Digimon Novels

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piece 6

◇

「…だからよ、敵の居場所が判ったんだぜ?!こっちから乗り込んで、一気に攻めちまえばいいんだよ!!」
「僕は反対だ。倉田博士が、そう簡単に自らの居場所をばらすようなミスをするのはおかしい。これは罠に決まっている」
「罠だろうが、カンケーねえよ!何時かは闘わなきゃならねーんだし」
「危険すぎると云っているんだ!」
「――ストップ!いい加減にしなさいよ、あんた達!!」

広い室内に大とトーマの怒鳴り合う声が響き、淑乃の鋭い声がそれを止めた。
淑乃に怒られると、二人とも言葉が続かない。不満たらたらの表情で、お互いにぐっと唇を噛んで黙る。
間に入り込めず、ぽかんとした表情のイクトが二人を見ていた。
はぁ…と、あからさまにため息をつく淑乃の姿を横目に、大はイライラで頭に血が上るのを必死で抑えていた。


ここは、デジタルワールドの『聖なる都』と呼ばれる地――と云っても、その正体は、大きなデジモン、エルドラディモンの背の上だった。
エルドラディモンの体自体が大きな宮殿になっており、その上で多くのデジモンが生息している。さながら動く城のようであった。

倉田博士の陰謀で、人間界とデジタルワールドの両方が非常に危険な状態に陥ってしまっている。
大たちは倉田の計画を阻止する為にデジタルワールドへ移動し、『聖なる都』にやってきたのだった。
そこで大は、驚くべき事実を聞かされる。
以前、『聖なる都』が危機に直面したとき、大の父親である大門英が、『聖なる都』を救ったと云う。
そのお陰で、最初は大たちを信用しなかった『聖なる都』のデジモン達が、大が英の息子だと言う事を知ってからは、態度を一変した。
大を救世主の息子と崇め、大層な持て成しをしてくれたのだ。
そして、大たちに全面協力することを約束してくれた。
大は、それがすごく嬉しかった。
もちろん、大は父親と自分は異なる個々の人間であることを自覚しており、父親の手柄を自分のものだと錯覚するほど愚かではない。
ただ、父親が自分の知らないところで、英雄として活躍していたと言う事実が、とても嬉しく誇りに感じた。
幼い頃、同級生たちに失踪した父親をからかわれたが、ほれ見ろ、何も知らないくせに――俺の父親はとても立派な人物ではないか、と。
憧れの父の息子である自分は、今こそリーダーシップを発揮して、敵と戦わなくてはならないのだ。
だと言うのに――
どうも調子が狂うのは、先ほどからトーマに突っかかられて、思い通りに動けないためだ。

(ったく、警戒しすぎなんだよ、トーマは…)

大とトーマは、DATSでチームを組んだときから、何かと意見が対立してきた。
最初はあまりにもタイプが違いすぎるトーマと自分は、チームなど組めないとさえ思っていた。
しかし、何度も任務を遂行し、デジタルワールドで共に戦ってきたトーマとは、次第に信頼関係も生まれ、今では淑乃と三人でのチームワークはそれなりに良好になっていたはずだった。
それがここに来て、何故いきなり以前のような関係に戻ってしまったのだろうか…。


そのときの大は、デジモン達から救世主と崇められていた父親の存在が嬉しくて、少しばかり浮かれていた。
だからその分、トーマの中に芽生えていた小さな心の傷に、気付いてあげる事が、出来なかったのだ。
そればかりか、今はデジモン達がトーマより自分に信頼を寄せている事に、トーマは不満を募らせていて、何かと自分につっかかって来るのではないか、という、小さな優越感さえも感じていた。

その日の夕食は、デジモン達がご馳走を用意しており、まるで宴会のような盛り上がりだった。
デジモン達は皆、英の息子が来たからにはもう安心だと笑い、今まで張り詰めていた日々を爆発するかのように騒ぎ出していた。
その中、一人だけ暗い表情のトーマが、席を立ち広間を出て行った。
大はそれに気付いていた。
しかし、大は、トーマに声を掛けることをしなかった。
心配そうな顔のガオモンが、トーマを追って広間を出て行く。
その様子を複雑な表情で眺めていた淑乃にさえ、大は何故だか苛立った。


◇


その日の、夜の事だった。

結局、大の提案した敵地に乗り込む作戦はトーマの反対により白紙になり、話し合いは明日に持ち越しとなった。
大は、デジモン達の勢い付いた闘志を削ぐような、空気の読めないトーマに腹が立った。
デジモン達が用意してくれた寝室は、大たち男性組と、淑乃とララモンの女性組に分けられていたが、険悪な雰囲気の大とトーマは、お互いに別室を希望した。
エルドラディモンの宮殿は多くの数の部屋が備えられていたので、特に困る事は無かったのだが、こんな状態で果たして倉田を倒す事が出来るのだろうか――と、イクトがとても不安そうに大を眺めていた。
自分より小さい子に気を遣わせてしまったことに、少し罪悪感を覚え、大は「だーいじょうぶだよ」と軽くイクトの頭をなでてやった。

就寝してもなかなか寝付けず、大はむくりと起き上がった。
横では、熟睡しているアグモンのいびき。少し離れたベッドで、イクトがやっと安心したようにファルコモンに寄り添って眠っている。
もう皆が寝静まった後のようで、アグモンのいびき以外は、静かだった。
大はどうせ眠れないのなら、明日の作戦に備え、少し宮殿内を散策しておこうと思った。
アグモンを起こさないようにそっと立ち上がり、部屋を出る。
窓の外は宮殿を囲むようにそびえる木々と、漆黒の空。
そこに浮かんでいるのは、満月だった。

――へぇ、デジタルワールドでも月が見えるのか…

否、人間界とは違う世界のデジタルワールドだから、それは月ではなく別のものなのかも知れなかったが、それは人間界で見る月と全く変わらない、綺麗な輝きを放っていた。
それにしても、やたら広い宮殿だ。
エルドラディモンは相当大きなデジモンだった。
しばらく歩き続けていた大だったが、もとより散策をしても何か妙案が思いつくわけでもなく、自分の寝室が解らなくなる前に引き返そうと思った。

そのときだった。
遠くから、小さな音が聞こえてきた。

それは話し声のような、かすかな音だった。

  • 2007/03/27 (火)
  • 『piece』※R-15

タグ:[トーマx淑乃]

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