図書紹介:『娘から父・丹羽文雄へ贈る 朗らか介護』
- 著者:本田桂子
- 出版社:朝日新聞社、ページ数:219ページ、出版年月:2001年11月10日、定価:1300円
本書は、小説家丹羽文雄氏(1904年生まれ)の長女本田桂子さんによって書かれた、娘によるアルツハイマー病にかかった
父親丹羽文雄氏に対する介護記録である。長女は料理研究家という職業を持ちながら、14年前から介護を続けており、その記録
は4年前の著書『父・丹羽文雄 介護の日々』に書かれている。本書は介護保険が始まった2000年春から2001年春までの
1年間についての介護記録である。著者は、残念なことに2001年4月15日に虚血性心疾患により65歳で突然死去した。著者は
母親(1998年9月没)およびご主人の母の介護も経験しており、介護に関してかなりのキャリアを持った方であり、介護に関して
講演や提言を積極的に行っていたので非常に残念である。
本書の内容は、介護保険が始まった2000年春から、2000年夏、2000年秋―冬、2001年春と時系列で書かれており、そのときどき
の父親の状況、介護の状況、その折々考えたことなどが書かれている。特に2000年春の介護保険が始まる前後の役所の準備不足
の中でどのように介護保険を適用していったかについて詳しく書かれていて興味深い。また、2000年秋に遂に父親を施設に入れること
を決断せざるを得なくなったときの苦悩はひしひしと伝わってくる。そして悩み、考え続けた結果、その救いをグループホーム
に見出し、入所が決まった矢先に著者は急逝した。父親を最後まで看取ることができなかったことは著者にとって非常に悔しか
ったに違いない。本書の最後に、著者のご主人による「亡き妻・桂子−本田隆男」と著者が1999年4月17日に東京都多摩市の
「CSK情報教育センター」で行った講演録が収録されている。
本書により、丹羽文雄氏のアルツハイマーの病状と介護方法を以下に概略紹介する。
- 丹羽文雄氏の病状
アルツハイマーの症状らしきものがあらわれたのは1986年ころのようであり、次の年の夏に老人医療センターで診断して
もらったらアルツハイマーの初期と言われた。それから症状は徐々に進み、1998年頃には長女のことも分からなくなった。2000年
の介護保険の認定は、「要介護四」であった。その頃は、一日中、ソファーに座ってうたた寝しているか、じっとしていることが
多くなった。そして2000年秋には排泄の問題が起こり、遂に2000年12月初めに有料老人ホームへ入所せざるを得なくなった。
- 介護方法
2000年4月に始まった介護保険の最初のケアプランによると、週二回、昼間の午前九時から午後四時までのヘルパー派遣
(これまでと同じヘルパーさん)と、毎週水曜日の夜間ヘルパー派遣、更に自費のヘルパーさんであった。これは介護保険以前
とほぼ同じ介護内容である。著者は、「排泄の問題が起きれば、施設での介護を考えよう」と心を決めていたが、遂に2000年
12月初に有料老人ホームに入所せざるを得なくなった。
本書を通して私が受け取った心に響いたメッセージは以下の通りである。
- 介護サービスを利用するには、「私なら、こんなに完璧にできるのに」という思いを押しとどめつつ、他人の手にゆだねると
いう気持ちにならないと利用できません。
- ぼけの始まった父に対して、決して否定的な態度を見せませんでした。間違ったことをしても話しても、言下に否定する
のではなく、よい聞き手になってあげることを心がけました。
- 介護する側のケア(ケア・フォア・ケアテイカー)、即ち介護にかかわっている人がほんの少しでも自分のために使える時間
を持てる環境づくりが必要です。これが介護を続けていく上で大きな力になります。
- 老人食だから材料を細かく刻んで食べやすいように工夫したり、健康を考えた場合、薄味仕立てにすることが、当たり前のよう
に語られていますが、それは間違っています。長年食べ慣れてきた家庭の味をそのまま提供してあげることの方が大切です。
あえて言うならば、今さら健康のことを考える年齢でもないでしょう。
- 一瞬でも正気に戻っているのかなと感じられる瞬間が、どんなに救いになるかわかりません。最近は、ただニコニコして、
何も話してくれませんが、父のしぐさから感じ取れる一瞬の喜びが心の支えになっているのです。
[コメント]
丹羽文雄氏の家は母の家から歩いて3分位の所にある。また、本書に出てくるケアマネージャーは母のケアマネージャーと同じ人
のようである。このため、本書を非常な親密さを持って読んだ。専任のヘルパーさんを雇えるというような恵まれた条件の中での
介護ではあるが、親を最後まで大切にしたいという思いは皆同じであり、その一生懸命な取り組みには頭が下がる思いがした。
また、料理に対する考え方、有料老人ホームの内容、グループホームの考え方などが非常に参考になった。著者が65(?)歳で急逝
されたことは非常に残念に思う。もっと長生きをしてグループホームなどを進めて欲しかった。
(2002年8月5日)
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