提案  SOHO連合で故郷を振興しよう。

 

                      市吉 修 (2006/9/14相模原SOHOサロンにて発表)

 

故郷の過疎高齢化と大都市への産業集中

私の故郷は九州は宮崎県、霧島は高千穂の峰の山麓にある山田町という村です。私たちが子供の頃一万二千人いた人口が現在八千人に減り、我々団塊の世代の学年は350人でしたが去年山田町に生まれた赤ちゃんの数はたった57人でした。このような少子高齢化の進行は全国の故郷に共通する問題です。宮崎県の場合は県全体が少子高齢化県であり、都城盆地の中核都市である都城市も昔は東京の銀座通りなみの賑やかな通りであった商店街が今は人の通りもまばらなシャッター通りとなっています。

 

勿論故郷の皆さんも問題の解決のため、例えば工業団地を造成して企業誘致を図るとか、住宅用地を提供して移住を奨励するとか、竹下内閣の時にばら撒かれた故郷創生資金で温泉を掘るとか、ゴルフ場を誘致するとか努力はされたわけですが根本的な効果はあがらず、今年都城市山田町をはじめ周辺の6町と合併しました。新たな都城市は人口は17万人ですが、面積は何と東京都の半分にもなる広大さです。いわゆる平成の大合併によって約3,000の地方自治体が半減しましたが、それだけでは問題の解決にならないのは明らかです。

 

残念ながら従来の地方振興策は成功にはほど遠いと言わざるをえません。その原因は産業構造そのものに内在しており、根本的な産業構造の変革無しには本格的な故郷振興は実現できないと考えます。

 

従来の企業は株式会社に代表されるように利潤の追求を至上目的としており、市場を求めて購買力の高い所に集中します。また交通通信網の未発達な段階では農村よりも都市への投資効率が高く、産業が都市に集中するのも自然な流れです。農業よりも工業のほうが成長速度が高いので我が国の高度成長の推進力が工業分野の技術革新であった事も当然でしょう。

地方の振興のための従来手法は主として治山治水のための土木工事、原子力発電のように危険を伴う産業の地方分散、必要ではあるが交通量の少ない道路の建設など投資効率の低いものしかありませんでした。また減反政策を始めとする農業補助金のバラまきなど負の投資政策を長年続けた結果、今日、国家の一般予算の10倍もの借金を抱え、利子払いだけでも約20兆円と一般予算の1/4を占める財政破綻を来し、木材自給率20%,食料自給率40%と農林業そのものの衰退をもたらす結果となっています。

 

そこで求められるのは従来に代わる新たな事業方法です。それは本日の主題であるSOHOの連合,即ち個人事業の連合体であると考えています。

 

 

1.  各種企業の特長と課題

 

企業形態

会社

個人事業(SOHO)

SOHO連合体

 

技術力

×

?

営業力

×

?

継続性

×

?

自由度

×

目的

利潤の追求

生活の資

生活の資

自己実現

生活の資

事業力の強化

 

課題

会社と個人企業(SOHO)の弱点を補い、利点を合わせて強化できる事業体は何か?

 

個人企業を従来の株式会社と比較して見ましょう。株式会社の設立は資本家による資本投資に始まります。資本投資の証書が株券ですが株主の投資目的に従属して株式会社の目的の第一は利潤の追求とならざるを得ません。他方会社に雇用される従業員の目的は何より生活の資を得ることです。

 

それに対して個人事業の目的は生活の資を得ることに加えて自分の理想と可能性を実現すること即ち自己実現だと思います。

 

営業力、技術力、継続性に関しては会社に対してSOHOは全く非力です。他方自由度に関しては一般にSOHOが大で、会社は小でしょう。即ちSOHOは複数の職業の兼業もできますし、仕事の選択や進め方も原則的には自由です。他方会社においては従業員は所定の給料を保障される代わりに工場や事務所などの職場に通勤して上司の監督の下に働きます。事業方針の決定と実行が異なる人によって行われ、上からの命令と下からの報告が正しく実情を伝えなくなり、組織として空洞化が生じることがあります。歴史を振り返ると電気業のRCAや航空業のPANAM、商社の安宅産業、スーパーのダイエー、証券の山一などそれぞれの国でも有数の巨大企業が倒産したのは自由度の極小、つまり従業員の提案を無視し、創意工夫の芽を摘む結果事業革新の能力を喪失した状態が長年積み重なって起こります。

 

そこで

 

会社と個人企業(SOHO)の弱点を補い、利点を合わせて強化できる事業体は何か?

