鼻閉の治療
-プランルカスト水和物(オノン®)とプロピオン酸フルチカゾン(フルナーゼ®)を用いて-
神 崎 順 徳
Email: junvan2k@yahoo.co.jp
【はじめに】
ロイコトルエンC4,D4は、強い気道平滑筋収縮作用、血管透過性亢進および、粘液分泌促進作用があり1)、鼻粘膜の血管系に作用し血管拡張や浮腫などを起こし鼻閉を起こす2)といわれている。今回、プランルカスト水和物(Cys−LT受容体拮抗薬)およびプロピオン酸フルチカゾン(ステロイド点鼻薬)を併用投与し、小児の後鼻孔ポリープ1例、成人の肥厚性鼻炎2例の鼻閉を改善することができたので報告する。
【症例1】
7歳 女児
初診日 2002年7月23日
主訴 鼻閉、膿性鼻汁、無呼吸
現病歴 2002年5月ごろから、膿性鼻汁、鼻閉、いびき、無呼吸が強くなってきたため、近くの耳鼻咽喉科を受診、アレルギー性鼻炎の診断のもとにフマル酸エメダスチン(抗アレルギー剤)およびプロピオン酸ベクロメタゾン(ステロイド点鼻薬)およびネブライザー治療を受けていた。症状軽快がみられないため当科を受診した。
初診時所見
前鼻鏡所見:
右鼻腔に多量の膿性鼻汁および後鼻孔ポリープを認めた。
レントゲン所見:
1.頭部側面
後鼻孔ポリープをみとめた。(図1)
2.頭部正面(PA,Waters)
両上顎洞、両篩骨洞に強い陰影を認めた。
CT所見:
両上顎洞、両篩骨洞に強い陰影および右後鼻孔に巨大なポリープを認めた。(図2)
血液検査:
Hemogram
WBC 4200 (Eos 1.9%)
アレルギー検査:
IgE (FEIA) 18 (正常170以下)
特異的IgE
H6 ハウスダスト6 (0) 0.20未満
D2 コナヒョウヒダニ (0) 0.20未満
G3 かもがや (0) 0.20未満
W1 ぶたくさ (0) 0.20未満
T17 すぎ (0) 0.20未満
鼻中好酸球 (-)
経過
初診日から、プランルカスト水和物225mg 2xの内服およびプロピオン酸フルチカゾン点鼻薬、硝酸ナファゾリン点鼻液で治療開始した。なお副鼻腔炎の急性増悪期にはセフジトレンピボキシル300mg投与した。2002年8月14日、鼻汁の減少および、無呼吸の軽快も認めた。2003年3月まで投薬を続けていたところ、単純XPにてポリープの消失をみた(図3)ため、CTで確認したところ、後鼻孔ポリープの大部分の消失を認めた(図4)。その後、経過を見ているが、2004年3月30日時点でポリープの再発を認めていない。
【症例2】
40歳 女性
初診日2002年10月30日
主訴 鼻閉、無呼吸
現病歴 4−5年前から、鼻閉で、近くの耳鼻咽喉科で治療をうけていたが、2002年9月ごろから鼻閉症状に伴い、いびき、無呼吸が増強してきて、睡眠障害が強くなったため当科を受診した。
初診時所見
前鼻鏡所見 両下甲介腫脹、鼻汁なし。
レントゲン所見:
頭部正面(PA,Waters)下甲介腫脹を認めたが、副鼻腔陰影なし。
MRI所見
下甲介の腫張を認めたが、副鼻腔陰影なし。 (図5)
血液検査:
Hemogram
WBC 4300 (Eosino 0.9%)
アレルギー検査:
IgE (FEIA) 22 (正常170以下)
特異的IgE
H6 ハウスダスト6 (0) 0.20未満
D2 コナヒョウヒダニ (0) 0.20未満
G3 かもがや (0) 0.20未満
W1 ぶたくさ (0) 0.20未満
T17 すぎ (0) 0.20未満
鼻中好酸球 (-)
経過
2002年10月30日から、プランルカスト水和物450mg 2x内服およびプロピオン酸フルチカゾン点鼻薬の投与を開始した。下鼻甲介切除予定だったが、投薬して経過みていたところMRI上、軽減がみられ手術を中止した。(図6)
【症例3】
27歳 男性
初診日 2002年8月22日
主訴 睡眠時無呼吸、鼻閉
現病歴
5年ぐらい前から睡眠時無呼吸があり、2002年8月ごろ、某公立病院で睡眠時無呼吸検査をうけ、無呼吸性呼吸指数(53.6 正常 5-10以下)で、閉塞性SASと診断のもとに、nasal CPAPを予定であった。耳鼻咽喉科疾患除外目的にて紹介受診した。
初診時所見
鼻所見:両下鼻甲介腫脹 分泌液なし
咽頭所見:口蓋扁桃;軽度腫大
鼻副鼻腔X線検査: 陰影なし
鼻腔通気度検査: 測定不能 (図7)
原因としてのアレルギーの診断
鼻鏡検査
下鼻甲介粘膜の浮腫 3+
下鼻甲介粘膜の色調 2+
水性分泌量 -
鼻汁の性状 -
アレルギー性の診断
鼻汁好酸球 2+
血液好酸球 3.4%
白血球数 5600
血液中総IgE (FEIA) 173 U/ml
アレルギー性鼻炎症状の重症度と病型分類
鼻閉型:最重症
鼻アレルギー診療ガイドライン
改訂第3版(1999)および2002年版参照
原因抗原の検査
特異的IgE抗体定量
H6(ハウスダスト6) score 3
D2(コナヒョウヒダニ) score 3
