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件名: 人間の思考の限界と歴史
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第二次世界大戦の原因は集団発狂か
昔司馬遼太郎の自伝的作品を読んだ事があります。彼は戦車隊の将校だったのですが、当時の事を回想して日本全体が「集団発狂」していたとしか思えないと書いていました。1910年の韓国併合の時も大半の日本の知識人はそれを当然と受け止めていました。それを合理化するため日鮮同祖論なる学説も出されました。その後の中国との戦争においては「大陸における日本の特殊権益を守る」、「満蒙は日本の生命線」など今から振り返ると空疎なスローガンに対しても石橋湛山、斉藤隆夫など極く少数を除いた大半の知識人は反対もしませんでした。その不作為が結局は泥沼の日中戦争、無謀な第二次世界大戦へとつながって行った事を思うと当時の報道人や知識人、そして勿論政治屋の責任は重いと思います。
それは日本に限らずナチスドイツにおいても同様でした。今から思えば噴飯物の北方優秀人種論なるものが国教的学説とされチベットまで人種調査隊を送ったりしました。その帰結として600万のユダヤ人が殺されたと言われるHolocaustが生じました。今から思うとそれが現実に起こったとは信じられない程ですが、幼稚な学説が如何に重大な災厄を生じ得るかは恐ろしい程です。
狂気とは極端に視野の狭い思考
だと思います。明治維新の時日本がおかれた世界は帝国主義の最盛期でした。日本からの留学生は英米仏、プロシア等に留学して帝国主義に完全に染まってそれ以外の考えができなくなりました。選良の考えがこちこちの帝国主義に固まったのに対して民間の知識人には遥かに広い視野から今日の日本国憲法にも似た民主主義を基調とする私議憲法私案を作っていた人々もありました。その一例が色川大吉氏によって五日市の旧家の土蔵から発見された千葉卓郎氏の憲法私案です。詳細は下記URLをご覧下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%89%B2%E5%B7%9D%E5%A4%A7%E5%90%89
それは明治初期の多摩秩父地域の自由民権運動の一つの成果ですが、中央の自由民権運動の堕落と自滅により全国的な運動には成長しませんでした。色川氏等の努力が無ければこの優れた憲法草案は今も人知れず五日市の旧家の土蔵に眠ったままだった事でしょう。
現実の明治憲法は伊藤博文を中心とする明治政府の手で起草されました。それは明治の日本と国情が似ていたプロシアの憲法を手本にして作られました。大日本帝国憲法とはまさしく帝国主義を目指した国家を簡潔に表現する名称ですね。
帝国主義政府は国民を食い物にした。
明治政府は国力を越える軍備拡張のために農民に重税をかけ、税を払えない農民の土地は差し押さえて競売に付し、それは高利貸に買われて大地主への土地の集中が進みました。差し押さえて競売に付す事は田祖の実に27倍の国庫収入になったそうです(遠山茂樹、日本近代史1)。その結果土地は大地主に集中して大半の農民は小作人に転落しました。農民は元の自分の田をその後は地主から借りて小作し、その作物の何と50%以上を小作料として地主に取られました。只でさえ貧困のどん底に落ちた農民が恐慌の度に悲惨な状況におかれて欠食児童や娘の身売り、下男奉公など基本的人権を踏みにじる状況が広汎に生じました。
大日本帝国は江戸時代からの農村共同体(土地の共有、納税、公共事業、消防、警察、教育、医療などを村の自治で行う)を中央集権政治によって崩壊させ、農民一人一人を把握してとことん搾取し、更には強欲な高利貸の餌食にしてしまったのだと思います。これは江戸時代ならば不可能でした。不当な要求に対しては農村共同体によって農民は一揆を起こして領主に反抗したからです。1984年の秩父事件はおそらくそのような農民の最後の反乱ですがその特長は自由民権思想に支えられたものであった事です。困民党総裁田代英介が大宮郷の郡役所に掲げた「自由元年」の四文字を日本人として私は誇に思っています。その7年前に起きた西南の役に比べれば反乱の規模は遥かに小さいものの依拠した思想は遥かに大きく、今日の私達にも一つの指針を与えています。
歴史に「もし」を想定すれば
明治維新後日本の知識人が英米仏、プロシアではなくスイスに留学して、直接民主制と連邦制を学んできたとしたら歴史はうんと変わっていたと思います。幕藩体制はもともと地方分権でしたからスイスの連邦制に類似しています。更に直接民主制への移行も農村共同体の拡大として比較的円滑に進んだと思います。東洋のスイスとして日本が永世中立国の立場で専守防衛に徹したならば帝国主義の膨大な軍事負担と狂気の戦争を回避する事ができ、今のスイスと同様に世界で最も豊かでかつ尊敬される国になった事でしょう。
