Digimon Novels

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作品

piece 11

◇

「何、あれ…」

外の異常な空気を察して建物から出てきた美樹と恵の声が震えていることに気付き、淑乃は空中を見上げた。

「シャングレイモンと――ミラージュ、ガオガモン…?」
(―――トーマ…?!)

はっと、目を見開く。今にも雨が降り出しそうな暗黒の空――上空に浮かび上がる二体のデジモン。

「如何して、大兄ちゃんとトーマ君が戦ってるの…?!」

知香の悲痛な叫びに淑乃は我に返る。
知香が駆け出していき、小百合が娘を呼び止めようとする動きを、淑乃は心ここにあらずの状態で見つめていた。

(大…トーマ…!!)


◇


「…ふざけるな…」
俯いた大が発した小さな声が、先ほどまでの感情任せの怒鳴り声から一変した事に、トーマは眉を顰めた。

「ふざけるな…ふざけるなよ…」

大の言葉と共に、ミラージュガオガモンの攻撃をかわし続けていたシャイングレイモンの動きにも変化が見られ始めた。

「なら、俺達が今までやって来たことは、何だったんだ…」

ぼそぼそと、低い声でマサルは呟く。独り言のようなその問いに、トーマは吐き捨てるように答えた。



「答えが必要かい?既に話すことなど何も無い!」







張り詰めていた糸が、切れた。





「ふざけんなよーーーーーーッ!!!!」





周りの空気を爆発させるように、大の怒声が響き渡った。

「なっ…」

あまりの勢いに、思わずトーマが怯んだ。
防御する間さえなく、一瞬の間に、トーマは大の拳を頬に受けていた。

「くッ…!」

どさり、と地面に叩きつけられたトーマを構いもせず、大はトーマの襟首を掴んで引き上げる。
二人の顔が近づいて、真正面からお互いの顔を突き合わせた。
トーマは大の瞳の中に、自分に対する明らかな憎悪を見た。

「俺達を裏切って、倉田に加勢するのかよッ!大義名分振りかざして、俺が戦いの元凶みたいに云いやがって―― お前にンなこと云われる筋合いはねぇんだよ!!」

大がトーマの首を締め上げる。苦しさにトーマが腕を振り、今度は大の頬を殴りつけた。
それでも、大はそんな痛みなど苦にならないほどの勢いで、トーマに掴みかかった。

「お前に、お前に何がわかるってんだッ!!俺が誰も守れないだと?!俺が誰も救えないだと?!お前にそんな事云う資格があんのかよ!!!」

大の激昂にシンクロするように、シャイングレイモンの動きに、尋常ではない異変が起きた。

「お前は如何だってんだよ!お前が俺を否定するのは勝手だよ!でもな、今までお前を支えてきた奴らに対して、お前は胸張れんのか?!何も云わずに勝手に離れてって――皆が、どれだけお前の事を心配したか――淑乃が、淑乃がどれだけお前を――」
「・・・――ヨシ、ノ…」

大がその名を口にした途端、トーマの瞳に戸惑いの揺れが生じた。
その変化が、大の怒りに最大の火をつけた。

「トーマ、お前だけは、お前だけは絶対に許せねぇ――!!」

人を、こんなに憎いと思ったのは、生まれて初めてだった。




◇




--------  …

………

……

… 、




気がついた時――大の目の前は、炎の海と化していた。
――…あ、れ・・・?
我に返り、自分は何をしていたのか、真っ白になっていた頭をぼんやりと動かす。

「この、馬鹿者が…!」

声に、ハッとして振り向く。
大を火から庇うようにして立っていたのは、バンチョーレオモンだった。

「…バンチョーレオモン…?お、俺…」
「云ったはずだ!バースト進化は、諸刃の剣だと…!」
「…え?」

顔を上げて上空を見る。
いつの間にかトーマとミラージュガオガモンは居なくなっていた。
そこに居たのは、一体の巨大なデジモン――憎悪の塊と化した、荒れ狂う異常なデジモン。
しかし、その面影は確かに、シャイングレイモンのものだった――

「シャイン…グレイ、モン…?」

大に纏わり付いていた黒い靄は、完全に身体から流れ落ちていた。
覇気を失って抜け殻のようになった大を叱咤するようにバンチョーレオモンが怒鳴る。

「お前には、アグモンの叫びが聞こえないのか!」
「…」
「お前の感情に押しつぶされそうになっていた、アグモンの叫びだ!!」
「アグ、モン…」

ゴォォン!!
シャイングレイモンが発した攻撃が、街を次々と破壊し続けていく。
それは意思とは関係無しに、防御できずに撒き散らしている炎だった。

「っ、シャイングレイモン!!」

大は立ち上がると、上空のシャイングレイモンに向かって叫んだ。

「もういい、もういいんだ!もうやめろ!!」

大の悲痛な声は、シャイングレイモンには届かない。
シャイングレイモンをあんな姿にしてしまったのは自分だ。
大の中にある憎悪の炎が、間違った進化をもたらしてしまったのだ。

「たのむ!!もうやめてくれ!!」

何時しか大は泣いていた。兄貴と慕って自分に絶対な信頼を寄せてくれていたアグモンを、自分は裏切ってしまった。
――トーマの云う通りなのか。俺は、何も出来ないのか――
大の涙が、握り締めていたデジヴァイスに零れ落ちる。
その時だった。シャイングレイモンの動きが止まり、雲の隙間から陽の光が差し込んだ。

「…アグモンッ!!」

シャイングレイモンが光に包まれ、進化が解けた。
大はアグモンが降り立った地面に走り寄った。
しかし――そこには、アグモンの姿はなかった。

「な、に…?」

目の前の現実に、大は絶望感に押しつぶされた。

「うそだろ…何でだよ…何で――」


◇


「大…!」

淑乃がその場に駆けつけた時、既にトーマとミラージュガオガモンの姿はなかった。
崩れるようにその場にうずくまっている大の後ろ姿を見つけ駆け寄ると、淑乃は大が抱いている物体に気付き、はっと息を呑んだ。
大が抱きかかえているのは、一個のデジタマ――アグモンの、変わり果てた姿だった。

「俺の…俺の所為なのか…」

大はその言葉だけを、何度も、何度も、壊れた機械のように呟いていた。

  • 2007/06/24 (日)
  • 『piece』※R-15

タグ:[トーマx淑乃]

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