Digimon Novels

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piece 4

耳元で、トーマの小さな息遣いが聞こえた。

14歳の少年にしては想像以上にしっかりとした体格をしている。背も淑乃より高い。
淑乃は身体が熱くなった。それは相手も同じだった。
抱きしめていた腕を少し緩めると、トーマはその隙を突いて淑乃から離れようとした。
淑乃は直ぐにトーマの顔に近づき、青い目を覗き込んだ。
トーマの表情は、明らかに戸惑っている。
普段の冷静な表情とのギャップが可笑しくて、淑乃は人差し指で彼の唇をなぞった。
こんなこと、今まで誰にも一度もしたこと無い。
周囲の友人たちに比べて男性にあまり興味が無い方だったし、色気がないと云われ続けていた。

「っ…」

トーマの白い頬が染まるのを見て、淑乃の胸も高鳴った。
飽くまで淑乃のプライドを傷つけずにこの場をやり過ごそうとしたトーマと、初めからそんなプライドなど無く、ただ醜い自分の感情を押し付けようとした淑乃は、何時かしらどちらとも無く顔を近づけ、唇を重ねた。
…そこには多分、愛情と言う甘い感情は存在しなかった。

トーマの隊員服の裾を掴んで、淑乃は指令室の奥にある仮眠室にトーマを連れ込んだ。
自分が今まで築いてきたトーマの信頼、DATS隊員としての自分の立場、それをこんな情けない浅はかな行動で、自分の手で粉々に崩してしまう。
そんな状況に、どこか快感さえ感じてしまう自分がいることに、淑乃は堪らず泣けてきた。

「…うっ、く…」

嗚咽を呑みこむことが出来ずに、細い声をあげた淑乃の頬を、トーマが親指で撫でた。
零れる涙を拭いてくれたその指に驚き、淑乃が潤んだ目を向けると、無表情のトーマの顔が映る。

軽蔑されているのだろうか。同情されているのだろうか。

トーマの掌が淑乃の頬を撫で、首筋、胸元まで滑り落ちてきた時に、淑乃は堪らず鼻についたような甘い声を出した。
「――んっ、ぁ、あ…――…」
まるで自分の声ではないかのような響きに、淑乃は熱くなった。
トーマの愛撫は、小憎らしいほどに、何処までも優しかった。
何時しかトーマの身体の中心も変化し始めている事に気がついて、それが淑乃にはとても嬉しかった。
そっと、服の上から撫で付ける。
中途半端な刺激に、トーマは唇を噛み締めていた。
…この少年の快楽の行く先を、今、自分の掌が支配している。

熱を持った其処に指を絡めると、湿った感触とトーマの息がリアルに伝わってきて――

再び目の前に白い光が見えて、淑乃の意識は、行為に溺れた。
仮眠室の質素な空間が、その時の淑乃を支配していた。
淑乃は一度もトーマを好きだと云わなかったし、トーマも云わなかった。
淑乃はトーマに抱きしめられながら、ああ、これが自分が望んでいたことなのかと気付く。

トーマの特別な存在でありたかった。
恋人のような、そんな深い関係でなくていい。
ただ、チームメイト以上の繋がりが、欲しかったのだ。

日本を離れても、自分のことを思い出してくれたらいい。
次に会った時に、自分のことを覚えていてくれたらいい。
それが醜い女であっても、トーマの記憶の隅にでも自分の名前があったらいい。

淑乃は、フラッシュのような白い光が何度も目の前に弾けるのを見た。


◇


仮眠室の隅に備え付けられたシャワー室で身体を流し終え、淑乃はまだぼんやりした意識のまま私服に着替えた。
指令室に戻ると、先にシャワーを終えて既に帰宅したと思っていたトーマがまだそこに居たので、淑乃はうろたえた。
とんでもない行為を犯してしまったと、改めて実感した。
どうしていいか解らずに、固まったままその場に立ち尽くす淑乃の前で、トーマは深くお辞儀をした。

「済みませんでした…許されない事をしてしまいました」

淑乃は一瞬、言葉を失う。

「な…んで、謝るのよ…先に誘ったの、私のほうなのよ?!」

少なくとも、謝罪されるような立場の女ではないのだ、私は。
しかし、トーマはゆるゆるを首を振る。

「淑乃さんは女性です。どんな理由があるにせよ、女性の方が身体の負担が大きいですから…男の僕の方に、責任があります」

そんな言葉が聞きたいんじゃない!
淑乃は無性に悲しくなった。
唇を強く噛み、痛みをぶつける矛先を失ってしまった淑乃に、トーマは云った。

「…淑乃さん、辞めないで下さい」
「…え?」

淑乃は泣きそうになって歪んだ顔を向ける。
トーマは切なげに微笑んだ。

「DATS、辞めないで下さい。淑乃さんの実力は、一緒に行動していた僕が一番よく知っています。淑乃さんと一緒だったから、僕はいつも以上の実力を発揮する事が出来たんだ」

思いがけない言葉に、淑乃は頬が紅くなるのを感じた。
それが本心ではなく只の励ましの言葉であったとしても、淑乃にとっては、強い救いの言葉だった。

「…6ヶ月たったら、日本に帰ってきます」
「――…トーマ」
「その時に、淑乃さんがDATSで僕を迎えてくれたら、僕は嬉しい」

今度はトーマは、にこりと笑って――その顔は、以前うさぎ屋に寄り道した帰り、淑乃に見せたあの素顔のままのトーマだった。
その顔が…急に抱きしめたくなるような、大人びた顔の後ろに隠れた危うい表情が、泣きたくなるほどに、好き。

「だから、絶対にDATSを、辞めないで下さい」

淑乃の頬に、一筋の涙が弧を描いた。
それは自己嫌悪に押しつぶされていた少し前の涙とは違い、綺麗な光を放つ涙だった。

その日が、トーマの亡くなった母親の誕生日であった事を淑乃が知るのは、それから随分後のことである。


◇


――6ヶ月後。
再会した淑乃とトーマを取り巻く環境は、以前とは全く異なったものになっていた。
それは、DATSに新たに加わった隊員――大門大の存在によって。

  • 2007/02/22 (木)
  • 『piece』※R-15

タグ:[トーマx淑乃]

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