浦内川に生息する希少汽水・淡水魚類と開発に伴う問題点
 
               鈴木寿之
(兵庫県立尼崎北高校教諭、日本魚類学会自然保護委員会・希少淡水魚問題検討部会委員)
 
絶滅のおそれのある汽水・淡水魚類
 平成11年2月18日に旧環境庁から公表された汽水・淡水魚類のレッドリストによれば絶滅のおそれの
ある種(絶滅危惧T類およびU類)として76種が揚げられている(環境庁, 1999)。このうち、浦内川
には14種が生息する(本流に12種、浦内部落内を流れる細流に2種)。1河川にこれほど多くの絶滅危
惧種が生息する河川は、全国的に知られていない(鈴木未発表)。
 
絶滅危惧TA類(全29種)
●ウラウチフエダイ(渓流域に生息)
●コマチハゼ(マングローブ林に生息)
●コンジキハゼ(マングローブ林に生息)
●アゴヒゲハゼ(マングローブ林に生息)
 
絶滅危惧TB類(全29種)
●ニセシマイサキ(渓流域に生息)
●ヨコシマイサキ(渓流域に生息)
●シミズシマシサキ(渓流域に生息)
●ツバサハゼ(渓流域に生息)
●タメトモハゼ(湿地や細流に生息)(浦内部落内を流れる細流に生息する)
●タナゴモドキ(湿地や細流に生息)(浦内部落内を流れる細流に生息する)
●キバラヨシノボリ(渓流域に生息)
●ルリボウズハゼ(渓流域に生息)
 
絶滅危惧U類(全18種)
●ナガレフウライボラ(渓流域に生息)
●ジャノメハゼ(マングローブ林に生息)
 
 これら14種のうち、キバラヨシノボリをのぞく13種は、いずれも通し回遊魚と呼ばれ、仔稚魚の時期を
海から汽水域で過ごす(川那部ほか編・監修, 2001)。すなわち、月が浜から浦内川河口域を重要な生育場
所としている。 また、近年、波打ち際(砕波帯)が仔稚魚にとって特に大切な生育場所となっていることが
分かってきている。(千田ほか編著, 2001)
 
その他の希少種
浦内川で採集された未記載種(新種)
●ヘビギンポ属の1種(月が浜や浦内川河口域に生息)(渋川・鈴木未発表)
●オオメワラスボ科の1種(属は日本初のもの)(浦内川河口域に生息)(鈴木未発表)
●クモハゼ属の1種(通称カワクモハゼ)(浦内川河口域に生息)(明仁ほか, 2000)
●ニラミハゼ属の1種(渋川・鈴木, 2001)(浦内川河口域に生息)
●イソハゼ属の1種(月が浜や浦内川河口域に生息)(瀬能・矢野私信)
 
日本では浦内川でしか確認されていない種類
●アカメ属の1種(鈴木ほか, 1995)
●アトクギス(月が浜や浦内川河口域に生息)(鈴木ほか, 2001)
●ナミダカワウツボ(浦内川河口域に生息)(波戸岡ほか, 1992)
●ボラ科の1種(属は日本初のもの)(渓流域に生息)(瀬能私信)
●イトヒキハゼ属の1種(浦内川河口域に生息)(矢野私信)
●オグロオトメエイ(浦内川河口域に生息)(吉郷・吉野, 1999)
●イソギンポ属の1種(浦内川河口に生息)(鈴木・細川未発表)
●ゼブラアナゴ(月が浜に生息)(益田ほか編, 1988)
 
開発に伴う問題点
●浦内地内に生息する絶滅危惧種のタナゴモドキやタメトモハゼ
  埋め立てによる生息地の消失に伴う小個体群の絶滅のおそれがある。あるいは、河口や護岸の整備
(コンクリート化や埋没管)による生息環境に対する悪影響が懸念され、激減が予想される。
●絶滅危惧種の仔稚魚
 工事の際の土砂、海浜のコンクリート護岸化、施設からの大量の汚水排出などにより、周辺海域や
河口域が汚染され、激減が予想される。ユツン川では、橋梁掛け替えと護岸工事により、汽水・淡水魚
がほとんど姿を消してしまった。このことからも、容易に悪影響は予想できる。
●月が浜や浦内川河口域で採集・確認された希少種
  工事の際の土砂、海浜のコンクリート護岸化、施設からの大量の汚水排出などにより、周辺海域や河
口域が汚染され、絶滅が予想される。
●他の河川に生息する絶滅危惧種
 大型リゾートが整備されると、多量の上水が必要となり、新たな水源の開発が不可欠となる。石垣島の
荒川では、取水による減水によりアカボウズハゼ、ヨロイボウズハゼ、ツバサハゼなどの絶滅危惧種がほ
とんどいなくなった(皇居内生物学御研究所 池田祐二氏私信)。西表島のほとんどの河川には何らかの
絶滅危惧種が生息しており、取水のよる減水により、当該河川からのこれらの絶滅が予想される。
 
 
参考・引用文献
明仁・坂本勝一・池田祐二・岩田明久. 2000. ハゼ亜目. Pages 1139-1310, 1606-1628in中坊徹次編. 
日本産魚類検索: 全種の同定. 第二版. 東海大学出版会,  東京.
波戸岡清峰・瀬能 宏・藍澤正宏, 1992. 日本およびフィジーより初記録のナミダカワウツボ(新称).
 IOP Diving News, 3(4): 2-3.
川那部浩哉・水野信彦・細谷和海編・監修, 2001. 改訂版日本の淡水魚. 720pp. 山と渓谷社, 東京.
環境庁, 1999. 汽水・淡水魚類のレッドリストの見直しについて.http://www.eic.or.jp/eanet/.
千田哲資・南 卓志・木下 泉編著, 2001. 稚魚の自然史. 303pp. 北海道大学図書刊行会, 札幌.
渋川浩一・鈴木寿之, 2001. 西表島で採集されたニラミハゼ属の1未記載種. 2001年度日本魚類学会年会講演要旨.
鈴木寿之・細川正富・瀬能 宏, 1995. アカメ属の1種. IOP Diving News, 6(12):1
鈴木寿之・瀬能 宏・細川正富, 2001. 西表島で採集された日本初記録のアトクギス. IOP Diving News, 12(2): 2-4.

Back