子ども、保育士、保護者の信頼関係の構築は困難−大東市に損害賠償命令



民営化でつらい思いをした
全国すべての子どもたちへの勝利判決



−大阪高等裁判所判決を受けて−



 4月20日、大阪高等裁判所は、大東市立上三箇保育所廃止・民営化によって子ども達に損害を与えたとして、大東市に損害賠償を命じました。民営化そのものの違法性と条例取り消しは認めなかったものの、子どもを犠牲にした大東市の民営化を裁判所が明確に断罪したものであり、数々の「不安」「懸念」を認めながらもガマンの範囲内とした一審判決(地方裁判所判決)をくつがえし、私たちの一番訴えたかったことが認められた大きな勝利判決となりました。


子どもとの信頼関係、意見聴取、引継ぎ、経験年数の不十分さを認定

  私たちは、今回の公立保育所廃止・民営化の最大の犠牲者が子どもたちであり、保護者、保育士など関係者がどれほど心を痛めてきたかを訴え続けてきました。

 裁判所は、大東市が「民営化方針やその実施方法の決定に当たって、重大な利害関係を有する同控訴人(保護者)らの意見を聴取する機会を持つことなく、新保育園の保育内容や引継ぎの実施方法等についても、同控訴人らの希望や意見等を取り入れなかったこと、児童の発達における人的環境には大きいものがあり、児童の保育に当たっては、保育士と児童及び保護者との信頼関係が重要であるところ、3ヶ月の引継ぎ期間で数名の保育士が参加しただけでは、上記のような信頼関係を構築することは難しいこと、本件保育所の廃止・民営化の結果、本件各児童に対する保育に当たっていた本件保育所の保育士は全員交替し、他方、新保育園における保育士は、本件保育士に比べて、経験年数の少ない者が多いことが予定されていた」とし、子どもの精神的負担、児童の安全への重大な危険が生じかねない状況や混乱が生じたことを認定、「万全の対応を採った」との大東市の主張を事実に照らして否定しました。

「引継ぎは1年必要、保育士派遣など配慮怠った」−1世帯33万円の賠償を命令

 裁判所はこれらの認定の上に立ち、子どもたちや保護者に大きな影響を及ぼす可能性がある民営化を実行するに際して、子どもたちが「心理的に不安定になることを防止するとともに、同控訴人らに対し、引継ぎ期間を少なくとも1年程度設定して」「主要な行事等をその過程も含めて見せたり、平成15年4月1日の民営化以降も、数ヶ月程度、」前公立保育所の保育士を派遣するなどの「十分な配慮をすべき信義則上の義務(公法上の契約に伴う付随義務)」を負っていたのに、大東市はこれに違反して十分な配慮を行わず、子ども達に損害を与えたとして、1世帯あたり30万円の慰謝料と弁護士費用3万円、合計33万円の支払いを大東市に命じました。

「保育を受ける権利」については市長の裁量とする不当判決

しかし、保護者が選択した保育所で小学校入学まで保育を受ける権利については、保育所が市長の「裁量」で廃止されればなくなってしまうという地裁判決をそのまま採用し、もっとも大切にされるべき子どもたちの安定した保育を受ける権利は、依然として市長の裁量で自由に奪うことができる不安定な制約つきの「権利」のままです。

 保育における子ども、保育士、保護者の信頼関係の重要性を認めながら、それを一方的に奪う裁量を市長に認める矛盾は依然として変更されない不当性をあわせもった判決といわなければなりません。

大東市は上告せず、全園民営化計画の中止を!

 今回の高裁判決は、保育において、「保育士と児童及び保護者との信頼関係が重要」であること、それをわずかな引継ぎで構築することは困難であり、保育士の経験年数にも言及して子どもたちの被害を認定したことは、全国で当たり前のように進められている民営化の影で様々な苦痛と我慢を強いられているすべての子どもたちの被害を認定し、行政の責任を明確に断罪したものです。

 私たちはこの間支援いただいたすべてのみなさんに感謝申し上げるとともに、改めて、全国で進められている子ども無視の一方的な公立保育所廃止・民営化を中止するよう訴えます。そして、民間保育所も公立保育所も大切にされ、子どもたちの成長に行政が最大の配慮を行うことを切に願います。

 大東市に対しては、子どもたちに与えた損害をきちんと認め、最高裁への上告を行わず、今後の民営化計画を取りやめるよう訴えるものです。

 まもなく5月5日、「こどもの日」を迎えます。「児童は、人として尊ばれる。児童は、社会の一員として重んぜられる。 児童は、よい環境の中で育てられる。」−児童憲章にこめられた子どもたちの健やかな成長への願いとあわせ、私たちはこれからもがんばり続けます。

2006年4月20日

大東保育所裁判原告団
大東保育所裁判を支援する会
大東の保育を考える会