口蓋垂を温存した口蓋垂軟口蓋咽頭形成術
神 崎 順 徳(かみざき よりのり)
連絡先:
【はじめに】
OSASに対する治療として、閉塞部位が中咽頭にある患者に対しては、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)が一般的に行われ、口蓋垂の切除あるいは半切が行われている1)。他施設で、UPPPあるいはレーザーによる口蓋垂軟口蓋形成術をうけた患者で「無呼吸、いびきは軽くなったが、ゆっくりのみこめるが、とっさに飲み込むと鼻からでてきて困る。」と訴える患者が多く、当科を受診した症例では、22例中17例で不具合がみられた。このような術後の鼻咽腔閉鎖不全を回避する事を目的として、口蓋垂全体を温存するUPPPを考案した。
【口蓋垂を温存したUPPP術式】(図1)
全身麻酔下に両側口蓋扁桃を摘出し、後口蓋弓と口蓋垂の間に切開線を入れ、目標として、軟口蓋に埋没した形になっている口蓋垂の輪郭をはっきり出すようにする。次に、切開した過剰な口蓋弓皺壁粘膜を移動させ軟口蓋に縫合、最後に口蓋垂の形を整える。なお、前口蓋弓と後口蓋弓とは縫合しない。
【対象】
2003年10月から2004年2月までに、いびき、無呼吸で受診し、アプノモニターX でAI値5以上を示し手術した5症例(男性4名、女性1名)を対象とした。
【結果】
鼻咽腔閉鎖不全症状の消失までの時間
術後5日まで 4例 術後 7日まで 1例
全症例において術前後の呼吸障害の軽減を認めた(表1)。特に無呼吸が強かった症例の術前後のアプノモニターXの結果を提示した。(図2)
【術後の口蓋垂、軟口蓋の経時的変化】
術直後腫脹していた口蓋垂も、7日目、30日目と経過とともに縮小がみられた。
今回、対象となってないが、同じ術式でおこなった5年目の術後状態を提示した。(図3)
【考察】
OSASの手術的治療としては、Fujitaら1),2)が報告して以来、UPPPが一般に行われており、多くの施設で口蓋垂の部分的切除が行こなわれている。口蓋垂は半切の場合でも、術後経過を見ていくと大部分は消失する1),3)。口蓋垂は長年の間、いびき、無呼吸の原因とされてきたが、これらの患者の多くは咽頭腔が狭いために無呼吸が起きている4),5)。「口蓋垂は、食物咀嚼嚥下のパイロットの役割をしている」7) という報告もある。嚥下運動に関しては、第1相において、舌の上に集められ食物塊は、口腔の閉鎖、頬筋の収縮による頬の圧迫、顎舌骨筋や縦舌筋の収縮による舌の挙上と口腔内圧の上昇により咽頭腔に随意運動として送られる。次の第2相では、筋運動は全く反射的に、口蓋弓を形成する舌咽頭、咽頭口蓋筋の収縮による口峡の狭小と舌背の後退挙上による口腔咽頭腔の遮断、軟口蓋挙上筋の収縮による口蓋挙上とPassavant隆起により鼻咽頭と咽頭とが遮断されるというメカニズムで嚥下が行われる7)。図4に示すように口蓋垂の可動性は保たれるが、もし口蓋垂が欠損した場合、鼻咽頭と咽頭とが完全に遮断できず、第2相の反射的嚥下が行われにくくなると考えられる。術前後のアプアモニターVを用いた呼吸検査で、SpO2、鼾の回数、apnea,hypopnea回数において著明な改善が見られている。以上のことから、術後のQOLを考えるとき、口蓋垂を温存したUPPPを試してみる価値があると考えられる。
なお、この論文の要旨は、第105回日本耳鼻咽喉科学会総会学術講演会にて報告した。
【文献】
1. Fujita S,etal:Surgical correction of anatomic abnormalities in obstructive sleep apnea syndrome;Uvulopalato-Pharyngoplasty. Otolaryngol Head Neck Surg 89:923-934,1981.
2.藤田史郎:アメリカにおける睡眠時無呼吸症候群の研究と治療の現況 精神医学
:27,207-217,1985.
3.池松武之亮:鼾の臨床30年.日本医事新報 3218:31-34,1985.
4. 藤原祐樹 他:中咽頭計測法によって得られた閉塞性睡眠時無呼吸症候群の解剖学的特徴,日気食 44:20-26,1993.
5. BadrMS,etal:Pharyngealnarrowing/occ-lusion during central sleep apnea.JApplPhysiol 78:1806-1815,1995
6.向井将他:口蓋垂の機能と咽頭Z拡大術.耳鼻臨床93:31-38,2000.
7.切替一郎他 編著:口腔、咽頭の生理 嚥下作用 .新耳鼻咽喉科学,南山堂349,1985.