単純な発想の深刻な誤謬; 社会福祉と現代経済
政府は社会保障制度を聖域としない財政構造の見直しを行おうとしています。今年の正月に視聴者の意見を発表するNHKのTV番組である若者が「今の老人は財産をもっているから年金制度は廃止した方が良い」と発言していましたが皆様如何お考えでしょうか。この若者はおそらく自分が将来老人になる事はないと考えているのでしょう。いかにも単純な発想者ですから。
仮に老齢年金が廃止もしくは大幅に減額されたらどうなるでしょうか。一見財政赤字が減るように見えますが、実はその正反対の事が起きるでしょう。まず人々が将来に備えて貯金しようとして消費を抑えるため景気が極端に悪くなるでしょう。食えない老人が通りで物乞いをしたり、孤独な餓死者が増えて世相が暗くなり、仕送りを巡って親子間のいさかいが増えるでしょう。極端な不景気のため若者は仕事が無くてNEETがますます増えるでしょう。これは単純な発想の深刻な危険の典型例です。
その反対に老齢年金を増やし、医療、住宅などの社会福祉を充実したらどうなるでしょうか。老人ばかりか若者も安心して欲しいものにお金を出して生活を楽しみ、全体に消費が増えて景気が良くなり、失業率が下がって経済成長が生じ、その結果として財政赤字も減って行くと思います。安心して病院に行けるので早期発見、早期治療によって人々が健康になり医療費は返って減少すると思います。老人が幸せな社会は皆が幸せです。子供や若者も例外なく将来は老人になるのですから。
上の二例は逆説的ですが真実は何処にあるでしょうか。
仮に原始時代のように極めて低い生産力の段階であれば上の若者の意見は正しいと思います。日本各地に残る「姥捨て山」の伝説は生産力の低い社会の貧困の悲しみを表しています。グリム童話のヘンゼルとグレーテルもそうです。生産力の低い段階では社会的不平等が先鋭化し弱者の貧困は深刻化するのが常でした。生産力の低い段階の社会においては節約は美徳であり姥捨てや捨て子、間引き等の身を切るような悲しい悪徳は低い生産力の制約から時折生じる飢饉などの非常時には止むを得ず生じる事態でした。まさしく切り捨てあるいは節約ですね。
科学技術が高度に発達した二十一世紀の現代においては社会の生産力は巨大です。失業者が多くて不況な経済とは実は社会の生産余力が十分にあるという事です。前回報告しましたように現在の経済は殆ど完全に交換経済です。交換経済の原動力は消費です。ある商品の需要が増えるとその価格が上がります。生産が追いつかない場合は高値が持続しますが、今日の高度な産業社会においては通常もうかる製品の生産は急激に増大して、直に供給が需要に追いつき価格が下がります。これはお金の価値を保障するものは生産力に他ならない事を示しています。製品の生産を増やす段階で人は工夫をします。それによって生産システムが進歩する事が経済成長の一つの原動力です。経済成長のもう一つの原動力は本物の需要のある製品の創造です。それは即ち世人に必要とされている新たな物やサービスの開発です。これは実に言うは易く、行うは難い事です。何しろそれを最も必要とする当人も思いつかないものが無限にある筈ですから。(1)問題の発見、(2)問題の原因の研究、(3)問題の解決法の探求、(4)問題の解決法の実現のすべての段階において人は人と情報交換しながら持てる知識と思考力をフルに活用しなくてはなりません。事業化においては事業体と販売経路の構築も必要不可欠です。すなわち生産力の源は人間の学問と組織に他なりません。
現在のように極めて高い生産力を有する歴史段階の社会においては需要の面から見れば社会福祉は経済的負担というより経済の原動力でもあります。人の幸福を願う心が学問および社会の生産力の源であると思います。人にその必要なものを提供できる事に勝る喜びがあるでしょうか。おそらく今日の不況の根源的原因は社会福祉の不備にあるのではないでしょうか。
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* 市吉 修 Osamu Ichiyoshi
* 二十一世紀を楽しく生きよう会
* Human Network for Better 21 Century
* http://www5e.biglobe.ne.jp/~kaorin57/
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