作品
piece 1
1.
◇
その人物に対する第一印象は、とても綺麗な子、だった。
トーマ・H・ノルシュタイン。
13歳でストックホルム王立科学大学を主席で卒業したという天才児。
更に、オーストリア屈指の貴族である父親を持つという。
プロフィールを要約するだけでもこれでもかと言うくらい"完璧人間"のフルコースのようだ。
その上、自分より年下のこの少年の容姿が、芸術なみの美しさであることに、藤枝淑乃は驚き目を奪われた。
金髪碧眼に、羨ましいくらいに白い肌。
それでも親しみを感じるのは、どこか東洋人に近い顔立ちをしているからだろうか。
トーマは、デジモンの取り締まりと転送機の開発に携わるため、DATS日本支部に配属されることになった。
オペレーターの恵と美樹は、容姿端麗で紳士的なトーマに黄色い声をあげているが、淑乃は二人のようにはしゃぐ気にはならなかった。
普段、冗談交じりに「好きな言葉は玉の輿」などと嘯いている淑乃だが、何故かトーマに対しては、そんな感情は全く沸いてなかったのである。
淑乃が想像できる玉の輿とは、せいぜい医師とか弁護士とか、或いはプロスポーツの一億プレーヤーやら売れっ子ミュージシャンやらのレベルだ。
オーストリア貴族と云われても、もはや玉の輿の域を越えた家柄はあまりに自分とは住む世界が違いすぎて想像がつかなかった。
それよりも淑乃にとっては、トーマが自分と同じDATS隊員である事が、恋愛感情を起こさせない一番の要因であると考えていた。
ララモンとの出会いがきっかけで入隊したDATSではあったが、自分の能力を発揮できる天職だと思っている。
同じDATS隊員としての羨望の気持ちはあっても、自分の職にプライドを持っている以上、メンバーの一人であるトーマに甘い想いを寄せる事をしなかった。
プロとしての意識が、公私混同を避けていたのだ。
トーマは流石に優秀なエースメンバーで、淑乃とは実力も桁違いだった。
現場で行動をともにする事の多い淑乃は、トーマに何度も助けられた。
天才肌で冷静沈着に作戦を立てるトーマは少し近寄りがたい雰囲気を持ち合わせてはいたが、だからと云って人間的に冷たい訳ではない。
貴族特有のジェントルな態度は好ましかったし、職場の人間関係は良好。淑乃にとって、トーマは同僚としてベストな存在だった。
だから、ずっとこの関係が続くと。
淑乃は、そう信じて疑わなかったのである。
- 2007/02/07 (水)
- 『piece』※R-15
タグ:[トーマx淑乃]