1.概要
秋葉原で、USBオーディオモジュールのアウトレット品が格安で大量に出回っていたので、だまされたと思って買ってみました。いろいろ調べてみると、どうもこの基板、アップルコンピューター製でオプションのUSBスピーカーの中に実装されるものだったようですが、製品として使えないことが判り、、大量にマニア向け市場に流れたもののようです。
このモジュール、大きく分けて二つのICからなっており、
ひとつは、
●Micronas製 USB DAC の UAC3552A
(注)USB = Universal Serial Bus
(注)DAC = Digital to Analog Converter
もうひとつは、
●Tripath製 デジタルオーディオアンプ TA1101B
です。
UAC3552Aは基板の裏面に、



TA1101Bは基板の表面に実装されています。



世界的に著名な企業が、製品として使えないと判定したものですから、当然そのまま使用するには、アマチュア用としても問題があると思わなければなりません(それでなければ、格安で手に入るわけないですものね・・・)。何が問題なのかはさておき、このモジュールを有効利用する方法を考えてみました。

例えば、
●USB接続ヘッドフォーンアンプ・・・D級パワーアンプは使わない
●超小型10Wデジタルオーディオアンプ・・・DACは使わない
(注)DACは5V、デジタルオーディオアンプは12Vの単電源動作です。

この程度のものであれば、わずかの部品の追加で改造ができそうです。

2.USB接続ヘッドフォーンアンプ
2.1 基板の基本的な改造
この基板の電源部は、Hi−Fiオーディオアンプ用とは思えないような性能なので、動作しないようにしておいて、電源は外部から供給することにします。
この電源部の回路図を図-1に示します。


   図−1 電源部の回路図

電源のパワーは、電源入力(+5V)からC40、C44とL11で構成されるコモンモードフィルタを通って入力コンデンサC25、C26に供給され、L5、Q1、D5、C28、C48で構成されるチョッパタイプのブーストコンバーターで+12Vに昇圧される設計です。この回路で、+5Vを+12Vに昇圧するには、昇圧比が2.4にもなり、Q1のオンデューティを約58%としなければなりません(これはハイパワー用としては結構厳しい値です)。このことは、言い換えれば、出力が不連続な期間がデューティにして約58%もあるということですから、かなりの容量を出力につけないとリップルとノイズが多くて使いものにならないと思われますし、回路抵抗を下げないと重負荷で+12Vを維持することは困難と思われます。そして、なぜかこのリップルが多いと思われる+12V出力から三端子レギュレータを使って、また+5Vを生成しています。
改造版のここの設計は、必要な+5Vと+12Vを外部から供給することとし、もともとの電源入力(+5V)には何も接続しないようにします(この処置だけでノイズ源であるブーストコンバーターが止まります)。12Vと5Vを別々に供給するために、VR1の足をニッパで切断し半田鏝で取り除きます・・・他の部品は、二次災害を避けるためそのままにしておきます(私はR6を取っ払いましたが、自信のない人は取らない方が無難です)。+5Vと+12Vの電源供給方法を図−2に示します。

   図−2 改造版の電源供給方法

ブーストコンバーターを止めて、外部電源から+5V(私は、USB I/Fから供給される+5Vを使いました)をDACであるUAC3552Aに供給します。デジタルの信号は、もともとの端子に接続します。これだけで、パソコン(Windows XP)がUAC3552AをUSB複合デバイス及びUSBヒューマンインターフェイスデバイスとして認識します。




以上の改造で、パソコン内の音源のデジタル信号をUSB端子から取り出し、デジタル−アナログ変換をしてUAC3552Aに内蔵されているアンプ(これは電子ボリュームのようです)を通してヘッドフォーンで高音質に聞くことが出来ます。







しかしここで、問題が・・・
このICの出力のアンプのゲインがやや低く、パソコン画面に表示されるボリュームコントロールの音量を最大にして、やっと適量かなと思われる程度の音量しかありません。このままでは、普通のヘッドフォーンをドライブするヘッドフォーンアンプとしてはやや力不足の感があります。

2.2 ポストアンプの設計
IC内蔵の出力アンプのゲイン不足を補うために、出力にさらに10dB程度のポストアンプを外付けすることにします。この種の目的を満たすアンプとしては、オーディオ用の低雑音・高出力電流オペアンプが適しており、新日本無線のNJM4580あたりが使えそうです。
NJM4580の数学モデルを新日本無線のデータシートから作成しました。
PSPICEにおいて、特別に提供されているアナログ・ビへービア・モデル(analog behavioral model)を使えば、結構、簡単に周波数特性を模擬するモデルが作れます。
このモデルの入出力伝達特性の利得・位相の周波数特性を測定するための数学モデルを図ー3に示します。

