用していない原因は何であろうか。一言で言えば人が技術の進歩に追いつかなかった事と言えるであろう。民間企業は他社との競争を勝ち抜くために必死にインターネットの活用法を開拓したが政府には競争相手が無いので同じ力は働かない。政府の支配下にある大学も独占的な地位に甘えて今だに第二の波の段階にあると思う。大学が変わらない事が依前として激しい受験競争が高校以下の教育を歪めている大きな原因だと思う。政府を変えるのは国民や住民であるが、第二の波時代に人は地域共同体から引き離されてバラバラの個人にされてしまった。第一の波社会において人は封建的な共同体の厳しい身分制度に束縛されていたので第二の波による個人の分離は確かに一種の解放ではあったが、同時にそれは国家による個人の支配と人間疎外状況をもたらした。帝国主義戦争はその最たるものである。思うに人間性の回復とは個人本位の共同体社会の構築と発展であるが、そのためにはインターネットを核とする情報通信の活用が必要不可欠である。人が国の内外を問わず直接交流を進め、国家を越えて個人本位の共同体を形成して行く事が第三の波時代としての平和な地球村の実現への道であろう。本稿の最後に筆者が第三の波を推し進めるのに有効と信ずる幾つかの通信技術を提案する。
1.第三の波とは
約一万年前の農業の開始を第一の波とし、18世紀
後半に英国で始まった産業革命を第二の波とすると
それに匹敵する、第三の波と呼ぶべき根本的な文明
の変革が現在進行中である事を1980年に米国の未来学者A.トフラーが提唱した[1]。第三の波の原因こそ此処で論ずる情報通信技術の進歩であり、その社会的影響については同じ頃出版されたJ.ネイスビッツの著書 “Megatrends”に分かり易く解説されている[2]。
筆者は約十年前にそれは我が国では福沢諭吉が唱えた学問立国であろうと考え「ガクモンのススメ」と題する一文をインターネットに公開した。http://www5e.biglobe.ne.jp/~kaorin57/gakumon%20no%20susume.pdf (二十一世紀を楽しく生きよう会)
当時筆者は期待を込めて以下の楽観的な予想をした。
[1] 直接通信可能性により産業、経済、政治機構が
平坦な構造になり社会の民主化が進展する。
[2] 遠隔教育による生涯教育が可能になり、人が全国
どこでも学ぶ事ができ、世に学問が振興する。
[3] 産業と人の地方への分散が進み、均衡のとれた国
の発展が可能になる。
[4] 世界が一つの地球村に縮小しより平和で平等な
世界が実現する。
A.トフラーの提起から三十年余を経た今日の我が国の状況は如何であろうか。情報通信技術分野において日本の優位は失われ、経済成長が停滞し、所謂失われた10年が20年になり更に30年になろうとしているのではなかろうか。産業のあらゆる分野で不安定な非正規雇用が広がり、社会的格差が拡大し、首都圏一極集中が続き、地方は各地の限界集落がいよいよ消滅段階に入っていると思われる。
世界に目を転ずれば今世紀初めの9.11テロをきっかけに始まった「テロとの戦い」はアフガニスタンから中東、アフリカ、ひいては欧米各国に広がり、膨大な数の難民の悲惨な状況を生じている。テロ集団はインターネットを活用して過激思想をばら撒き人生経験の浅い若者を勧誘して世界各地からの新規加入者によって勢力を拡大している。
昨年の米国大統領選挙においては悪意に満ちた虚偽報が真実を装ってインターネットに流布された。第三の波が最も進展している筈の米国においてRust beltと呼ばれる第二の波産業の地域で票を集めたトランプ氏が勝利した。同氏の公約は非現実的で論理的一貫性に欠けその政策は予測困難であり、世界の更なる不安定要因となる事を私は危惧している。
上の状況を考えると過去半世紀において第三の波の力は十分には活用されなかった、あるいは誤用されたと言わざるを得ない。本稿においては過去半世紀の情報通信技術の開発と発展を振り返り、如何にしたら第三の波の力を平和で幸福な世界の実現に活用できるかを考えて見たい。
2. 第三の波を実現する通信技術
1948年の米国ベル研究所において情報通信分野で画期的な技術論文が発表された。一つはトランジスタの発明でありもう一つがC.E. Shanonによる論文「通信の数学的な理論」[3]である。
