坂村 健氏の「どこでもコンピュータ」とマーク・ワイザー氏の「ユビキタス・コンピューティング」
- 坂村 健氏の「どこでもコンピュータ」
坂村氏をリーダとするTRONプロジェクト(TRON:The Real-time Operating system nucleus=実時間OS)は、「どこでもコンピュータ」環境というビジョンを目標に、そのための新しいコンピュータ技術体系を確立することを目指して1984年に始まった。
「どこでもコンピュータ環境」をMTRONと称し、以下のように記している。
「MTRON規格は、インテリジェント・オブジェクトを実現し環境制御に用いるための規格体系である。
インテリジェント・オブジェクトとは、人間の周囲のさまざまな“もの”にマイクロ・コンピュータを
組み込んだものである。それらはマイクロ・コンピュータの制御により能動的に動作して、人間を取り
巻く環境を最適なものにすることを目的とする」
TRON電脳住宅、TRON電脳ビル、ディジタルミュージアムなどの実験プロジェクトを行った。
- マーク・ワイザー氏の「ユビキタス・コンピューティング」
マーク・ワーザー氏をリーダとするゼロックスのパロアルト・リサーチ(PARC)の研究グループは、
1988年ごろから、10年から20年先のコンピュータはどのようなものであるべきかに取り組み、その中から
「ユビキタス・コンピューティング」=「どこにでも偏在するコンピュータ」という新しい概念が生まれた。
背後に隠されたコンピュータが相互に連絡をとりながら、あらゆる面で人間をサポートする、まさに
環境としてのコンピュータである。マーク・ワイザー氏のユビキタス・コンピューティングの原典とも
ういうべき論文は1991年9月に発表され、その中で「未来のコンピュータは、私たちがその存在を意識
しないような形で、生活の中にとけ込んでいくだろう。一つの部屋に数百ものコンピュータがあって、
それらがケーブルと無線の両方のネットワークで相互に接続されるだろう」と述べている。
- これらは同様のコンセプトでも考え方は多少異なる:一神教と多神教
マーク・ワイザー氏の「ユビキタス・コンピュティング」は、「キリスト教的な同一の神がどこにでも
いる」ということであり、ネットワークでつながれた多数の小型コンピュータからなる統合された単一
システムがあまねく世界をおおっているという感じである。
一方、坂村 健氏の「どこでもコンピュータ」は、日本的な八百万の神が「そこにもいて、あそこにも
いて、裏のネットワークで話し合っている」という感じである。