   図−3 NJM4580数学モデルと利得・位相の周波数特性測定回路

NJM4580の裸の利得・位相の周波数特性を図ー4に示します。



   図−4 利得・位相の周波数特性

NJM4580の裸の特性から、利得のクロスオーバー周波数は約10MHzで、その周波数における位相は20度(ー180度に対して・・・図ー4の測定値は180度移相させてある)しかありません。このことは、NJM4580を用いて、負帰還アンプを構成すると10MHz近傍で不安定(特に、負荷が容量性であると、位相が更に廻って発振する)になることを示しており、回路設計上注意が必要です。
そこで、シミュレーターを使って特性を最適化しました。先に作ったNJM4580のモデルを用いて階層設計(hierarchy design)の手法を用いてポストアンプの数学モデルを作りました。ポストアンプの数学モデルを図ー5に示します。

(注)schematic1が下層のモデルブロックで、中身は図ー3の回路(V1とR5を除く)

   図ー5 ポストアンプの数学モデル

シミュレーション解析によりパラメーターを振って、回路定数を最適化しました。シミュレーション解析結果より、周波数帯域は10Hzから100kHzが確保されているのが分かります。ちなみに、C2が低域のロールオフ周波数を、C1とR3が高域のロールオフ周波数を決めています。特に、R3はループゲインが低い周波数領域で効いてきて、位相を戻す効果があります。図ー6にポストアンプの伝達特性を示します。



   図ー6 ポストアンプの伝達特性

次に、負帰還ループのボーデ線図を求めてみます。
ボーデ線図を求めるための数学モデルを図ー7に示します。


   図ー7 負帰還ループのボーデ線図を求めるための数学モデル

この回路の負帰還ループの利得と位相の周波数特性は、図ー8のような特性をしています。



図ー8 負帰還ループのボーデ線図

もともと位相余裕がほとんどなかったのに、100度前後の位相余裕が確保されていることが解ります。実機では部品のばらつきや部品の配置、配線の影響もあるので、CFは高周波特性の良いコンデンサを必ず付ける必要があります。また、ROUTは負荷短絡保護や系の安定性確保から必ず必要です。

(注)位相余裕=負帰還の閉ループの開ループゲイン(利得)がゼロになる周波数における入力信号と出力信号の位相差。位相差が約40度以下であれば、閉ループの系は不安定、約40度以上であれば安定とされています。設計上は、温度変化や経年変化を見込んで、60度以上あれば安定で、発振しないと思って良い。
(参考文献)
SPICEによるシミュレーター新活用法 岡村迪夫 著 1991年CQ出版社発行
SPICEによるOPアンプ回路の設計  岡村迪夫 著 1993年CQ出版社発行

2.3電源周りの設計
このヘッドフォーンアンプ、最初は、ノイズの観点から+5Vの単電源動作を考えたのですが、最近チャージポンプによる電圧極性反転回路がICで格安に入手できることから、+/−電源動作としてみました。電源周りの回路図を図ー9に示します。



図ー9 電源周りの回路図

この電源回路、簡単そうですが、心して取りかからないと、後でとんでもないことになります。C1とC2はUAC3552Aの近くに実装します。C3とC4,C5はLT1054の直近に実装し、C3とC5とLT1054のリターンは一点アースで接地します。C6、C7はNJM4580の直近に実装し、リターンは負荷(ヘッドフォーン)のリターンと直に繋がるように結線します。LT1054自体の入力電流は約25KHzの矩形波です。この電流の絶対値は小さいのですが、矩形波のため電流変化率は大きく、この電流を電源ラインに流してしまうと、ヘッドフォンアンプのノイズレベルが上がってしまいます。電源ラインのデカップリング用の10Ωの抵抗は効果絶大で電流がスムージングされます。C1、C3、C4、C5は固体タンタルコンデンサ、C2は高周波特性の良い磁器コンデンサ、C6、C7は等価直列抵抗の小さい音響用の電解コンデンサを使います。

2.4USBオーディオモジュール基板とポストアンプのI/F設計
USBオーディオモジュール基板のUSB DACの回路図を図ー10に示します。出力に入っている47uFの電解コンデンサを取り除き、代わりに100uFの音響用の電解コンデンサを取り付けます。その後ろに、ハードライン上にマニュアルのボリュームを付け、ソフトウェアによるディジタルボリュームとは独立にボリュームのつまみによって音量が調整できるようにします。また、ヘッドフォーン出力とは別に、D級オーディオアンプや真空管アンプをドライブできるよう出力インピーダンス600Ωのオーディオ出力をRCA端子を介して出力するようにしました。USB DAC周りの改造後の回路図を図ー11に示します。



図ー10 USB DACの回路図


(注)赤字の部分が改造箇所

図ー11 改造後の回路図

改造部分のほとんどを追加基板に収納しました。追加基板の実装状態を次に示します。



3.まとめ
完成したUSB接続ヘッドフォーンアンプを次の写真に示します。



無音時のヘッドフォーンアンプは静かそのもので、デジタルオーディオ信号を入力すると、音源のノイズそのものがはっきり聞こえます。パソコンのオーディオ出力から聴く音と比較しましたが、比べものにならないぐらい高音質に改善されています。!!お試しあれ!!
また、どうせなら、パソコンの脇に置いて格好良く音楽を聴きたいものです。そこで、タカチ電機工業が出している結構格好の良いMXシリーズのケースに基板を全部入れてみました。