トランジスタの発明をもたらした研究の発端は全米の電話網を即時ダイヤル自動化する事を目指した事であったが、トランジスタはそのための増幅器とスイッチに止まらず集積回路の開発によってラジオ、電卓そしてプログラム機能を備えたマイクロコンピュータの開発につながり、広大な分野に応用が広がった。それは更にパーソナルコンピュータ(PC)の出現により今日の高度情報化社会を生み出した一つの源流となっている。
他方C.E.Shannonの「通信の数学的理論」は情報通信の基礎を据え、それ以降の通信技術の発展の土台となった。筆者は学生として初めて情報理論を習った時にまず情報の量の定義方法に感動した。即ち生起確率がpなる事象が起きた時に得られる情報量はlog(1/p)であると定義される。その事象の生起を知ってしまえば確率は1であるから更に得られる情報量は0であるし、確率が低い事象が生起した時得られる情報量が大きい事も自然である。更に生起確率p1,p2,p3,,,の事象が独立であればそれらが共に起きる事を知る時に得られる情報は各々の事象の生起により得られる情報を加えたものになるのも合理的である。
学生時には上の情報の定義は純粋に事象の確率によって定義され、情報の質が反映されない事に何となく物足りなさを感じたが、今では次の様に言えると思う。他の生物に比べて人間の最大の特長は複雑な言語による通信を行う事である。人間の言語の特長は現実の枠を超えた思考を可能とする事である。即ち現実には無い事を扱う所に人間の知性の特長がある。現実には無くともあり得る事を処理するものが人間の道具や機械であり、その時まで現実には有り得なかったものを理論や模型として矛盾なく表現する事が人間の発明、発見、創造であると言えるであろう。従って確率による情報量の定義は人間の通信する情報の本質を深く捉えたものであると言えよう。
通信理論で本質的な役割を果たすのは情報源から生起するあらゆる符号の情報量の平均
H = [i]Σp(i)・log(1/p(i))
である。此処でiは情報源で発生し得る全ての符号を数え上げる添え字である。この式は統計熱力学で扱うエントロピーと本質的に同じ式であるので情報エントロピーと呼ばれる。情報エントロピーはあらゆる形の情報源符号化と通信路で生じる符号誤りを検出、訂正するための通信路符号化の理論的な基礎を与えるものである。今日では文字、音声、画像などの多種多様な情報が二進符号に情報源符号化されて送信され、受信者において元の形式に再生されて通信が行われる。途中の通信路は有線、無線、地上、衛星など多種多様なものがあるが通信路符号化により、雑音のある通信路でも極めて低い誤り率の通信が実現されている。
過去半世紀の情報通信の発達を振り返ると通信分野へのコンピュータの進入が目立つ。即ちかって日本電気の小林宏治氏が唱えたC&Cが通信網を大きく変遷させた。元来通信網とは交換網、即ち要求された二点の間に通信回線を設定する網であった。過去半世紀に伝送路は光通信技術によって極めて大容量化、低価格化したのに対して複雑な設計を要する高価な交換機が通信のコスト低減の障害になって来た。他方米国において遠隔地のコンピュータの相互接続を目的にして開発されたパケット交換網が小型コンピュータの普及に伴いインターネットとして商業的にも発達して来た。パケット交換には通信路における回線設定の概念は無く、個々の通信はタスク或いはプロセスとして送信及び受信端のコンピュータが管理制御する。途中の通信路の交換点においてはパケット・ヘッダーのあて先を読み、経路表に従って所定のポートに転送するという極めてコンピュータ的な処理を行う。そのためパケット交換機は単にルータ(Router)と呼ばれている。
通信のコンピュータ化に伴って情報通信システムの開発手法も変わってきた。筆者が就職した約半世紀前はシステム設計とは先ずシステムのブロック図を描くハードウェア志向の方法であった。コンピュータ化が浸透した今日ではシステム設計とは先ず目的とする機能を列挙し、それらの関係を表す機能図を作成するソフトウェア志向の方法になっている。全体が論理的に矛盾の無い形に表現出来れば部分は必ず実現できるからである。今や設計の本は要求にあると言えるであろう。
3. 第三の波の現状と問題
