図書紹介:『和子 アルツハイマー病の妻と生きる 』
- 著者:後藤 治
- 出版社:亜璃西社、ページ数:287ページ、出版年月:2002年2月20日、定価:1500円
本書は、元北海道の高校教師による、アルツハイマー病にかかった奥さん「和子さん」への介護記録である。
内容は、「若年性アルツハイマー病」と診断された1992年から執筆時の2001年まで期間について書かれている。
(それ以降は教え子たちによって開設されたホームページ上に逐次紹介されている。)
本書の内容は下記構成になっている。
- プロローグ 覚悟してください
- 第一部 ケアレポート
若年性アルツハイマーと診断された1992年頃から終の住処と考える小樽市へ引っ越した1994年までの記録
- 第二部 チュー太の介護日記
1996年から2001年までの介護記録
- 第三部 チュー太のもの申す
『介護日記』に書けなかった“言いたいこと”、主として日本の福祉について”もの申したい“ことについて
- エピローグ 和子さんへ
本書に従って、和子さんの病状の進行と介護方法の推移をたどってみると概略下記の通りである。
なお、和子さんは大学で声楽を専攻し、恩師から「プロへの才能があったのでは」と言われたほどであったが、天職として高校の音楽教師の道を選んだ。
- 1992年
12月に「若年性アルツハイマー病」と診断される(和子さん:56歳)。推定発病時期は5年前。
- 1996年
幼児がえり(「ちょっとおうちに行ってくる」など)。ピアノを弾くことも絵を描くこともしなくなった。手紙も誤字だらけで文章になっていない。週2回近くの神経内科クリニックの作業療法室に通う。週1回訪問看護ステーションからのナースの派遣。
- 1997年
自分がどこに居るのか、時間がいつごろなのか、殆どわからない。身の回りのことは殆ど介助が必要。日常会話は殆どできず、字を書くことは全くできない。歌は歌える。1月から月1回2泊3日の特別養護老人ホームでショートステイを開始。11月からは、祝日を除く月〜金のデイサービスと金の夕方から月の朝までのショートステイ。
- 1998年
激しい精神症状で大荒れしたこともあるが、新しいトランキライザーを使っておさまる。日常会話は殆ど無理、幻覚もある。機嫌のいい時は歌を歌って過す。6月には、おだやかな笑顔が戻った。食事から排泄までほぼ全介助。
- 1999年
話す言葉の大半は意味不明、常時幻視状態。7月には、特別養護老人ホームに入居。毎日行って、食事を食べさせたり、一緒に歌って過ごす。機嫌がいい時は音程も確かで昔覚えた歌詞もどんどん出てくる。
- 2000年
介護保険認定は要介護5。3月初から車椅子生活だったが、歩く練習を行い7月には少し歩けるようになる。歌わなくなったが、明るさが戻る。11月には、簡単な言葉が少し戻り、再び歌えるようになる。
- 2001年
きちんとメロディーは出せなくなったが、体で正確にリズムを取って少し口ずさむ。歩行は1500歩まで距離を伸ばした。
[コメント]
本書を読んで感じることは、まず第一に著者の献身的な介護である。著者は現役の仕事をもっていないとは言え、狭心症の持病をもっており、なかなかこれほどのことはできないと思う。第二にたくさんの教え子たちの素晴らしいサポートである。先生とは如何に素晴らしい仕事であるかを実感させてくれる。彼らたちのサポートなしには、これほどの介護は無理であったろうし、また本書もできなかったと思われる。
私もアルツハイマー病の母の介護を行っているが、本書は非常に参考になった。患者一人一人で症状、進行は異なると思われるが、一つの記録として非常に貴重である。
(2002年6月25日)
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