今日のキミは遠い空の下






「ルクス、お願い!!」

 廊下を歩いていれば後ろから服を引っ張られたので振り返った。
 それと同時にキリルが両手を合わせてそう叫ぶ。
 あまりの勢いにルクスが目を丸くした、それが事の始まりだった。

「別行動?」
 廊下から食堂に場所を移して。
 キリルが言った事をそのままルクスが聞き返せば、キリルはしゅんと項垂れてしまった。
 何故そんなに落ち込むのか分からなくてルクスは慌てた。
 無表情にキリルを眺めているようにしか見えなくても慌てていた。
 話の内容はごく普通だった。
 ギルドで依頼の話が2つ来た。
 キリルの実力はすっかり信頼されているので、キリルが申し出るより先に頼まれる事も増えてきて、今回もそうだった。
 依頼はどちらも大きな被害を出している魔物退治。
 そしてどちらもこれから行く予定の場所からだった。
 片方はナ・ナル島で、こちらは仲間と合流する為。
 もう片方はメルセトで、こちらは今の目的地。
 順番に行ってもいいが、困っている人がいるなら早く助けたい。
 だから何人か先にメルセトへ行ってもらいたい。
 魔物退治と、無事に終わったら合流するまで情報収集を。
 そう言ったキリルは、別におかしい事は言っていない。
 でも酷く申し訳なさそうで、何故だろうと首を傾げた。
「あの、それで…、別行動の人達はルクスにお願いしたいなって…。」
 俯いたまま弱々しい声でキリルは言う。
 それに、ああ、とルクスは納得した。
 頼ってばかりで申し訳ない、と謝るいつもの気遣いだ。
「キリル君。」
 びくりと肩を揺らしたキリルは、ゆっくりと顔を上げた。
 ルクスは出来るだけ笑って見せた。
「キミの為になれるのなら、何でもするよ。」
 優しい笑顔と優しい言葉。
 キリルは嬉しくて申し訳なくて少し泣きそうになった。
 それにまたルクスが表情もなく慌てる。
 いつも通りと言ってしまえばそれまでの2人を、同じくいつも通りの2人が少し離れた場所で眺めていた。
「………、嫌な予感がする…。」
「奇遇だな、オレも同じだ…。」
 ハーヴェイとシグルドが深々とため息をついた。
 予感というよりも経験だろうか。
 絶対にまた2人の面倒に巻き込まれるだろうと思いながら。
 自分の立場を正確に理解してしまっている2人は、どちらがどちらに付いて行くか、とりあえずジャンケンで決める事にした。
 放っておくなんていう選択肢は、もはや存在しなかった。





 






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