介護レポート:2003年8月度
「徘徊が日常生活の一部になった」

先月から増えてきた徘徊は、今月もますます増え、日常茶飯事となりました。 増えてきた原因は、多分、痴呆の進み具合と関係があると思います。つまり、痴呆が進むにつれて 最近の記憶は薄れ、小さい頃の記憶が頭を占めるようになるようです。このため、母の頭の中と現実の世界と ギャップが起き、そのため気持ちが落ち着かず、外に出て行って確かめて見たい、お母さんに聞きに 行きたいなどの欲求が出て、外へ出て行くのだと思います。このことは、徘徊中に通りすがりの人に 「室蘭の駅はどこですか?」とか、「室蘭裁縫女学校はどこですか?」などと聞いていることから も分かります。室蘭は母が生まれ、育ったところなのです。

以上が最近徘徊が増えている主な原因ではないかと思いますが、もちろん、それ以外にも原因はあります。 例えば買い物に行く、散歩に行くなど一見正常に見える目的で出て行くこともあります。それが徘徊になってしまう のは、途中で何のために出てきたか目的が分からなくなったり、他の目的にすりかわったりするから だと思います。

徘徊で出ていくときには、頭の中は何かに取り憑かれたような状態(以後、「取り憑かれモード」と呼ぶことにします) になり、他の人の言うことは全く聞かなくなり、顔つきもちょっと変わります。言うことを聞かないだけでなく、 普通使わない罵詈雑言を言います。例えば、「バカヤロー」「出て行け」「私に付いて来ないで」「私の家で ご飯食べないで」などです。私たち身内でもヘルパさんでも相手構わず言います。しかし、徘徊 で出てしまったら、何と言われようともおとなしく後ろから見守りながら付いて行くしかありません。 信号無視したり、前後から来る自動車に気がつかないことがありますから、非常に危険であり、 付いて歩く必要があるのです。

参考のため、母の最近の徘徊の実態を下記に紹介します。(9月から記録をとっていますので、9月について記します。)

日付徘徊時間徘徊の目的、参考情報等
・9/1(月)  
・9/2(火) 何回か出て行きそうになったが、強引に押し止めた
・9/3(水)  
・9/4(木)@13:30〜15:00

A18:10〜19:30
@は近所を3回グルグル回り、一度家に入り、財布を持って今度は違う方向へ行く。
Aは隣の人と話しているうちに見失う。どなたかが交番へ連れて行ってくれた。
・9/5(金) 夜中1時頃、「仕事を探しに行く」と部屋の中で行ったり来たりしたが、部屋から出さなかった。
・9/6(土) 15時頃から落ち着きがなくなり、「夕方に誰かが来る」と言って門まで10回位見に行った。門から出そうになったが、無理に止めた。
・9/7(日)  
・9/8(月)13:10〜13:25デイサービスから帰ってから、「仕事を断り」に行くと言って出て行く。デイサービスを仕事と思っている。
・9/9(火)  
・9/10(水)7:50〜8:50「仕事を見つけに行く」と行って出て行く。朝、5時頃起きたため、朝やることが全て終わってからデイサービスに行くまで時間が余ってしまったためと思う。
・9/11(木)14:30〜17:00昼寝していたのでその隙に買い物に行ったが、その間に出て行ってしまった。自転車で探したが見つからず、結局、知っているヘルパさんと偶然に会い、家に連れてきてくれた。
・9/12(金)14:00〜15:30「急いで行かなければならないことが起きた」「お母さんが入院した」などと言って急いで出て行った。
・9/13(土) ヘルパさんに在宅介護をしてもらっているときに門から出て行こうとした。門の前に自転車を2台邪魔くさく置いておいたら出て行かなかった。 

上記実績では徘徊しなかった日が約60%ありますが、これは何もしなくてそうなったのではなく、 外へ出て行こうとするのをいろいろな工夫で止めた結果です。参考のために私たちが行っている徘徊の回数を減らす工夫を以下に記します。

(1)外へ行きそうなそぶりが見えたときは、母の思考の流れを切り替える
 母は独り言を言うタイプなので、そばにいれば今何を考えているか大体予想がつく。独り言 や雰囲気で外へ行きそうなそぶりが見えたときには、下記のような会話で母の思考の流れを切り替えることを試みる。
 @「洗濯を取り込みに行こう」
A「晩御飯の準備にお米を研いで」
B「おやつに梨をむいて」
C「晩御飯の準備しよう」
(2)徘徊する時間帯は大体決まっているのでその時間帯はできるだけ暇にしない
徘徊する時間帯
 @8:30〜9:00:朝食及び食後の仕事が終ってからヘルパさんがくるまでの時間帯
 A13:00〜13:30:デイサービスから帰った直後、「仕事を断りに行く」と言って出て行く。本人はデイサービスを仕事で働きにいっていると思っている。
 B14:00〜16:00:編物にも飽きる時間帯
 C18:00〜20:00:夕食および食後の仕事が終わった後
上記時間帯を暇にしない工夫例
 @炊事、洗濯、アイロンがけなどの生活行動をできるだけ一緒に行う。
 A買い物や散歩に連れ出す。(最近は殆ど成功していない)
 B常に母の傍らに手編みの準備をしておく。(母は手編みが好きなのです)
 C母の好きな音楽を聞かせる。
 D懐かしのメロディーなど母が興味持ちそうなテレビ番組を解説してあげながら一緒に見る。

以上のような努力をしても止められない場合は仕方ない、と覚悟を決めて付いて行くことにしています。 ただ、徘徊から如何にして家に帰還させるか、という問題があります。ある程度歩いたら、一人でスンナリ家へ戻る場合と、途中で道が分からなくなり 一人では家に帰れなくなる場合など、いろいろです。家の方へ誘導する方法は、各自工夫しています。例えば、私がよく使う手は、母を先回りして母の通路 に立ち塞がり、怖い顔をして睨みます。そうすると嫌な人がいると思い、踵を返して戻っていったり、道を曲がったりします。この特性を使って家の方に 誘導して行きます。家の近くまで行けば、母も記憶にあるようで自分で家に向かって行きます。妹が使った手は、空の車椅子を押しながら どこまでも母の後を付いて行くというものです。そうすると母は嫌がって家の近くまで来たら、自ら家に入って行くそうです。また、私の女房が使った手は 、通りすがりの人に「室蘭の駅はどこですか?」などと聞いている場合、通りすがりの人に合図をして家の方を指差してもらう方法です。また、行って欲しくない道に曲がって しまった場合、先回りをして母の前に後ろ向きに立ちます。そうすると邪魔くさいと思うのか、クルリと後を向いて戻って行くようです。 いずれにしても、介護者は携帯電話と小銭が必需品です。万が一の場合、助けを求めたり、タクシーに乗ったりする必要があるからです。

考えようによっては、徘徊ができるということは、足が丈夫であること、一応自分の主体をもっている ことなどから考えると、全く寝込んでトイレに行けなくなるよりいいし、全く精神活動がなくなるより いいと考えています。深刻に考えず、こちらも健康のためにウォーキングをさせてもらっていると考え、明るく付き合うことにしています。
お母ちゃん、気にしないでどんどん歩いていいよ。どこまでも付いて行ってあげるから」という気持ちです。

料理中の母(2003年9月9日撮影)

(2003年9月14日)

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