作品
東京の空の下 3
3.
***
「・・・ヒカリちゃん。俺さ、」
大輔君は少し俯いた。
彼の表情は、またいつもどおりに戻っていた。
けれど、彼のさっきの顔を見てしまった私は、もう、今までと同じ視線で大輔君を見る事が出来なくなってしまっていた。
「俺…、今回の闘いで、ディアボロモンに勝てた事、すげー嬉しかった。皆の力をあわせて、インペリアルドラモンが進化できたことも…。
だけど、だけど、俺――、
こんなこと云っちまったら、いけないのかも知れない。でも、本当のことだから云う。
…俺、ひとつだけ、たったひとつだけ、出来なかった事がある。俺、それが、すっげー悔しいんだ。」
私は大輔君の意外な発言に驚いた。
…この闘いですっきりしない複雑な気持ちを抱いていたのは、私だけではなかったのか。
しかも、一番喜んでいる筈の大輔君の口からそんな言葉を聞こうとは…
私は黙っていた。
大輔君はそんな私の顔を真正面から見据えて、云った。
「・・・俺、また、ヒカリちゃんのいる所へ行けなかった。」
私は思わず目を見開いた。
「いつも・・・いつもそうだ。俺、ヒカリちゃんの所へ行きたくても、いつもヒカリちゃんと離れちまう。
あの時だってそうだった… ヒカリちゃんが、暗黒の海に引寄せられた時だって… ヒカリちゃんを助けたいって思った時は、いつも、いつもそうだった…。」
そんな。
まさかそんな。
大輔君がそんな事をずっと想っていただなんて、私、全然気付かなかった…
「でも、」
何か。何か云わなければ。
「でも、大輔君、今回は京さんが開いたゲートをディアボロモンが利用して、ゲートを遮断してしまったから――」
「そういう事じゃないんだっ!!!」
私は言葉を失った。
大輔君がこんな風に激昂するのは初めてだった。
「・・・あ・・・。」
大輔君は、ハッと顔をあげて困ったような表情を見せた。
「・・・ごめん・・・。」
彼はぎゅっと拳を握りしめ、唇をかみしめていた。
肩が小刻みに震えていた。
「・・・大輔君、」
「ヒカリちゃん。ヒカリちゃんは、太一さんの所へ行きたかったんだろ?
最初に、太一さんとヤマトさんがネット界に行った時から… 太一さんを追いたいと思っていたんだろ?」
大輔君の瞳は綺麗だった。
お願い、そんな瞳で私を見ないで…
視界が歪んだ。
大輔君の顔の輪郭が、ぼんやりと霞んできた。
ヒカリちゃん。
ヒカリちゃんは、太一さんのことが。
言葉に出さなくても、大輔君が何を云いたいのか、私には解った。
大輔君の声が頭に響いてくる気がした。
太一さんのことが。
知られたくなかった。
こんな想いを知られたくなかった。
大輔君の純粋な瞳の中に、私の歪んだ醜い部分なんか、知られたくなかった。
何故。
何故。
何故大輔君に見られたくなかったのか
大輔君だから?
大輔君だから?
私は、私は、大輔君のことを…
はらりと、涙が頬を伝った。
私はいつの間にか泣いていた。
- 2003/03/27 (木)
- 『東京の空の下』
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