邂逅

 成田空港へと向かう電車の駅に向かう道中、ミレイユと霧香の二人は取り留めのない会話をしながら歩いていた。実際には、ミレイユが一方的に話し、霧香は時々それに相槌をうつ、といった感じではあったが。

「きゅい〜ん☆ ご主人さまぁ!」

 何の前触れもなしに、霧香は後ろから抱きつかれた。ミレイユと霧香の二人が驚いて振り向くと、奇天烈な格好をした少女が霧香の頬に顔を寄せていた。

「あの…えと…あなたは…」
「ちょっと、あんた誰よ!」
「えぇ?!何するんですかお母様ぁ!」

 困惑する霧香。怒って少女を霧香から引き剥がそうとするミレイユ。何かを勘違いしている様子の少女。混乱のひと時の後、ようやく事態を収拾できそうな体制になる。

 少女は長身で、「美少女」と呼んで差し支えない顔立ちをしていた。しかし、ミレイユの目には、まさに少女は「奇天烈」としか表現のしようがない格好をしていた。

 ショッキングピンクの髪を赤いリボンでポニーテールにまとめ、襟元にはやはり赤いリボン。青いワンピースの胸元には白いブラウスが見えるが、胸の大きさを強調するデザインになっている。ミニスカートの前に白いエプロンを着け、長い足を白いニーソックスに包んでいる。強弁すればメイド服に見えなくもないが、そう呼んでしまってはメイドが激怒するだろう。

 (コスプレ娘が街を歩いているなんて、さすが日本ね)
 服装のほうは日本文化を激しく誤解した納得の仕方をしたミレイユである。しかし、プロの殺し屋である自分と霧香にまるで気配を悟らせなかったのは只者ではない。正体を探ってみたいと思ったが、ミレイユが口を開くより早く、
「ふえ〜ん、ご主人様とお母様じゃありませ〜んっ、くるみの馬鹿馬鹿馬鹿ですぅ!」
 そう叫んで自分の頭をポカポカと叩き始めた。これだけ騒いで、判明したのは少女の名前だけかと思うと、ミレイユはうんざりした気分になったが、通りの向こうから救いの声がかかる。その声は、霧香にそっくりだった。

「くるみちゃ〜ん!なにやってるの〜」
「あ、ご主人様ぁ!」
 大きな丸眼鏡を掛けた小柄な少女がこちらに駆け寄ってくる。到着直前にバランスを崩し、くるみの胸に顔から突っ込むところで、くるみが抱きとめた。後ろからは、眼鏡娘の母親と思しきショートヘアの女性が霧香とミレイユの許に歩み寄ってきた。

「この()がご迷惑を掛けたみたいですね。ごめんなさいね」

 くるみの肩を抱いて謝罪する。その口からでた声は、ミレイユそっくりだった。驚いたミレイユが曖昧な相槌を打つと、謝罪を受け取ったと解釈したのか、娘とくるみを連れて去っていった。二人はあっけに取られて立ち尽くしていたが、やがて思い出したように歩き始める。ふと、今まで黙っていた霧香がぽつりと呟いた。

「ミレイユ…」
「なに?」
「なんだか、はにはにだね」
「何言ってるのアンタ」


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