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スイート・デイズ 2

Stage Ⅱ ~ルキの場合~


「タカト、はい、これ。」

留姫はぶっきらぼうに、半ば強引に小さな包みを啓人に渡した。
渡した、と云うよりは、無理やり押し付けた、と云うほうが正確だったが。
啓人は勢いで受け取ってしまったそれをぽかんと不思議そうに眺めてから、ふと我に返り首を傾げた。

「ルキ、これ、何?」
「何って、今日はホワイトデーなんだから、お返しに決まってるでしょ。」
腕組をして、
何故か気合を入れて立っている留姫。眉を顰める啓人。

「えー、えー、なんでー?ホワイトデーって云ったら、バレンタインにチョコを貰った男の子が、相手の女の子にお返しを渡す日じゃないか!」
「…その言葉、先月のあんたにそのまま返したい…。」

ボソッと小声でツッコミを入れてから、留姫は組んでいた両手を腰に当てる。

「そーよ、でも先月タカトがアタシにチョコレートケーキを渡したりするから。お返しを渡すのが筋じゃないの。」
「…僕、お返しが目的だったわけじゃないよ。」

頬を赤く染めて膨れる啓人に留姫ははぁっと溜息を付いてから言葉を返した。

「そんな事解ってる。アタシはタカトに貰ったチョコが美味しかったからお礼がしたいと思っただけ。アタシがしたかったことなんだから黙って受け取りなさい。」

そう云われると啓人は云い返せない。
遠まわしな表現ではあるが、留姫が素直に嬉しいと云う気持ちを告げることは、過去の彼女の性格を考えると想像も出来ないことだ。
留姫はこう云う所、ちょっとだけ成長したと自分でも思っている。

「…ルキ、僕の作ったチョコレートケーキ、気にいってくれた?」
「悔しいくらい美味しかったわよ。」

今度は留姫が頬を膨らませる。
先月のバレンタインデー、自分が用意したチョコを啓人に渡す前に、啓人からチョコレートケーキを受け取ってしまったことがちょっと悔しかったのだ。
しかも、手作りだし。
啓人からチョコを貰ったのは嬉しいことではあったのだが、そのことが引っかかって素直に喜べなかったのも本音。
そんな事を根に持っている自分も恥かしいのではあるが、今回、ホワイトデーでは絶対に啓人より先に自分がお返しを渡すのだと留姫は心に決めていたのだ。

(少しくらいタカトもこの気持ちを思い知りなさいよね。)

留姫のささやかな仕返しは、思い通り啓人には「効いた」らしい。
啓人にもどうやら啓人なりに男としてのプライドがあるようだ。

「ホワイトデーなのになぁ…。」

とボソッと呟くその姿に留姫は可笑しくなって微笑んだ。

「いらないんなら返してくれてもいいんだけど。」

先月も同じこと云ったような、と何となく思う。

「え、ううん、貰うよ。折角留姫が僕にくれたんだもん!」

啓人は慌てて手にした包みを握りしめる。
淡いブルーの薄ペーパーを何枚か重ねて、紺のリボンで綺麗にラッピングされた手のひらサイズの包みだ。
啓人は包みと留姫の顔を交互に見比べながら、「中、見てもいい?」と聞いた。留姫は小さく頷いた。
リボンをほどいて、中にあるものを手に取った啓人は、さっきまでの複雑そうな顔を一瞬にして笑顔に変えた。

「わぁ…!すごい!ちっちゃいギルモンだぁ…!」

それはギルモンの姿をかたどったビーズで作ったブローチだった。
空にかざすと、組み合わさった赤いビーズが午後の陽の光を受けて輝いた。

「これ、ルキが作ったのッ?!」
「…そうよ。ちょっと難しくて、似てないかも知れないけど…。」
「そんなことないよ!ギルモン、すごくよく似てる。なんだかギルモンの声が聞こえてきそうだなぁ…。」