G3(かもがや) score 0
W1(ぶたくさ) score 0
T17(すぎ) score 0
経過
アレルギー性鼻炎の治療に、プランルカスト水和物450mg 2×の内服、及び、プロピオン酸フルチカゾン、硝酸ナファゾリンの点鼻を開始し、経過観察したところ、1週間後には呼吸障害の改善をみた
2002年8月29日 (1週後)
呼気90.88% 吸気 77.31%(図8,9)
無呼吸性呼吸指数:1.2
【考察】
LTC4,D4は、肥満細胞、好酸球などから産生され、鼻粘膜の血管系に作用し、鼻閉の成立に関与している。特に、鼻茸の再発例では、LTC4産生が高値である3)。また、鼻汁中のLTC4,D4は、アレルギー性鼻炎のみならず、非アレルギー性鼻炎患者でも上昇することがあるとも報告されている。4) 小児副鼻腔炎に対してのメキタジン投与症例5)、アレルギー性鼻副鼻腔炎に対してのアゼラスチン投与症例6)における症状の改善は、抗ロイコトリエン作用、ロイコトリエン産生抑制作用によるものと考えられる。今回投与したCys-LT 受容体の拮抗薬であるプランルカスト水和物は、抗原誘発時の鼻粘膜腫脹に対する効果、およびそれに伴う鼻閉の軽減が確認されている7)。一方、局所ステロイド薬であるプロピオン酸フルチカゾンは、高濃度のステロイド分子の鼻粘膜からの吸収で、抗炎症作用による局所効果を発揮し、特に鼻閉に有効である8)。局所ステロイドの鼻茸に対する作用としては、鼻茸が消失したという報告はないが、炎症細胞に対する作用では、好酸球、肥満細胞、樹状細胞の数を減少させ、T細胞やマクロファージのサイトカイン産生を抑制する構成細胞に対しては、上皮細胞からのサイトカインやケミカルメディエーター遊離を抑え、粘液腺からの粘液分泌や血管内皮細胞の透過性を抑制することが知られている9)。また、プロピオン酸フルチカゾンの小児に対しての安全性に関しては、生物学的利用率が1%未満となっており、BDP,FLUと比しても全身的副作用は少ないといわれている10)。第一症例は、巨大なポリープによる鼻閉で、鼻汁好酸球検査や各種IgE検査などが陰性であり、非アレルギー性と考えられる。第二症例も、鼻汁好酸球検査や各種IgE検査などが陰性であり、これも非アレルギー性と考えられる。第三症例は、鼻汁好酸球検査や各種IgE検査などが陽性であり、アレルギー性と考えられる。今回報告したように、LT受容体拮抗薬の非アレルギー性鼻炎に対する効果は、十分検討されてないが、プランルカスト、および、プロピオン酸フルチカゾンを併用投与することで、アレルギー性の肥厚性鼻炎以外にも、非アレルギー性の肥厚性鼻炎、巨大後鼻孔ポリープ症例に対しても有効であった。
【文献】
1)室田誠逸:ロイコトリエンの生物活性と薬理作用.医学のあゆみ 143(5),1987.
2)寺田修久 他:鼻アレルギーとロイコトリエン(第1報).日耳鼻 90:1196-1207,1987.
3)増山敬祐:難治性副鼻腔炎に対する薬物治療の適応と限界.日鼻誌 38:177-179,1999.
4) Knani,J.et al:Indirect evidence of nasal inflammation assessed by titiration of inflammatory mediators and enumeration of cells in nasal secretions of patients with chronic rhinitis.J.Allergy Clin.Immunol. 90:880-889,1992.
5) 神崎順徳:小児慢性副鼻腔炎に対するメキタジン併用による治療効果:新薬と臨床42:452-457,1993.
6) 高木一平,他:アレルギー鼻副鼻腔炎に対する塩酸アゼラスチン(アゼプチン)の臨床評価.耳鼻臨床 補 52:80-88,1991.
7)今野昭義:アレルギー性鼻炎とケミカルメディエーター アレルギー科 9:308-318, 2000.
8)Lilddholdt T,et al:Glucocorticoid Treatment for Nasal Polyps-The use of Topical Budesonide Power,Intramuscular Betamethasone,and Surgical Treatment-. Arch Otolaryngol Head Neck Surg 123:595-600,1997.
9)臼井信郎:鼻・副鼻腔 血管運動性鼻炎、好酸球性鼻炎 JHHNS 16:1402-1403,2000.
10)David B. Allen :Systemic effects of intranasal steroids:An endocrinologist’s perspective J Allergy Clin Immunol,106(4):179-190,2000.