過去半世紀の間にA.トフラーが予言した第三の波の多くは既に実現したと思う。情報通信網の発達によって企業間の直接取引が可能になり、中抜きと呼ばれる産業の平坦化がかなり進展した。それまで独占により市場を支配して来た巨大企業の強みは薄れ、各国において産業の構造改革が行われた。例えば米国においては当時世界最大の企業であったATTが、我が国においては同様に全国の電報電話事業を独占していた電電公社が解体され、通信市場が自由化された。
コンピュータ分野においてもワークステイシ(WS) やパーソナルコンピュータ(PC)などの小型コンピュータの普及によって大型コンピュータ分野で独占的な地位を占めていたIBMは自己解体にも近い経営の大幅転換を余儀なくされた。現在も通信及びコンピュータ市場における競争と関連企業の栄枯盛衰は激しい。
今から20年程前までは企業内通信網、LANシステムは企業ごとに極めて多数の方式が林立していたが結局インターネット方式(IP & Web)に収斂した。開放系であるインターネットが世界標準となると同時に通信網の開発方法も共通Forumなどの開放的な手法が主となり、情報通信網の発展を加速して来た。
移動通信は米国や我が国においては自動車通信網として始まったが開発途上国においては最初から基幹通信網の一部として極めて迅速に普及した。ここでもインターネットで培われた開放的な開発手法によって短期間に通信基盤が整備され市場が急激に成長した。今や各国の移動通信網はモバイル・インターネットとして新たな応用分野が日々開拓される世界通信網の一部となっていると言ってよいであろう。
今では何でもインターネットで調べる事ができる。学会の開催通知、参加申し込み、論文提出まですべてインターネットを通じて行われる。多くの学会において紙媒体の論文誌の配布を中止し、論文発表はインターネット上に行う電子出版が広く用いられている。人が旅行する時には目的地周辺の情報収集やホテルや飛行機の予約までインターネットを用いて行う。何か調べる時も今はインターネットを使うのが最も便利である。今やインターネットは世界最大の図書館であると言っても過言ではない。
しかしながら前述のごとく今日の我が国と世界の現状は第三の波理論から期待された理想にはほど遠い。上述の如く民間市場は中抜き現象によりかなり平坦化したが政府等の公的機関の平坦化と地方分権化は殆ど進展しなかった。我が国において情報化社会への対応と称して約10年前に住民基本台帳、そして一昨年国民総背番号のマイナンバー制度が導入されたが、その効果は殆ど感じられないし、評価研究もされていないようである。電子化により極めて大量の文書の管理と利用が容易になったのにも関わらず国の行政において多くの文書の不備、秘匿そして無断廃棄が増えている。約十年前のe-Japan計画により日本全国の公的機関を結ぶ通信網は著しく高速化したが、政府や地方自治体の情報化、開放化、住民参加などの第三の波事業は殆ど進展していない。
少子化が進展しているのに相変わらず激しい大学入試競争が教育を歪め、教育費が高騰して家計を圧迫するばかりでなく肝心の学力も世界の中での地位が低下している。我が国の公的教育投資は先進国中では最下位に位置し、家庭の家計事情で大学進学をあきらめる生徒も多い。
今日では全国何処でも瞬時に情報交換ができ、人がその日の内に移動できる交通通信網により全国が既に一つの村になったと言っても過言ではない。それにも関わらず人口と産業の首都圏への一極集中が持続し、少子高齢化の進む地方の限界集落は消滅段階に入っている所も多い。第三の波により人が地方に分散して均衡のとれた国土を形成するという理想の実現には程遠い。
同様に世界もまた第三の波により一つの地球村になるどころか、中東、アフリカ、東欧、アジアの各地において地域紛争が激化し、無差別テロは欧米にまで拡散している。国際的に孤立しながらも北朝鮮は核兵器とミサイルの開発を進めその脅威は危険な段階に上昇している。
以上のように現在の世界は第三の波の可能性を十分活用しているとは言いがたい。その原因は何であろうか。