啓人はまじまじとそのブローチを食い入るように眺めている。
喜んでもらえた嬉しさと恥ずかしさで、留姫はむず痒い気持ちでいっぱいだった。

留姫は、ホワイトデーのお返しは絶対に手作りのものにしようと心に決めていた。
先程の渡すタイミングの時もそうだったが、バレンタインの啓人手作りチョコレートケーキがとても悔しかったのである。
だから、啓人に対抗してお返しは絶対手作りで返さなければ、と意気込んでいたのだ。
別に、対抗する必要もないのだが。
手作りのお返しを何にするか考えた時、お菓子類は避けようと思った。
手作りお菓子では啓人に絶対負けてしまう。
大体、タカトの家がパン屋さんなのがズルイ、と勝手な事を考える。
それは啓人の所為ではないし特に気にすることでもないかも知れないけれど。
留姫は根っからの負けず嫌いだった。
お菓子以外のもので、啓人が喜んでくれそうなものを考えた時、デジモン――啓人の大切な友達、ギルモンのことが一番に頭に浮かんだ。
そしてそれは――「デジモン」は、啓人と自分を繋いでくれた大切な絆でもあるような気がしたのだ。

ギルモンをモチーフにした何かを作ろう。

それを啓人に受け取ってもらいたかった。

そう考えていたときに、母親のルミ子からビーズアクセサリーはどうかと提案された。

「プレゼントだし、綺麗なものが良いじゃない?」

ルミ子はそう云って微笑んだ。
留姫は本来、手先が器用なので、このような工作は得意だった。ただ、「ビーズアクセサリー」と云うものは、「女の子が作るもの」という先入観があったので、今まで興味を持ったことはなかった。
だけど、カードゲームは男の子、ビーズアクセサリーは女の子がするもの、という区別をしていた自分は、男だから、女だからというしがらみに、一番こだわっていたのではないかと云う気がしてきた。
そういうこと、今まで気にしないと思っていたのに。
ちっぽけなことにこだわるのはやめよう。
そして今は、啓人に喜んで貰えるようなプレゼントを作ろう。
留姫は初めてこんな気持ちを覚えた。
初めて、こんな嬉しい気持ちになれた。
それが、とても幸せなことのように思えたのだ。


今、自分が作ったギルモンブローチを、とても嬉しそうな表情で空にかざしている啓人を見て、留姫は本当に良かったと思った。

「ルキ、有難う!これ、大切にするからね!」

笑顔一杯で留姫にそう云ってから、啓人はあ、と呟いて腕にかけていた紙袋のことを思い出した。

「そ、そそそうだ、これっ…。」

慌てて紙袋を留姫に差し出す啓人。

「僕も今日はこれを渡す為に来たのに…なんか、先越されちゃったら、渡し辛いなぁ…。」
「先月のアタシの気持ち、まさにそれだったんだけど。解ってもらえた?」

啓人はうー、と唸りながら顔を顰めつつ、解ったと云った。

「僕のお返し、ルキのに比べるとショボくて恥かしいんだけど…。」

そんなことないと留姫は思う。
袋の中からは既にいい匂いがしていて。
それはいつも行く松田ベーカリーの匂いを思い出す。
留姫はその匂いがとても好きだったから。

「あ…。これ、レナモン…?」

袋から出てきたのは、焼き色がとても綺麗なクッキーだ。
それも、留姫にとってはとても懐かしい顔――パートナーのレナモンの顔にデコレーションされたクッキーだ。
留姫は思わず、クスっと笑った。
啓人はそれを見て顔を真っ赤に染めて謝った。

「うー、ごめん。僕、ルキみたいに器用じゃないから、レナモンの顔、何か…変になっちゃって…。」

レナモンというよりは崩れかかったただのキツネのようではある。

「啓人が不器用なのは、前に旗に描いた絵を見てるから知ってるわよ。」

留姫は笑いを堪えながら相変らずの毒舌で返した。

「そんなに笑わなくてもいいじゃないかー!」

啓人はほっぺたを膨らませた。耳朶まで赤くなっている。

「…違うって…。レナモンが変だから、笑ってるんじゃないの。」

段々堪えきれなくなって、留姫はくつくつとお腹を押えて笑い出した。
留姫は、言葉では表現できないけれど、とても楽しい気分になっていた。
こんなに可笑しそうに笑うルキはとても珍しい。さっきまで怒っていた啓人は、笑いが止まらない留姫を訝しげに見つめて。
それから次第に、つられるようにして啓人も笑い出した。

