作品
東京の空の下 6
6.
「・・・ヒカリちゃん、」
ずっと大輔君の顔を眺めていた私は、大輔君に呼ばれてハッと我に返った。
気が付いたら、ずっと大輔君の手に自分の手を重ねていたままだ。
「あっ、ご、ごめんないっ。」
真っ赤になって慌てて手を離した。大輔君は照れくさげに笑った。
なんだか私もおかしくなってきて、小さく、笑った。
「あ、やっと笑ってくれた。」
大輔君に云われて、嬉しさと、切なさと、恥かしさと、何だかそんな事が全部一緒くたになった気分になって、私は涙を零しながら笑った。
大輔君も、笑った。
二人で、くすくす笑いあったら、なんだか不思議な気分になった。
私は、ずっと、胸の中に固い小石を詰まらせていた気がする。
息が出来なくて、声を出せなくて、苦しくてたまらない、そんな気持ちで生きていた気がする。
だけど、今、その小石は甘い角砂糖に変化して、今やっと、溶けはじめてきたような気がする。
胸に痞えていた角砂糖が、ゆっくりゆっくり溶け出して、その優しい甘さが、からだ中いっぱいに広がっていく、そんな気分だった。
「やっぱり、ヒカリちゃんは、笑った方が可愛いや。」
「え?」
大輔君がそんな事を言い出すから、私は吃驚した。
「あ、えっと、」
大輔君も自分で云っておきながら自分の言葉に照れて頭をガシガシ掻いている。
「いや、でも、俺さ、ヒカリちゃんの笑った顔が好きだから、」「・・・。」
「・・・あ、」
私は顔から火が出そうなくらい、躰中が熱くなった。
大輔君の顔も真っ赤になっていた。
***
私は大輔君の横に立ってみる。
まだ照れている彼の横顔を見ていると、なんだか救われた気分になった。
「大輔君、有難う。」
「え?」
思わず口に出た私の感謝の言葉に、大輔君は、きょとんとした顔を向ける。
「私、大輔君がいなかったら、きっとこんな気持ちにはなれなかった。大輔君の存在が、私を救ってくれたのよ。だから、本当に、有難う・・・。」
しばらくじっと私を見ていた大輔君は、正面を向き直して、東京湾の景色を眺めるように遠くを見ながら云った。
「ヒカリちゃん、ヒカリちゃんは、俺がはじめてブイモンを進化させたときのこと覚えてる?」
「え?」
突然そのような事を聞かれて、今度は私がきょとんとしてしまった。
もう一年前のこと。
大輔君がはじめてデジタルワールドへ行ったときのこと。
「あの時、俺、何にも知らなくて、デジタルワールドの危機とか、ブイモンを進化させたいとか、そういう事全然思ってなかった。
ただ、あの時、ヒカリちゃんが足をくじいてピンチになった時、俺、ヒカリちゃんを助けたいって、それしか頭になかったんだよ。」
私は目を見開いた。
「だから、その時、ブイモンに云われて、デジメンタルアップって、叫んだんだ。その時、初めて、俺の勇気のデジメンタルが、反応したんだ。
・・・俺、あの時、初めて、太一さんの勇気を受け継いだんだ。」
どうしよう。
大輔君のその言葉は
とても優しくて、
とても嬉しくて、
私は嬉しさでまた泣き出してしまいそうになった。
でも私は必死で涙を堪えた。
大輔君が、私の笑った顔が好きだって云ってくれたから。
「ヒカリちゃんの存在が、俺を強くしてくれたんだ。」
大輔君は再び私のほうに顔を向けて、
にっこりと笑った。
「ヒカリちゃんの存在が、俺を救ってくれたんだよ。」
大輔君の頭の上のゴーグルが、朝日を受けて輝いていた。
私も、大輔君に向かって、にっこりと笑った。
DIGIMON ADVENTURE 02: Diaboromon Strikes Back
Under the sky in Tokyo
closed.
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無駄に長くて、ちょっと暗いお話になってしまいました。
後半を、「爽やかに前向きに」を心がけて書いたことが、唯一の救いでしょうか(^^ゞ
大輔とヒカリは、良くも悪くも太一さんの存在が強すぎて、それが心の枷になっていたような気がします。
勿論、彼らは太一さんへの想いと尊敬の気持ちを、これからもずっと抱き続けていくはずです。
けれどそれは今までとは違う愛情だと思うのです。
ヒカリの強さは、変化していくことの強さ。
大輔とヒカリの恋は、まだ「恋人」とは呼べない幼い恋です。
デジモンアドベンチャー02のストーリーは、彼らにとって、始まりの終わりに過ぎないのではないでしょうか。
大輔とヒカリは私にとって、最も幸せになって欲しいカップルです。
- 2005/03/27 (日)
- 『東京の空の下』
タグ:[大輔xヒカリ]