このページにはオフィスライフを巡る悲喜こもごもの感想を収録しました

過ぎたるは無きに等し
 
 これはあるコンピュータセンターの入退室セキュリティシステムについての実話である。二重扉方式で、しかもブラジャーの形状記憶合金にまで反応する程感度の良い金属探知機があるため、勤務している職員ですら屡々ひっかかる。このため出入りの激しい昼食時にはシステムを解除してフリー通行にしていた。部屋の中が手薄になる肝心な時にセキュリティが働いていないという有様。
 煙探知機の感度が良すぎて誤作動が多いのでスイッチを切っているところに火災が発生して大惨事になった旅館とか、侵入探知センサーが落葉や雪に反応して警報が鳴るので切りっぱなしにしておいたら放火されたお寺など、類似の例は枚挙に暇が無い。
 国の公金の支出手続きは、公金である以上、不正防止のチェック機能が働く厳格なものでなければならないことは当然である。しかし多くの国立大学関係者が指摘するのは、国がモノやサービスの購入を確認してからでなければ支払えない、クレジットカードが使えない等このIT時代の手続きとしては時代遅れの点が多々ある。例えばインターネットを使ってアマゾンで洋書を購入しようとしてもクレジットカードが使えないので支払ができないとか、外国人を招聘する場合、滞在費の支払がひどく遅れ、甚だしきは滞在中に支払われないというように不便極まりない由。
 このように現実離れした手続を要求すると、結局脱法行為的な便法がまかり通ることになる。一旦便法の世界に染まると今度は最低限のチェック機能すら働かなくなるので、不正の温床となりやすい。外国での支出などクレジットカードでの支払が一般的なのに、公金についてこれが認められていないからといって、便法として個人口座を使用するようなことになると、公私混同が生じ易くなる。
 公務員倫理法の運用についても非現実的に厳格な基準を設けると、却って脱法行為が横行し、立法の精神が失われる恐れがある。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」どころか「過ぎたるは無きに等し」であり、何事につけても守れない規制は無いより悪い。(金融ファクシミリ新聞「点鐘」2001年3月1日)

「只今打合せ中」

 いつ頃広まったのかは定かではないが、オフィスに電話をかけてみると目指す相手が出ず、電話をとった若い人から「○○は只今打合せ中です」と応対され、ちょっとひっかかる思いをすることがチョクチョクある。「席をはずしております」なら問題無いし、「別室で会議中」でも判るのだが、「打合せ中」といわれると、「居ることは居るが、身内同士で話をしている。そちらの方が大事だからお前の電話には出られない」というニュアンスに聞こえ、気分を害する。今の若い人が日本語を知らないと嘆くありきたりの一例になるのかもしれないが、それにしては官民、業種を問わず、客商売までも含め余りに一般的なので、ひょっとして最近のオフィスマナーのマニュアルでそう教えているのかと勘ぐりたくなるほどである。
 あらたまっていうまでもなく電話の最初の応対はその会社なり役所なりの顔である。誰が出るにしても、最低限失礼の無い応接ができる様日頃から教育しておくことが社会の組織としてのマナーであろう。もっとも、そこのお偉いさんが、自分が明確に圧倒的上位にあるわけでもない相手に電話をかけるのに、秘書や交換手に相手を呼び出させておいてから、おもむろに代わるという非礼を平気で繰り返している様な組織では、オフィスマナーの教育も何もあったものではなかろうが。(金融ファクシミリ新聞「点鐘」2003年1月30日)


便利さの落し穴
 携帯電話の普及前、子供の長いお話中に悩まされていた企業戦士のお父さんとその会社にとって、キャッチホンは「こんなものがあればいいな」という夢の実現の感があった。ところがいざ入れてみると、安心して長電話され、電話代が増えるという予想通りの結果に加え、思いがけない重大な欠陥が判った。
 ある深夜、極めて大切な仕事で大長老と深刻な電話をしていた。通話中に何度も別な電話のシグナル音が聞こえるのだが、相手が偉いので、待って貰って新しい電話に応対する訳にいかない。普通の電話ならプープーと鳴って話中であることが分かるのに、キャッチホンなるが故に、呼出音が鳴っているのに出ない、留守だと諦められて、緊急な連絡を受け損ない、対応が後手に回ってしまった。
 この経験で、昔の職場の夜間直通電話を巡るウラミツラミを思い出した。往時の夜間直通はその番号が話中だと次の番号に流れる仕掛けになっていた。次の番号が留守だと、目指す部署が留守だと誤解し、仕事が進まない。もっと厄介なのは、内線相互は生きていて、一部の内線電話が夜間直通に切り替った時だ。その内線番号にダイアルすると受ける側のベルは鳴らないのに、掛けた側には呼出音が鳴っている様に聞こえる。このことを知っていた人はごく少なく、別室の上司が掛けてきて誰も出ないので皆退社と誤解、こっぴどく叱られ、説明しても信じて貰えなかった。便利になればなったでメカに強くなっておかないと思わぬ行違いが生ずるという教訓。(金融ファクシミリ新聞「点鐘」2003年5月2日)