留姫は啓人に、有難う、と云った。
偶然にも、二人ともデジモンをかたどったお返しになった。
それがなんだか嬉しかった。

公園のベンチに座って、二人でレナモンクッキーを食べた。
レナモンの耳の部分を齧って、レナモンの顔を食べたりして、レナモンに知られたら怒られちゃうかも、と心の中で思う。
その前に私はこんな顔じゃない、とレナモンは怒るかな?
クッキーはやっぱり美味しかった。啓人は不器用だけれど味のセンスは親譲りなのだ。
少し残して母と祖母の分を持って帰ることにした。松田ベーカリーファンの二人だから喜ぶだろう。



「ねぇ、タカト。」

帰り際、留姫は啓人に云った。

「何?」
余程気に入ったのか、ギルモンブローチを胸につけてニコニコしていた啓人は振り向いた。

「今度、アタシにチョコレートケーキとクッキーの作り方、教えてくれない?」

え、と啓人は首を傾げた。

「アタシだったら、不恰好じゃないチョコレートケーキや、もっとカッコイイレナモンクッキー作るけど。ギルモンクッキーだって作ってみたいと思う。だけど、お菓子作りに関しては、悔しいけどアタシよりタカトの方が上だってのは認めてるから。」

啓人は嬉しそうな顔で頷いた。

「うんっ!ルキ、今度うちおいでよ!うちなら材料もあるし、大きいオーブンもあるし、一緒に作ろうよ!!」

両手をぶんぶん動かして、タカトはそれが良いそうしようと何度も云った。
「僕が
下地を作って、ルキがデコレーションしたら、きっと完璧なチョコレートケーキや、デジモンクッキーが作れるね!」

そう云って、啓人は笑った。




ふたりは交差点に差し掛かった。
丁度、いつもここで別れる場所なのだ。

「じゃあね、ルキ。今日は有難う!」
「アタシも。有難う。」

いつもは、留姫が横断歩道を渡って、それを啓人が見送るのだが、信号が青になっても留姫が渡ろうとしないので、啓人は「如何したの?」と声を掛けた。

「…タカト、」

留姫の頬が、まるでギルモンブローチのビーズのように真っ赤になっている。

「ルキ?」

啓人は首を傾げた。

「…取り合えず、先月と今日、…プレゼント交換みたいになっちゃったけど、一応、バレンタインとホワイトデーなわけなんだし。」
「うん。」

留姫にしては歯切れの悪い云い回しだ。

「だから、…まぁ、こう云う事、云っとくべきなんじゃないかって思って。」

啓人は今日、いろんな顔の留姫を見た。
今まで啓人が見てきた「留姫」と違う、別の角度から見た留姫。
今まで知らなかった留姫を見ることが出来て、啓人はとても嬉しかった。
そして。
留姫が今、少しはにかみながら云おうとしている言葉に薄々気付いてきて、啓人もまた、緊張で躰中の体温が上がっていくのを感じた。

「・・・アタシ、アタシはね、」

こんなこと云うの今更だけど。
ちゃんと言葉で伝えておきたいと思ったから。


「アタシ、タカトの事、好き。」


真っ直ぐ見据えた目の先で。

「…僕も、ルキの事、好きだよ。」

来年のバレンタインには、完璧なチョコレートケーキが完成することは間違いない。



END



*******************************************************


ルキタカ、バレンタインの続編、ホワイトデー編です。
前回のバレンタイン話を読んで下さった方のご感想でいっそ二人で手作りチョコを作るのも…と云うご意見にかなり萌えたので(笑)、参考にさせて頂きました。
書き終わったあとで、なんか先月と同じで単なるプレゼント交換してるだけみたいなノリになったので(そういう、いわゆる「恋愛」を感じさせないルキタカの関係も大好きなんですけれども)、やっぱりバレンタイン&ホワイトデーだし、先月出鼻を挫かれたルキちゃんにはちゃんと告白させてあげたいな、という事でラストの交差点のシーンを加えました。
改まって書くとなんかドキドキしますね(笑)

  • 2005/03/14 (月)
  • 『スイート・デイズ』

タグ:[ルキxタカト]

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