一言で言えば人が技術の進歩に追いつかなかったと言えるであろう。民間企業は他社との競争を勝ち抜くために必死にインターネットの活用法を開拓したが政府には競争相手が無いので同じ力は働かない。時に省庁の組み換えはあるがその縦割り階層構造は今も半世紀前も変わりが無いのである。政府を変えるのは国民や住民であるが、第二の波時代に人は地域社会から引き離されてバラバラの個人にされてしまった。筆者は会社勤務時代に労働組合の職場委員や支部委員をやったが同僚の多くが組合の委員をやりたがらないのに驚いた。組合員の支えが無ければ労働組合は弱体化する。高度成長が終わった約40年前から今日まで労働分配率は低下を続け、特に2008年のリーマンショック不況下に小泉内閣が非正規雇用の全面解禁をしてから労働者所得の低下ばかりでなく社会的格差が拡大している。これでは景気を良くして経済成長を達成する事はできないが、そのような事態を許した原因の一つは労働組合の弱体化であろう。
同じ問題は教育についても言える。名は独立行政法人に変えても学問の最高の府とされる大学が依前として文部省の支配下にある事は昨今の役人天下り問題からも見てとれるであろう。政府の支配下にある代わりに与えられている独占的な地位に甘えて大学は今も第二の波の段階にあると思う。大学が変わらない事が依前として激しい受験競争が高校以下の教育を歪めている原因だと思う。筆者は我が子の生徒時代に小中学校のPTA委員を務めたが、この時も次の年のPTA委員の引き受け手の確保に苦労した。大切な我が子の学校のために協力しようという親が少なければ当然PTAは弱体化する。深刻ないじめ等の問題が絶えない学校教育の現状の原因の一つはPTAの弱体化、すなわち学校と社会のつながりの弱さにあるのではなかろうか。
世界はインターネットによって瞬時に情報が伝わり人は何処にでも飛んで行く事ができる。衛星通信により海上も地上と同じく何処からでも通信が可能である。この意味で世界は既に一つの地球村になったと言っても過言ではない。それにも関わらず前述のごとく世界中で地域紛争が頻発し、テロが欧米先進国にまで広がっている。その原因は何であろうか。それは上述のごとく独占的な権力機構である政府に対して国民はバラバラの個人に分断された弱い存在である事だと思う。第一の波は国という権力機構を生じ、第二の波は選挙による間接民主制を生み出した。2010年から2012年にかけてチュニジアのジャスミン革命に始まったアラブ世界の民主化運動は世界の期待を裏切り、各国で権力闘争が激化し、特にシリアは内戦状態に陥り数百万人の難民の悲惨な状況を生じている。筆者はその原因はこれらの国の国民の政治思想が第二の波どころか第一の波の段階にあるためではないかと思った。即ち権力をにぎった方が遮二無二自己の政策を進めて反対派を弾圧するので権力闘争が激化し、ひいては内乱に陥るのは必然である。政府と国民が第一、二の波に止まっている間に過激波はインターネットを駆使して過激思想を広め、考えの浅い若者の新規参加によりその勢力を拡大している。
六年前の東日本大地震は福島において東京電力の原子力発電所の壊滅をもたらし、三十年前のチェルノブィリ原発事故にも匹敵する大災害が続いている。放射能物質拡散の危険はテロリズムによって更に深刻化するので早期に世界が平和と安定を取り戻す事が重要である。
4.世界の幸福に寄与する情報通信技術
第三の波により実現可能な理想は
[1] 人間社会の民主化
[2] 学問の振興と生涯現役社会の実現
[3] 均衡のとれた国と地方の発展
[4] 平和で平等な地球村の実現
などであろう。
第三の波とは第一、第二の波の桎梏、すなわち国家による国民の支配、教育や行政の独占、権力闘争の災厄からの人間の解放であると思う。それは高度な情報通信技術を駆使して人と人とがつながる事、地域社会の再生、個人中小企業の連携、自主的学会の広がり、国際的な直接民間交流の推進などにより実現されると考えている。こうして個人本位の共同体が国家を越えて成長する事が平和な地球村の実現への道であるが、そのためには技術に劣らず人間の成長が重要である事を強調したい。
私と未来を結ぶ通信技術として筆者は次を提案する。
<1> 何処でもつながる通信
移動通信は既に広く普及しているが、山間僻地では電波が届かず通信不可能な地域も多い。外洋では地上の電波が届かないので衛星通信が必須となる。伝搬損失の大きい移動体衛星通信においてはメッセージなどの低速通信も運用されているが、地上の移動通信においても電波の弱い所では低速通信により人が何処にいても通信の確保が可能な通信システムの実現は可能であろう。これにより例えば地方の過疎地域に住む高齢者が常に連絡を保ち、位置を通報する事により安全に生活できるであろう。地上と衛星通信を兼ねた統合通信網も有効である。
<2> 航空機通信システム