 

ですがそれこそSOHO連合であると考えています。

 

 

2.  SOHO連合体の構成

事業とは畢竟営業と技術の組み合わせです。営業は地域密着でなくてはならず、技術は世界最高のものを集めなくてはなりません。ここから地域密着の営業SOHOと全国の技術SOHOから構成されるSOHO連合体が構想されます。単なるSOHOの集合体ではなく個々の仕事について特定の営業SOHOと技術SOHOが事業責任を担う主幹として実行団を結成して事業を行います。いわゆるプロジェクト中心型の企業です。また実行団は契約など仕事の始まりと共に結成され、契約の完了など仕事の終わりと共に解散します。この時アフターサービスを連合体本部に引き継ぐことによりお客にたいして事業の継続性を保証します。

 

連合体本部は会員SOHOが相互研鑽を行うための自主問学会、問題提起と解決法の共同研究、事業化計画と共同開発、製品登録、市場開拓、応札団、実行団、保守アフターサービスの全段階において協働を行うための情報交換網を提供します。また企業経理を一括して行い、他企業との業務提携など外から見ると一個の企業体として機能します。 

 

実行団は製品の性能と供給に責任を持つ技術責任者と、市場とお客に対して責任を持つ営業責任者が主幹となり実行団を結成して受注した仕事を実行します。自ら引き受けた仕事については責任を持ちますが、仕事の選択と進め方に就いては会員SOHOは個人事業主としての自由度があります。

 

営業力に関しては、如何なる大企業でも全国の隅々まで営業員を配置するのは困難ですが、本提案のSOHO連合では地域の農家、商家、SOHO等が兼業することができますので大きな力になり得ます。

 

次に技術力ですが、本提案の連合体は個人が主体の企業ですので会社や役所の定年退職者、スピンアウトしたSOHO, 学生、会社員や公務員等も参加して自主問学会の場で問題提起、解決法の共同研究など知恵を合わせる事ができるので、うまく連合すれば大企業にも勝る力を発揮することもあり得ます。

 

以上の考察によって提案のSOHO連合は「人が全国どこでも学び、生涯現役で働ける」二十一世紀企業としての実現可能性を有すると考えます。

 

 

3               事業分野

 

(1)   技術教育、技術支援事業

自主問学会は会員の在宅生涯学問の場であると共に、そこで体系化された学問は会員SOHOによる各分野の技術教育や技術支援事業の土台でもあります。

 

(2)   インターネット普及および活用事業 

インターネットはSOHO連合の学問と協働の場であると共に、それ自体の普及と活用はSOHO連合の事業分野でもあります。即ちディジタルデバイドと呼ばれる情報格差は離島、山間僻地の故郷においては特に甚だしく、その解消は国民的な課題です。先ずインターネットを普及させることと、その活用によって大きな付加価値を創造することは故郷の振興のために必要不可欠な事業です。

 

(3)   直接衛星放送/LAN

私は全国どこからでも同時に発信して全国どこでも既存のCS放送端末で受信可能な直接放送システムを提案しています。現在膨大な投資を行って地上放送のディジタル化が推進されようとしていますが、本提案のシステムは相対的には極く微小な追加投資により地方から全国へと放送地域の一挙拡大が可能になります。これによって現在大都市から地方への一方的な情報の流れを是正して地方から全国への情報の流れをもたらし、故郷の活性化に資する所が大であろうと考えています。

 

上の直接衛星放送網をインターネットと結合すると全国一斉同報が可能なインターネットが可能になります。即ち離島、山間僻地を含めた全国から参加して、双方向の公聴会、講演、講義、全国民会議も可能になります。一人の発言が全国の参加者に聞こえることは全国が一つのLANで結ばれる事、言わば日本全国が一つの村になる事に等価です。それをうまく活用すれば政治への国民の直接参加など従来に無い新たな社会への進化の可能性があると思います。

