コラム:「母と歌」

母は小さいときから歌うことが好きでした。雨の日などは、窓から雨だれが落ちるのを見つめながら 一日中でも歌っていました。母のお父さんは音楽好きで、貧しかったのにヴァイオリンが弾けたようで、 母は小さいときからお父さんの伴奏でよく歌わされていたようです。母の歌好きはこのような父親の 影響かも知れません。(私のカラオケ好きのルーツもこれかな?!) 母は小学校の学芸会で毎年合唱に 出演していましたが、一度だけ独唱をさせられたことが今でも自慢の種です。かなわぬ夢だったよう ですが、音楽学校に行って歌手になりたいと思ったこともあったようです。しかし、家庭の事情が 許しませんでした。

今でもしょっちゅう家で歌を口ずさんでいます。それらの元の歌を集めてテープやCDに録音し、 毎日聞かせています。耳が遠いのですが、ラジカセを顔から30cm位のところに置き、音量を大きめに すれば聞こえます。歌によっては、涙を流さんばかりに感動して聞いています。母が特に好きな歌は 次のような歌です。

・酒は涙か溜息か藤山一郎
・影を慕いて藤山一郎
・旅の夜風高石かつ枝、藤原 良
・悲しき子守唄高石かつ枝
・この世の花島倉千代子
・夜明けの歌岸 洋子
・恋人よ五輪真弓
・群青谷村新司
・ラ・ノビアペギー葉山
・かあさんの歌鮫島有美子

母はときどき私たちには聞こえていないのに「歌が聞こえる」と言います。「何の歌?」と聞くと、 しっかり耳で確認しながら歌詞をなぞるように歌います。母には聞こえているようです。聞こえない 私たちを「不便だね」と言って気の毒がります。図書紹介に取り上げました『ぼけが起こったら』の 中に、「痴呆の人には時には幻視、幻聴、幻嗅という症状も起こります。しかし病人本人にとっては 幻ではなく、現実なのです」とありますが、まさに母にはその通りのことが起こっているようです。
感動を与えることは精神的によいと思いますので毎日聞かせています。

(2002年6月21日)

戻る