今年の稲を再確認


今年の松阪の気候は、田植えから稲刈りまでの全期間を通じて高温で推移し、乾燥した
条件でした。
また、7月下旬の台風7号の影響を受けた圃場も多く、収穫量は平年並みながら、品質に
やや難がある年でした。


今年の稲作を反省し、いくつかの切り口からその生育を検証してみたいと思います。




作型別の生育パターン


全ての型で種まきから収穫までの期間が140日前後となり、平年に比べて10日以上前傾しました。
これは、全期間を通じて高温・多照であった事が原因であると思われます。

慣行コシヒカリとへの字コシヒカリの生育の違いは顕著に現れました。
最大の違いは、への字の田植えが慣行稲に比べ半月遅かったにもかかわらず出穂は逆にやや早く、
収穫までの登熟期間が長かった。 ということです。

つまり、への字稲は生育中期のラグ期が無く効率的な生育をした。 ということと共に、長い登熟期間中
も秋落ちせず、穂を実らせ続けた。 ということでしょう。

への字に取り組む場合、この、生育期間の慣行栽培との違いを違いを理解する必要があります。
(慣行稲よりも早く45日前になります。追肥のタイミングを外さないよう葉の状態を観察します。)





次に、刈り取り時の状態を見て、各作型の特徴を捉えてみます。
                       
写真はclickで拡大できます。

慣行稲(全面倒伏) 元肥一発(部分倒伏) への字稲(なびき)
 坪60株X5本植え
 N=元肥4Kg 穂肥4Kg

 坪60株X5本植え
 N=元肥6Kg 穂肥---

 坪40株X2本植え
 N=元肥--- 中間肥4Kg


上の写真の圃場から取り出した1株です。

 ○慣行稲 ・・・
   株が細い割にやや多けつ。
   第1節の位置が高く自立できない。

 ○元肥一発・・・
   慣行稲とへの字稲の中間的な
   外形。 背が高く、大きく湾曲する。

 ○への字稲・・・
   株の太さの割には背が低い。
   一株でも自立している。




そして、上の株から平均的な穂を1本取り出します。

 ○左から順に、穂重型 ⇒ 穂数(短幹)型の
  品種を並べてみました。

 ○慣行・一発共によく似た草姿をしています。
  伸長節間、特に3節から5節までの下位節間
  がよく伸び、第1節が高い位置にあることが
  判ります。 これが倒伏の原因です。

 ○への字コシはこれらに比べ、第1節までの
  伸長節、特に挫折倒伏の最大の原因となる
  3〜5節間が短く、第1節の位置が低い(腰
  が低い)ことが判ります。
  分けつで穂数を稼ぐへの字の場合、この4・
  5節間が無い茎が多くなります。
  

 ○への字稲は第1節(止め葉の着葉位置)か
  ら上部が発達しており、穂首が太く、穂も大
  きいのが特徴です。

 ○また、最下位節間の軸の太さも どんとこい
  8mm ・キヌヒカリ7mm ・への字コシ5mm
  ・一発コシ3.8mm ・慣行コシ2.8mmと
  なっており、右の品種ほど耐倒伏性・多収性
  に優れているといえます。



上の株から穂だけを抜き取って集めました。

 ○1株当りの穂数は、慣行稲30本、一発稲
   28本、への字稲30本とほぼ同数でした。

 ○これを坪当たりの茎数に直すと、
  慣行稲 30X60株=1800本
  一発稲 28X60株=1680本
  への字 30X40株=1200本 となり、
  への字コシ以外は完全な茎数過多と言えます。
  (伊勢平野でのコシヒカリの有効穂数は1000
  〜1200本といわれています)
 
 ○また、写真に見るように1株当りの籾の量、
  着粒数もへの字が最大になっています。



さらに分類し、着粒数が多く登熟率も高い大きな穂と未熟米が多い小さな穂に別けます。


   慣行稲


 比較的良質の70粒以上着粒した穂と、未熟
 米が多い小さな穂が半々に混じっており、背
 丈のバラツキが大きい2段穂になっています。
 

   元肥一発


 全体に背丈は揃っているものの、未熟米や
 シイナが多く含まれる小さな穂が主体となって
 います。

 慣行稲、一発稲共に、面積当りの穂数過多
 が影響し登熟率が低く、品質悪化の原因に
 なりました。

 当地域全体の平成17年度の一等米比率は
 40%前後と思われます。

   への字稲


 他の型の稲同様、1株当り30本の穂が立ち
 ましたが、全体的に大きめで揃いも良い状態 
 です。

 着粒数が少なく未熟米が多い小さな穂は
 ほとんどありません。

 今年の我が家のコシヒカリは全量1等で、収量
 も反当10俵(600Kg)前後でした。





圃場の刈り跡

田んぼに残された刈り株からも生育の様子がうかがえます。

慣行稲 元肥一発 への字稲

植え付け株数は左から 70株・50株・40株 です。
70株植えの圃場は分けつも少なく茎も細いため貧弱に見えます。
40株植えは、1株当り25〜30本に分けつしていますが茎1本が太く良く揃っています。



さらに一株をズームします。

左 70株植えの株は細く、茎数は15本で田植え時の4〜6本に対して3倍ほどにしか増えていません。

右 40株植えの株は太く、2本植えの苗が30本にまで分決しています。 また、遅い時期に出た分けつ
  茎が多いため、刈り株も生き生きと元気があります。





他品種との比較


3種類の品種の収穫期の姿を並べてみました。 全て同一距離からの撮影です。
                               写真はclickで拡大できます。

コシヒカリ キヌヒカリ どんとこい

○ 普通期コシヒカリは背丈が低い割に穂が大きく、地面に付くほど湾曲します。 他品種より穂の
  色がきたなく、赤っぽい色を呈します。
  植え付け株数40株X穂数30本で坪1200本が狙い目となります。

○ キヌヒカリは分けつ性が悪く穂も小さいので、他の品種よりは単位面積当たりの植え付け株数を
  多めにして(写真の圃場は50株植え)X25本=1200〜1300本を狙います。

○ どんとこいは分けつ性がよく徒長もしないので、坪45株X30〜40本=1500本前後が可能です。

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