作品
スイート・デイズ 1
~タカトの場合~
「ルキ、はい、これ!」
啓人が留姫に手渡したのは、白い箱だった。
中からかすかに甘い匂いがしている。
受け取ってしまってからふと我に返り留姫は疑問を感じた。
「・・・タカト。なんなのこれ・・・。」
「何って、チョココートケーキだよ。」
にっこりする啓人。逆にムッとする留姫。
「何でタカトがアタシにチョコレートケーキを渡す必要があるのか聞いてるの!」
「何でって、今日はバレンタインデーだから・・・、」
「あのね・・・バレンタインって云ったら、普通女の子が男の子にチョコ渡す日でしょー?!」
「う、うん、そうだけど・・・ルキに渡したかったんだよ。」
(・・・如何いう意味なのよ、それ。)
相変らず啓人のすることには呆れてしまう。
それは真に受けて取っていいのか、深い意味はないのか。
「ルキ、チョコ嫌いだった?」
「そーじゃなくて!」
「大丈夫!初めて作ったんだけど、ちゃんとお父さんに教えてもらったし味見もしたから美味しいよ!」
「し、しかも手作り・・・。」
留姫はどっと疲れを感じて重い溜息をつく。
そして小声でボソッと呟いた。
「・・・これじゃ昨日からずっと今日の事を悩み続けてたアタシの立場は一体・・・。」
「え?」
その言葉を耳にした啓人はふと留姫が手にしている紙袋に目をやった。
中にはシンプルながら可愛らしくラッピングされた薄いピンク色の袋が見えた。
「ルキ、もしかしてその包み、チョコレート・・・?」
「うっ・・・どーせ、アタシのは手作りじゃないわよ!」
出鼻を挫かれて引っ込みがつかなくなっていた留姫は半ば強引に袋を啓人に押し付けた。
驚いた表情で留姫から包みを受け取った啓人は、一瞬のうちに顔を赤らめて満面の笑みを見せた。
「うわぁ、うわぁー!ルキ、これ僕にくれるのッ?!」
「何よ、いらないんなら返しなさいよ。」
「いらない訳ないよ!めちゃめちゃ嬉しいー!有難う、ルキ!!」
今にもその場で踊りだしそうな勢いの啓人に、留姫は受け取ってもらった嬉しさよりも先に照れまくってしまって、慌てて心にもない事を言い放った。
「云っとくけど、これは同じテイマー同士としての意味で渡すチョコだからねッ!」
勿論義理チョコなんかじゃないのだが。焦っていて云わなくてもいい事を口走ってしまった。
啓人はピタリと固まって、先刻とは打って変わり少し寂しそうになってそのチョコを見つめる。
「そっかぁ・・・じゃあ、みんなにもあげたの?リョウさんとかジェンとかヒロカズやケンタたちにも。」
「なんであいつらにあげなくちゃいけないのよ!」
「・・・じゃあ、僕にだけ?僕にだけくれるの?」
コロコロ表情が変わる啓人に留姫はペースを乱されまくっていた。
「つべこべ言わずに受け取りなさい!」
最終的には何故か命令口調になっている。
啓人は留姫の顔を正面から見て、真っ赤な顔で頷いた。
そしてとても嬉しそうな声で小さく「有難う」と云う。
そう云われるともう留姫は如何しようもなくなってしまった。啓人から受け取ったチョコレートケーキに視線を落として、ルキも有難う、と云った。
「ホワイトデーには、何かお返しするからね!」
明るい声で啓人にそう云われて、留姫はふと首をかしげた。
(・・・この場合、アタシも何か啓人にお返ししなきゃいけないの?)
***
留姫は家に帰り、啓人から貰ったチョコレートケーキの箱を複雑な思いで開けた。
チョコレートケーキは変な形だった。
留姫はちょっとだけ笑った。
一人では食べきれなかったので、祖母と母と三人で食べることにした。
バレンタインなんて今まで自分には無縁なものと思っていたし、別に啓人相手にロマンチックな展開など期待していたわけではなかったから、まぁこんなもんなんだろうと思いつつも、今日と云う日のために自分があんなに必死になってチョコを選んだり、受け取ってもらえるか心配で眠れなかったり、啓人の家に行くまでもの凄く緊張したことを思うと気が抜けてしまった。
そんなわけで何とも複雑な思いだったのだけれど。
母は留姫がチョコレートケーキを切り分けるのを嬉しそうに見ていた。
祖母は良い香りのする紅茶を入れてくれた。
なんだか気恥ずかしくなって口に運んだチョコレートケーキは、不恰好だけどとても甘くて美味しかった。
2月14日、バレンタインデー。
留姫が初めて、好きな人にチョコレートを渡した記念日のこと。
END
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ルキタカで初バレンタイン~。
女の子の告白デーなのに、何故か「啓人からチョコを貰った留姫の視点」で書いたのはやはり私がルキタカ(女の子攻め派)だからでしょうか(笑)なんだかこう云うパターンのほうがしっくりするかなって。「留姫からチョコを貰った啓人の視点」で書いてもいいんですけど啓人の場合「わーいルキのチョコールキのチョコ-ー!!(喜)」と素直に喜ぶだけでSS1本終わりそうなので(笑)それもまた幸せですけどね。
- 2004/02/14 (土)
- 『スイート・デイズ』
タグ:[ルキxタカト]