また夜間の空き時間には予約されたデータを全国に一斉配信することにより一人当たりの配信費用が小さなデータ配信システムも容易に実現可能です。

 

 

 

 

 

4 インターネット活用事業の例

 

資源共用システム

 

例 農業機械

効果

1.       農家の機械貧乏の追放

2.       農業への新規参入の容易化、 

3.       農業の復活と地方の地場産業の振興

 

インターネットの活用例として農家の農業機械共用システムを提案します。多くの農家の納屋にはトラクターや田植え機、耕運機、はてはCombine Harvesterなど高価な機械があり、農家はその代金の返済に追われています。これを機械貧乏と呼びます。他方これから定年を迎える団塊の世代のかなりの人が故郷にUターンすると思いますが、農林業を始めようとして退職金をつぎ込んで農業機械を買うのはリスクが大きすぎます。農業機械の年間稼働率はとても低く投資効率が極端に低いのが問題です。

そこで各地に農家を会員とする資源共用会を作りインターネット上に共用室を設け、そこに各地の農業機械の一覧表をおいて予約を受け付け、予約された日に共用会の職員が機械を目的地に持って行くという事業が考えられます。同じ村もしくは隣村の範囲、二時間以内に運搬できる範囲にはおそらく殆どの部類の農業機械が何台もあると思います。

これによって貸し手は機械の空き時間で日銭を稼ぎ、借り手は莫大な初期投資なしに必要なときに必要なだけ機械を使用することができ、資源共用会は極く小額な投資で事業を始めることが出来、農村地域の雇用の増加にも寄与できます。

 

其の他の応用

同様のシステムは農山村の廃校、空き家を活用して安価な長期滞在村の提供やシャッター通りの空き店舗活用などに応用することができます。技術的には既に広く用いられて

いる各種の予約システムが応用できますので開発費用もあまりかからないと思います。

 

SOHO連合の役割

上の事業は各地の農家、商家、SOHOが主体となって資源共用会を作って相互に活用しますが、ここで提案しているSOHO連合は上のシステムを提供すると共に今までPCに触る必要も無かった職業の皆様にインターネットを普及させる事業を行う必要があります。

 

 

4               知識産業こそSOHO連合に好適

 

WEBデザイン、映像制作、ソフトウェアの開発、画家、音楽家、文学者などの知識産業は人による価値の創造が本質であり、原理的には何処に居ても仕事は可能です。しかし、それらの仕事を発注してくれるお客は前述のごとく大都市に集中しています。したがって単に田舎に移住するだけでは事業は成り立ちませんが、大都市の営業SOHOと連携したSOHO連合ならば事業が成り立つ可能性があります。

私たちはイギリス在住中に湖水地方に旅をしましたが、動機は自然の美しさ以上に詩人のW.ワーズワースとピーターラビットの作者B.ポッターのゆかりの地をめぐることでした。知的創造の仕事は何もロンドンにいなくてもあのような田舎でも可能な好例です。昔は特定の芸術家しか出来なかったことがインターネットを始めとする情報通信網の発達と、ここで提案するSOHO連合等の新たな事業方法によって現在は誰にでも可能になって来ていると思います。

 

 

結論

以上のようにインターネットの活用によって従来不可能であった事業が容易に実現可能になってきました。また田舎の道路もほとんど舗装され、航空網の発達によって全国どこでも日帰りで出張する時代になりました。今や都会に投資するよりも田舎に投資するほうが投資効率が高い場合も多いと思われます。前述のシステムを活用して田舎に移住しないまでも、夏や冬に長期滞在する人が増えるだけでも、かなり地方は活性化します。

今や故郷は遠くにありて想うものではなくて、故郷は近くにありて何時でも帰れるものになっています。年毎に異なる地域に滞在して故郷を幾つも持つことも可能です。その為には従来の事業方法と企業構造を革新する必要がありますが、ここで提案したSOHO連合体はその有力な候補であると確信しています。