介護レポート:2003年6月度
「痴呆は進む。しかし母性本能は健在」

母の体調は順調に回復し、前半は時々首筋を痛がることがありましたが、後半 はそれも直り、以前の良い状態に戻りました。足の方もまあまあ調子よく、少しびっこをひきながら 近くのスーパーまで行けるようになりました。ただ、それはそれで大変なのですが・ ・・
それに比べて痴呆の方はちょっと進んだように感じます。自分の親のことも、自分が結婚したことも、 自分が生んだ子供のことも殆ど覚えていません。自叙伝「私の人生」の内容や写真を見てもそれらを 殆ど思い出さなくなり、「この本には嘘が書いてある」などと言うこともあります。ただし、たまに調子が 良いときは多少思い出すことはあります。このような状態の中でも 母性本能または母親の感情は健在であると感じる出来事がありましたので紹介します。

それは、私が今月下旬に歯痛に襲われたときです。ある朝起きたら歯が痛いのです。しかし、通常どおり 朝食を用意して母と食べ始めたのですが、私は一口食べただけで痛くて食べられませんでした。母は私がご飯 を食べていないのに気がついて、「どうしたの?」と聞きました。私は「歯が痛くて食べられない」 と言って大げさにしかめっ面をして見せました。そうしたら母は、「困ったね。何かいい方法はないのかい?」 と言って心配そうに見ていましたが、急に立ち上がって財布を持って私の周りをうろうろし始めました。 そして急に思いついたように「何か食べられるものを買ってくるから待っててね」と言って家から出て 行こうとするのです。私は慌てて、「まだ朝の7時だからお店は空いていないよ」と言うと、 「あっ、そうか」と言って困ったように私の周りをうろうろしています。私は、「後で歯医者さんに行く から大丈夫だよ」と言うとやっと安心した様子で一人で黙々と朝ごはんを食べ始めました。

私はこの母の行動を見て不思議に思うと同時に、ありがたく思いました。私が息子であることが分からない 状態なのになぜこのように心配するのだろうか? 母の無意識層では母性本能または母親の感情が健在 であり、それが息子が困っていると教えたのではないだろうか? 無意識層には多くの記憶が残って いるが、アルツハイマー病の場合、それらを顕在化できないのではないか? 右脳はアルツハイマー病 におかされ難いと言われているので、母性本能の感情が右脳経由で顕在化したのではないか? などと いろいろ考えました。
そのように考えると、他にも同様に母性本能または母親の感情が発露させたと思われる会話または行動を多数思い出します。 一例を下記に紹介します。

  • 夜中、寝ているときに急に起きて、「明日、お弁当を持っていくのかい?」とか「何時に起こせばいい?」と聞く ことが時々ある。
  • 夜、寝ていると急に起き上がり、「布団ちゃんとかけているかい? かぜひくよ。寒ければ言ってよ。 すぐに布団を持って行くから」と言うことが頻繁にある。
  • 「急に背が伸びたね。私と比べてみよう」と言って背比べするとき、非常にうれしそうである。
  • 私がお風呂に入っているとわざわざ見に来て、「ぬるくないかい? ぬるければ暖かくしてあげる から言ってね」と言うことも時々ある。母はお風呂のガスの点け方などとうの昔に忘れているのに・・・
痴呆が進み、いろいろなことが分からなっても、無意識層と右脳を活用できれば人間としての感情を ある程度維持することができるのではないだろうか? そのためには、右脳を働かせるために音楽を 聞かせたり、絵を描かせたり、昔の写真を見せたり、手編みをさせたり、一緒に料理したりすることは 有意義と思うので、これからもできるだけ続けたいと思う。

楽しそうにアイロンをかける母(2003年7月16日撮影)

(2003年7月15日)

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