2014年3月8日夜にクアラルンプールから北京に向かって飛行していたマレーシア航空のMH370便は消息を絶った。乗員、乗客239人の運命は今も全く分からない。
この事故は洋上飛行中の航空機通信の不備を明らかにした。そこで筆者は既存の通信衛星を再利用して世界中の飛行中の飛行機が通信を継続できるシステムを提案した[4]。是は既存の通信衛星を現存サービスに殆ど干渉を与えずに再利用できるので安価に早期実現が可能である。
<3> 直接衛星LAN
インターネットは通信網として世界を一つにしたが、それは本質的に一対一通信であり、多数の受信者に同時に送信する放送には不適である。他方衛星通信は放送に最適である。そこで両者を結合すれば理想的な情報通信網が実現可能となる[5]。これは生涯教育や全国国民会議を可能とし学問の振興と社会の民主化に役立つであろう。
<4> 地方発信直接衛星放送網
従来の衛星放送は東京一極送信であるが完全同期時分割多元接続方式を用いれば日本全国どこからでも発信して既存の装置で受信できる全国衛星放送網を容易に実現できる[6]。これにより全国放送がインターネット並みに身近なものとなる。これは地方産業の振興と均衡の取れた国土の発展に寄与する事が期待される。
<5> 災害防止システム
上のシステムを用いれば全国の天候と河川の観測、道路交通状況等の広域観測が可能になり、それらを集めて状況を判断し迅速な災害予想情報の配信により生活の安全に寄与するシステムを構築できるであろう。
<6> 複素PLL
通信において周波数および位相同期が本質的な役割を果たす。位相同期ループ(PLL)は一旦同期すれば安定に動作するが、問題は初期周波数誤差が大きいと同期が確立しない事である。この初期補足問題は複素信号処理によって本質的に解決される[7]。これによって通信網の安定性が保障されるであろう。
<6> 周波数シンセサイザ
周波数シンセサイザは制御周波数単位が細かくなるとループが狭帯域となり発信器の内部位相雑音の影響が大きくなる。筆者の提案方法は制御周波数単位に関わらず高速位相比較により広帯域ループを用いる事ができ安定な汎用周波数シンセサイザの実現が可能となる[8, 9]。是は広汎な範囲の通信システムに応用がある。例えば前述の地上、衛星共用通信機の実現に有効であろう。
5.結論
過去半世紀の情報通信技術の進歩は第三の波と言われる根本的な社会変革をもたらした。それは多くの問題を解決すると同時に新たに深刻な問題を引き起こしている。その原因は技術に対して人の進歩が追いつかない事、人心の遅れにあるがそれは第三の波の可能性を余さず活用する事によってこそ解決可能である。インターネットと放送網の統合は新たな情報交換網を通じて個人と社会をつなぎ世界を一つの地球村にする力を有しているがそれを平和で幸福なものにする事は偏に人間にかかっているのである。
参考文献
[1] Alvin and Heidi
Toffler,Creating A New
Civilization, Turner Bublishing Co.,1994
[2] John Naisbitt “Megatrend” Warner Books, 1982
[3] C.E.Shannon “ A
Mathematical Theory of Communication” BSTJ Vol.
27 July, October, 1948.
[4] Osamu Ichiyoshi, “航空機追跡システムの一案”
信学技報SAT2014-49
[5] Osamu Ichiyoshi, “The
Combined Internet and Satellite Communication Networks”,
信学技報IA2009-52
[6] Osamu Ichiyoshi, "BSP
and ISP; The Internet and Synchronous TDMA DSB Network”信学技報SAT2007-23
[7] Osamu Ichiyoshi “衛星通信における同期技術”
信学技報SAT2013-43
[8] 市吉 修 “周波数シンセサイザ”
特許 第2876847号
[9] 市吉 修 “周波数シンセサイザ”
特許 第3019434号
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