特集 人づきあい  ちょうどいい距離の見つけ方」

 (PHP 11月号)

物理的な距離・心の距離

 人づきあいの距離感ということで私が日頃から気をつけていることは

つきあいを放ったらかしにしないということです。例えば古くからの友

人がいる。しょっちゅう会うわけではないけど、時には顔を見たくなっ

たりする。「あいつ、元気でやってるかな」とふと思い出したりする。

そんなとき私は、すかさず電話します。「久しぶりだな。元気でやって

るか。最近はどうしてるんだ」「いやあ、もう定年になったから、毎日

が日曜日みたいなもんだ」。特に用事があるわけでもなく、ただこれだ

けの会話です。

 でも、そんなちょっとした会話だけで、友人との絆は切れることはありません。面倒くさいと思って、

二年も三年も連絡を取らなければ、やがては疎遠になってしまう。何年も連絡を取らずに久しぶりに会っ

たところで、互いに話すこともみつからない。人づきあいとはそういうものだと私は思っています。

 毎年夏になると、私は友人たちを招いて船を出します。みんなが集まる場をつくり、そこで離れかけた

距離を取り戻そうとする。集まってくれた友人のために食事をつくり、まさに私は民宿のオヤジみたいな

ものです。互いにいい関係を続けたいと思っているのなら、やはりそれなりの努力をしなければなりませ

ん。誘われるのをじっと待っているだけでは、どんどん距離は遠ざかっていくものです。

 さて、こういう物理的な距離とは別に、心の距離というものがあります。きっと人間関係の距離感に悩

んでいる人がいるとすれば、この心の距離の取り方が分からないのでしょう。これを解決するためには、

まずは相手の性格を知ることです。人のタイプはさまざまです。お喋りな人もいれば寡黙な人もいる。

けずけと言う人もいれば遠慮がちな人もいる。誰に対しても同じようなつきあい方をするのではなく、そ

の人に合った対応をしてあげること。言い方を変えれば、相手の性格に合ったつきあい方をするというこ

とです。これに関しては私の得意分野です。なにせ長年俳優をやってますから。

 演技などと言うと反発を感じる人もいるかも知れませんが、人間関係において自分を演出することはと

ても大事なことです。すべて丸裸でぶつかってしまえば人間関係なんてたちまち壊れてしまう。丸裸でぶ

つかってもいいのは小さい子供の頃だけ。大人の関係とは、互いの性格を測りつつ、相手に合わせるとい

う気持ちを持つことです。それはひいては、相手の立場を慮るということでもあります。

 私は若い頃、毎日のように週刊誌の記者に追い回されました。芸能人だから仕方のないことですが、そ

れにしても根も葉もないことまで書かれる。頭に血が上ってことも幾度もなくありました。でも、考えて

みれば、記者にとってはそれが仕事です。彼らにも養う家族がいる。そう思ったときから、私は彼らを敵

対視するのではなく、同じ人間同士、男同士として接するようにしました。時には本音でぶつかり合った

こともありました。そうするうちに適度な距離感が芽生え、信頼関係が生まれてきた、そうなるともう、

彼らは私の悪口なんて書けません。別に悪口を書かれたくないからそうしたのではない。ただ、彼らの立

場や性格を理解しようと努めただけです。いい関係を築きたいと願うなら、やはりそれなりの努力と演出

が必要なのです。

心から望んでいるのか

「唯心所現」という言葉があります。人間というのは、心の中で思っていることがすべて現象として現

る。どんな選択もどんな結果も、すべては自分が思っているとおりになっているという意味です。私はこ

の言葉が大好きです。つまりは、心の持ち方次第ですべてが決まるということです。人間関係もしかりで

す。「あの人との距離をもっと縮めたいのに、なかなかそうならない」と悩んでいる。もしもそう悩んで

いるとすれば、それはあなた自身が心から縮めたいと思っていないからに過ぎません。

 周りの人との距離感にしても、それはあなたの心が決めていることです。自分が決めていることに自分

が文句を言っている。それはおかしなことです。周りの世界を変えたいのなら、まずは自分自身を変える

ことです。心の持ち方一つで、世界は大きく変わります。

 友人に会いたいと思っても、電話するのが面倒くさい。相手の性格を理解したいと思うけれど、それも

また面倒くさい。何をするにも口癖のように「面倒くさい」という人がいます。そういう人はきっと、生

きていることさえ面倒くさいのでしょうねいい関係を築きたいと心から思っているのなら、それは絶対に

叶うものです。

素直な気持ちになろう

 私は50歳になったときから、家事を手伝うようになりました。これからの人生では、自分でできるこ

とは自分でしようと思いたったからです。これまでは妻任せだったことを自分でやってみる。そこではじ

めて、妻の大変さがわかってきます。当たり前だと思っていたことが、実は相当な手間がかかっていたこ

ともわかってくる。そうして妻の苦労を知ることで、ますます妻への感謝の気持ちが沸いてきます。

 感謝の気持ちは思いやりに変わります。思いやりの心には温かさが宿ります。そして、温かさに溢れた

場所に人は必ず帰ってくる。家庭という場だけでなく、こういう温かな帰る場所をもっていること。それ

こそが人間として幸福なことだと思います。人間は一人では生きてゆけない。それは動物だって同じこと

家族や友人、あるいは仕事仲間に囲まれて生きている。自分が生きているその場所が温かさに包まれてい

れば、それほど素晴らしいことはありません。そしてその温かさを演出するのは、誰でもない自分自身な

のです。人に何かをしてもらうことばかり考えないで、自分がやってあげられることを考えることです。

いい人間関係を望むのなら、自分自身が温かい気持ちをもち、素直な性格になること。

 最後に、私の心に残る言葉を贈ります。

「思考に気をつけなさい。それはいつか言葉になるから。

 言葉に気をつけなさい。それはいつか行動になるから。

 行動に気をつけなさい。それはいつか習慣になるから。

 習慣に気をつけなさい。それはいつか性格になるから。

 性格に気をつけなさい。それはいつかあなたの運命になるから」

2012年01月01日新設