図書紹介:『もの忘れ外来』

  • 編者:北 徹  
  • 発行所:株式会社 岩波書店、ページ数:204ページ、発行日:2002年5月7日第一刷、定価:740円+税

京都大学付属病院老年科「もの忘れ外来」は1999年4月に開設され、老年期の記憶障害および痴呆症の診断と評価後の治療や助言を中心に 幅広く活動している。本書は、この「もの忘れ外来」に関係している4人の医師によって作成されたものであり、「もの忘れ外来」に来る 人はどういう人か、そこでどのような診療が行われるかなどが具体的に分かりやすく説明されている。

本書の内容は、五つの章と一つの座談会からなり、それらの内容は下記のとおりである。

  • 第一章「もの忘れ外来」とは
    「もの忘れ外来」でどのような診療が行われるかを説明するために、患者が診察室に入って来たと想定して患者と医者のやり取りを通して診察室の雰囲気、診察の手順、外来の仕事は何かなどについてを説明している。
  • 第二章「もの忘れ外来」での診断と評価
    もの忘れや痴呆症の診断について、問診、血液検査、CTやMRI、認知機能検査、行動評価法、SPECT、脳脊髄液検査などについて具体的に説明している。
  • 第三章 どのような治療があるのか
    痴呆に関連した病気の治療について、三つのグループ、即ち@治療可能な病気(内分泌系の異常など)、A予防が大事な病気(脳血管性障害など)、B接し方が大事な病気(アルツハイマー病など)に分けて治療の現状について紹介している。
  • 第四章「もの忘れ外来」から地域へ
    高齢者の介護を支える介護保険制度、グループホーム、お金の話(権利擁護事業、成年後見制度など)、人と人の交流の持ち方のヒント等について説明している。
  • 第五章「もの忘れ外来」の上手な利用法
    「もの忘れ外来」に初診で付き添って行く場合に事前にまとめておくべき患者の情報、診察の流れ、再診までに行っておくべきこと、「もの忘れ外来」のさまざまな利用法などが説明されている。
  • 座談会「もの忘れ外来」について
    編著者の三人にソーシャルワーカが一人加わって、「もの 忘れ外来」の現状と将来などについて幅広く語り合っている。
本書は、以上のとおり、「もの忘れ外来」について総合的に幅広く説明したものである。さらに適宜、痴呆、記憶障害、アルツハイマー 病、脳血管性痴呆などについても分かりやすく説明されており、本書を理解しやすくしている。また、評価法 では、簡易にできる評価法として、長谷川式簡易知能評価スケール、痴呆簡易診断スケール、DBDスケールが 記載されており、試みることができる。

私もアルツハイマー病の母を介護する身であるが、本書に出てくる症例やアドバイスは、正に納得いくもの であった。特に納得し、心に残った言葉を下記に示す。
  • 患者への接し方ついて
    • 「試したり鍛えたりしようとせずに、わかりやすく助言を与えること」  
    • 「怒ったり怒鳴ったりせずに、根気よくつきあうこと」  
    • 「本人ができるだけ安心できるような環境を作ること」  
    • 「家事や買い物、趣味などはできるだけやってもらい、わからないことは手助けしてあげること」  
    • 「できることは何でもやってもらう、でもできないことは無理にやらせない」
  • 「ノーマライゼーション」について
    • 最近の医療と福祉の領域で最も重要な考え方として「ノーマライザーション」というものがあります。 これは「ノーマル」にする、つまり障害があっても普通と同じように生活する、という考え方です。
    • 身体、知能、精神、どの障害についてもノーマライゼーションということは大切ですが、老年期 に起こるさまざまな問題についても同様の考え方が大事で、老年期の記憶障害や痴呆症にもあてはまることです。   
  • 「もの忘れ外来」の役割
    • 私たちのような老年科にある「もの忘れ外来」は、単に神経・精神の難病である痴呆症を診療するだけでなく、障害を持った高齢者 のノーマライゼーションを支える役割を担うという視点を持ち続けたいと考えています。
    • 医学上の研究や制度の改革も重要ですが、高齢社会を生きる一人一人の理解や知恵が何より大切です。
[コメント]
本書により、老年期の記憶障害や痴呆症について知るとともにそれらについての対処法を幅広く全体的に知る ことができる。このように「もの忘れ」や「ボケ」の悩みに総合的に対応してくれる外来があるということは 心強い限りである。是非、このような外来を持つ病院が全国に増えることを願うものである。
本書は、介護する立場にある人にとっても、自分が将来痴呆症になった場合を心配されている方にとっても有益な内容であり、一読をお奨めする。
(2003年1月7日)

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